3章 山猫とティアラ 11
カヤが2機のマギナギアとの戦闘を開始し、金属同士がぶつかりあう高い音が響き渡る中、カザルともう一人も再び刃を交えんとしていた。
「さて、ちょっと邪魔が入りそうだったが…これでゆっくり話ができるな」
「ふん、あんたと話す事なんか無いっすよ」
再び両者が武器を構え、マギナギアの巨大な足が石を踏み砕く音が2つ響く。
「ふっ!」
先に動いたのはハルバード側。
1歩踏み出せばそこはすでにハルバードの間合い。
振り出しは遅く、しかし瞬時に加速する円弧は的確に斜め上からカザルの肩口を狙う。
対するカザルは間合いを取る。軽い跳躍で後退すればそこは間合いの外。
空気を切り裂くように轟音を上げるハルバードの刃を拳一つで回避すると、着地の為に曲げた膝を伸ばせばそれは前への推力へと変換される。
ハルバードは長物と呼ばれる部類の武器に入る。カザルの持つ長剣と比較すれば、リーチ、威力共にずば抜けて高い。
しかし、その分欠点もある。
武器そのもののが超重量であるが故に攻撃後の隙が非常に大きく、長い柄はリーチを確保できるが手元がおろそかになる。
故に、基本的な長物の対処は、カザルが行ったように攻撃後の隙を付き懐に飛び込む事。
空振りに終わった一撃が切り返される前に懐に飛び込まんとするカザルだが、相手もそうやすやすとは実行させてくれなかった。
空振ったハルバードが地に叩きつけられると、そこを支点に片足を振り上げた。
「ぬっ」
曲芸のような動きで変則的なミドルキックなった足が、ガン!と大きな音を上げ、カザルの脇腹を捉えた。
既のところでガードに間に合ったものの、前への推力は打ち消される。
前進を押し止めると即座に反転。今度は逆の足でハルバードの柄を蹴り上げると、カザルの頭上には高々と掲げられたハルバードの刃が煌めいて
「これで!」
軽く柄を引き付ければ、
後は重力に任せた叩きつけが完成する。
「それではな!」
対するカザルの反応も早い。振り下ろされる刃に対し切り払う様に剣を振るえば、いくら超重量とはいえ全力で振り下ろされた訳ではない刃であれば、それを弾く事も不可能ではない。
弾かれた刃はカザルの横をかすめるように地へと叩きつけられる。
弾いた刃は高く振り上げられ天を衝く。
対となったそれぞれの刃には大きな差が存在する。
地に落ちた刃はその重量から即座に振り上げることは出来ないが、弾いた刃はその取り回しの良さ故に即座に切り返すことができた。
決定的とも取れる状況だったが、そうならなかったのは操縦者の技術力故だろうか。
地に落ちた刃を即座に振り上げることは出来ないが、手元に引き寄せる事は出来る。
刃を足元に引きつけつつ柄を天を衝くよう立てれば、柄が体の全面を大きくカバーする盾のように機能して、長剣の一撃はその盾に激突した。
ギャリッと刃と柄が噛み合う音が響き渡ると、ハルバードを持つ両手で力任せに押し出すとそこには僅かなスペース。
ハルバードを振るうには近すぎるその距離だが、カザルはあえて距離を取る選択をする。
その脳裏には、以前見せた、回転による後退に合わせた一撃があったのだろう。
対する相手はというと、カザルの警戒するあの動きではなく、単純にバックステップを取るだけにとどめている。一度防がれているという事実に、その動きはうかつには出来なかった。
図らずして、お互いに距離を取る行動となり、流れた一旦止まることになった。
「ふー、足癖が悪いな!」
「ふん、余計なお世話ッス」
「そんなんじゃ嫁の貰い手が無いぞ。まぁいい女なら俺様が貰ってやってもかまわんが」
「誰が野盗なんかと付き合うかッス」
「む、それなら野盗でなければ良いということだな」
「ふん、考えてやらないでもないッス」
「よーし、ちゃんと聞いたぞ。それならこんなものぽーいだ」
そう言うやいなや、手にしていた剣を文字通りポイと地面に投げ捨てた。
あまりに唐突な行動に対峙している相手すらも何が起きているのか一瞬理解できず、完全に空気が凍ってしまう。
ガランガランと鳴り響く剣が落ち着き、しばしの沈黙が過ぎた後、真っ先に動き出したのはカヤだった。
「は、はぁぁ!?!?カザル、貴様何を言って、いや、何をしているんだ!」
「何って、野盗やめたらこの子が俺様の物になるっていってんだぞ。そりゃぁやめるだろ」
「何をバカな事を……いや、違う!そもそも私達は野盗ではないだろうが!」
「そんな事より、そこのお前、言われた通り野盗やめたぞー。これで俺様のものって事でいいな?」
「バカッ、そんな事とはどういうことだ!そっちのお前も真に受けるんじゃないぞ!」
「あーこの煩いのは気にしなくていいぞ。カヤもすでに俺様のものだからな。俺様を止めることなどできないのだ」
「私がいつ貴様のものになったというのだ!」
「この前、私のことは好きにしていいよっ、って約束したぞ」
「えぇい、気持ち悪い声を出すな!あと変に脚色するんじゃない!誤解されるだろうが!」
「じゃぁ野盗のカヤは野盗をやめた俺様との約束をやぶるのか?」
「話を掘り返すな!余計ややこしくなるだろうが!」
「あーあー、もう良いッス。気が削がれたッスよ」
ギャーギャーとやり始めた二人に呆れた声が割り込んでくる。
構えていたハルバードをドスン、と地に突き立て構えを解く。
それを見ていたのか、2機のマギナギアもやや戸惑った動きをしながらも剣を収めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます