3章 山猫とティアラ 13
青いマギナギアの声に茶の2機がそれぞれ再び抜刀。
谷間の入り口に向け戦闘態勢を整えると、そこに割り込むようにカヤが慌てた様子で声を上げた。
「待った待った!おそらくお嬢様だ。私の主人だ。武器をおろしてくれ」
すでに抜刀している2機を止めようと一歩踏み出したところで、地に突き刺していたハルバードを引き抜くと、その矛先を真っ直ぐにカヤへと向ける。
「勘違いしないで欲しいッス。わたしはまだあんたらを信用した訳じゃないんスよ」
そうきっぱりと言い放つ。
相手の言い分もわからないでもない。彼女らも伏兵を準備していたのだ、相手も予備戦力があると考えても不思議ではない。
とはいえ、このままティアと3機が激突するような状況は絶対に避けなければならない。
ティアの駆る白のマギナギアは短時間とはいえ確かに強力でその辺の野盗程度であれば、きっちりとした訓練を受けてないティアであっても圧倒することが出来るだろう。
事実、先日の野盗は即座に1機落とすことが出来ている。
だが、この3機は機体性能だけで押し切れるような相手ではない。万が一にでも対峙するようなことがあれば、ティアでは到底敵うはずもない。
(どうする、相手に信用してもらうにはどうするべきか)
ちらりと操縦席に映し出されている視界の隅にいるカザルへと視線を向けるが、彼は武器を捨てたまま動く気配はない。
先程も彼が先に状況に気づいていたというのにカヤに言葉を投げるだけで済ませているのだ。
面倒事は丸投げ、とでも言うかのような姿勢を見れば、最悪の自体になったとしても当てにするわけにはいかない。
ならば、自分がどうにかするしかないのだ。
「わかった、武器は捨てる。そもそもあなた達が野盗でないのであれば私達が戦う必要など無いんだ。頼む、武器を収めてくれないか」
ガチャン、と剣を足元に落とすと、ゆっくりと両腕を上げた。
こうして不戦の意思を見せれば、接敵した瞬間攻撃するという状況は避けられるのではないかと。
「そこまでする程の人なんスか?その人は」
彼女にしてみればどのような状況であっても武器を捨てるという選択は取らないのだろう。
武器を捨てたカヤに驚くような声を上げる。
「あぁ、そうだ。万が一ですらあってはならない」
「なら、余計話を聞くにはうってつけかもしれないッスね」
その言葉は半ば冗談にも近かったのだろう。
だが、それを冗談だと捉えられるほど、カヤの内心は平静ではなかったのだ。
「っ!やめろ!お嬢様に手を出すんじゃない!」
「動くなっス。どうするかはそのお嬢様次第っスよ」
声を荒げ一歩踏み出そうとするカヤの彼女としては予想外の反応に、思わずハルバードの穂先をぐっと更に近づける。
実際のところ、カヤの話を鵜呑みにしているわけではないのだ。仮に、まだ敵対するような素振りがあれば人質という形にも出来る。
そういった思惑があったことも間違いないだろう。
そして、その行為が事態を面倒な状況にするとは思ってもいなかった。
「隊長、敵機目視、白のマギナギア。やっぱ見たことねぇタイプだ」
「見たこと無いタイプ、っスか」
カヤへと向けるハルバードはそのままに、半歩体を回し入り口側へと視線を向ける。
操縦席に広がる光景の先には盛大に土煙を上げながら高速で接近する白のマギナギアが映し出された。
茶色ばかりの景色の中で一際目立つそれを目にし、彼女は自問するように吐き出した。
「確かに見たこと……いや、ちょっと待つッス……あれ、アルカディア…?」
「えっ?」
小さなその声にカヤが困惑の声を上げる一方、白のマギナギアからはカヤが予想していた通りの声が届く。
「カヤ!カザルさん!何が……っ!」
お互い状況が詳細に確認できる程の距離。
