2章 大小の刃 05

 戦闘開始直後、白のマギナギアは相手の2機に対して圧倒した戦力を見せつけていた。

 本来であれば翻弄される側であるはずの白のマギナギアがこの場所へ駆けつけた時に見せたずば抜けた速度を駆使して逆に2機のそれを翻弄する。

 またスピードだけでなく、パワーでも2機よりも格段に上だったようで、白のマギナギアが振るう剣を受けるたびに、野盗側のマギナギアは腕を弾き飛ばされる始末。

 なんとか1機が鍔迫り合いに持ち込みはしたものの、もう1機が攻勢に出る前に力押しで弾き飛ばされた挙句、がら空きになった胴にその有り余るパワーでの強烈な蹴りを食らってしまった。

 その衝撃で中の操者が気絶したか死亡したか定かではないが、ともあれ、白のマギナギアもまた、生身の2人と同じように開始早々に1機を沈黙させることに成功していた。

 のだが、それも1機を沈黙させるまでだった。

 1機が早々にのされた事に警戒したもう1機が積極的な攻撃を控えていると、時が経つほどにみるみるうちに白のマギナギアの動きが精彩を欠きはじめた。

 そして現在、鍔迫り合いをしている白と茶色のマギナギアは、開始とは打って変わって逆に白のマギナギアが押され気味になっている。

 野盗の2機のマギナギアは外見から判断する限りは全く同じもののように見えるだけに、白のマギナギアが押し込まれている理由が良くわからない。

 よくわからないが、野盗としてはまさに好機だ。

 ビクビクとした動きで受け身だった野盗が積極的に攻撃しはじめていた。


「くっ!」


 なんとか流れを押し戻そうとするかのように、白のマギナギアも反撃するものの、当初のような圧倒的パワーが無い。

 袈裟斬りに振り下ろした刃は開始直後のパワーを持ってすれば相手の剣もろとも腕を叩き切っていただろうが、今では軽く振られた刃にあっけなく弾き返され、更にはその衝撃にすら耐え切れなかったようによろめいた。

 そんな姿を横目に見ながら、大剣を回収した男が未だリーダー格を押さえつけたままのカヤの元へと、のたのたと歩いてきた。


「何だ何だ、お前さんとこのお嬢様は。でかい口叩く割にお粗末な攻撃だな」

「貴様に何が分かる」

「ド素人だってことは分かるぞ」


 男の目に映る白のマギナギアが崩れた体制に追撃しようとする相手のマギナギアに対してなんとか剣を切り戻し牽制の攻撃を放ったが、それだけだ。

 ただ剣を振り回しただけとも言えるそれに野盗のマギナギアが距離を取ってくれたのは相手もまたお粗末だったからだろう。


「あんな軽い斬撃なんぞ避けるまでもないだろうに」


 そうつまらなそうにつぶやくと、女性に背を向けて歩き出した。


「どこに行く」

「どこって、アラスタだよアラスタ。お前も早く逃げた方がいいぞ。あ、そうだ、俺様と一緒に行くか!うむ、それがいいな」

「…は?」


 彼女にとって唐突すぎる発言に思わず情けない声を上げてしまう。

 彼のその提案は完全に、他の立場を考えもせず、己の立場のみを考えた発言だ。

 確かに、彼の判断は彼の立場からすれば正しいだろう。

 マギナギア同士の戦いに人が介入出来るはずもなく、生身の2人にはもはや出来ることは何もない。そうなれば、劣勢になりつつあるマギナギアの戦いに決着が付く前にそそくさと逃げ出すのも無理は無い話だ。

 だがそれも、彼の立場だからこそだ。

 彼女の立場からすれば、到底、受け入れられる話では無いのだ。


「お嬢様を見捨てて逃げるなどできるはずもない!」

「あー、そうか。そういう感じなのか、お前。うーん、お前も結構いい線行ってるんだがなぁ…まぁそういう事じゃ仕方ないか。できれば死なないようにしるんだぞ。いい女が居なくなるのは世界の損失って奴だ」


 一方的に、何かに納得するようにうんうん、と頷いた男は彼女の返事も聞かずに、再び背を向けスタスタとあるきだしてしまった。

 それも仕方がない事だ。

 成り行きで共闘らしい事もしたが、結局はほんの数分前に出会っただけの男。

 彼自身はかなりの腕前だったようだが、生身でマギナギアと戦えるはずもなく、彼女たちが来なければ命の危険すらあったと思うが、そこに何かしらの見返りを期待してはいけないのだろう。

 下手な恩義を感じて死んでしまっては元も子もない。

 そう割り切ることが旅を続ける秘訣なのだと彼女は理解した。

 いや、理解することにした。

 故に、彼女もそれについて言及することはできず、小さく唇を噛みながら去っていく男の後ろ姿を眺めるだけだった。

 男から再び視線を2機のマギナギアへと向けようとした時、視界の隅にあるものが入る。

 それは戦闘開始直後に白のマギナギアから蹴りを食らったまま沈黙している1機のマギナギアだ。

 見たところ、マギナギア本体には大きな損傷は無いように見える。

 蹴りの衝撃で動力部とも言えるマギナコアが破損していた場合はその限りではないが、場合によっては使うことが出来るかもしれない。

 そう、思いがよぎった時、彼女は自然と口を開いていた。


「待ってくれ」

「おう?」

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