ティアの視点から見れば、知らないマギナギアが2機、こちらに対して剣を向けており、ティアかカザルか、そのどちらかが剣をすて棒立ちしており、そのどちらかが同じく剣を捨て両腕を上げながら見知らぬマギナギアに刃を突きつけられている、という状況。
そこから至る状況予測はある意味単純なものだ。
「っ!今助けます!!」
「お嬢様!いけません!」
「私も守られてばかりでは!」
カヤのその一言も彼女にしてみれば、自分は構わないから逃げろと、そう捉えられてしまった事もいたしかた無いことであろう。
仮に彼女がなんの力を持たぬ淑女であれば、あるいは言葉に従い踏みとどまったかもしれない。
がしかし、今の彼女は鋼の肉体を纏っているのだ。
つい先日野盗を2:1の状況で1機は撃破しているという経験から彼女から引くという選択肢を失わせてしまう過剰な自信ともなってしまっていた。
「はぁぁぁぁ!!」
「ちっ!」
仮に戦闘になった場合、どう動くべきなのか、そういった戦術的な知識など、彼女には持ち合わせていない。
目の前にいる敵をただただ撃破していく、そういった選択肢しか無かった。故に、最も自分に近い相手にその刃を振るう。
目標は前衛のマギなギア。振り上げた刃を垂直に叩きつけると、相手が両手でそれを受け止める。
ギィンと刃の擦れる音が響き、しかし受け止めた側の剣がわずかに沈み込んだ。
「くっ、こっちは両手だぞ!なんて力だ!隊長!反撃します!……隊長!?」
徐々に押し込まれていく刃をなんとか抑えながら声を掛けるが、その隊長はもはやこちらを見ていなかった。
ティアへと向けていた体を再びカヤへと向き直すと、ティアのマギナギアの頭部を鷲掴みにする。
「あんた!あのマギナギアは何処で手に入れたんスか!!言え!」
「あれはお嬢様が元々持っていた――」
「嘘をつくなッス!あれは王族専用機ッス!」
「なぜそれを――」
「きゃぁぁ!」
言葉を遮るように、彼女の背後から、ガシャァと何かが崩れ落ちるような音と悲鳴との合唱が聞こえてくる。
力の差で押し込もとしていたティアだったが、剣を受けた側が一枚も二枚も上手だった。
手首を返し剣にわずかな傾斜を作ると、単純に押し込んでいただけのティアの剣を滑らせるように受け流す。
愚直に押し切る事しか考えていなかったティアは、力の受け先がなくなった事で前方とバランスを崩し、たたらを踏んだ。
そしてダメ押しと言わんばかりに、相手の蹴りが背後から来れば、結果としてティアはうつ伏せに倒れ込む事になってしまう。
「姫様!!」
「姫様?まさか」
もはや悲鳴にも近いカヤの叫びにあわてて振り向くと、そこにはうつ伏せに倒れたティアへ向け剣を振り下ろさんとしている姿。
「エド!やめるっス!」
「っ!くっ!」
咄嗟の声に剣を止めようとするが、しかし一度動き出したそれは瞬時に止めることなど叶うこともなく、無慈悲にがら空きの背中へと振り下ろされた。
ガンッ!
鉄板と鉄板が衝突したような鈍い音が響き、そして数瞬後、高く舞い上がった剣がカヤの遥か後方に突き刺ささる。
「俺様の女に手をだそうってのは見逃せないな」
剣を振り下ろそうとしていたマギナギアは、空になったその手を大きく上に掲げ、そしてうつ伏せになったままのティアの横には、大きく足を振り上げたカザルのマギナギアが立っていた。
「っ……はぁ……」
まさに最悪の事態を目の当たりにするかと思っていたカヤは、思わず操縦席の中でずり落ちるように脱力し絞り出すように息を吐き出す。
「カザル…今回ばかりは、助かった……」
「フハハハ、普段からそうやってしおらしくしていればいいのだ」
「本当に…危なかったッス…」
ついさっきまで敵であったはずの相手ですら安堵の声を上げていることに
「あの…どういうこと、でしょう?」
ただ1人、理解が追いついていないティアが困惑の声を上げた。
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