2章 大小の刃 04

 4対2と、2対1の戦いが開始されてものの数分後、状況は1対2と1対1になっていた。


 大剣を振るう男へと向かった2人の野盗はというと、一人はそんな馬鹿でかいもの振り回せるかと愚かにも真正面から向かっていき、予想外の速度で振り回された大剣に手に持っていたナイフごと真っ二つにされた。もう一人は大剣を振り終わる隙を狙うという多少は頭を使った行動を取ったのだが、あっさりと大剣を投げ捨てた男の飛び蹴りに対応できず、顎に膝が直撃。そのまま昏倒し、奪われたナイフの一突きで終了。

 この間、1分にも満たなかった。


「なんだ、口だけか。大したことないな」


 やれやれと言わんばかりに首をぐるぐると回し、投げ捨てた大剣を拾いに行く。

 そのついでにカヤの方へと視線を向けると、こちらも丁度一人目を片付けたところだった。

 結果から経過を推測するに、おそらくは繰り出したナイフをソードブレーカーに絡め取られ、そのまま脇腹を一閃、といったところだろうか。

 切り裂かれた脇腹から赤い血肉を撒き散らしながら、野盗がどぅと地に伏せる。

 一瞬で3人を片付けた事になるのだが、リーダー格はそれでも諦めないのか、カヤへと攻撃を続けていた。

 上手いこと無力化させて人質に、とでも考えているのだろうか。


「おー、偉そうにしてるだけあってその辺の雑魚とは多少は違うか」


 相手のソードブレーカーを警戒してか、切り払うような動作はせずに一貫して突きによる攻撃を繰り返している。切り払いは打撃面が広いだけあって命中率も高いが、同じように防御もし易い。さらにソードブレーカーはそういった攻撃を受け止め、絡めとり、敵の攻撃を無力化させることに特化した武器、いや防具とも言えるか。

 対ソードブレーカーとしては妥当な対応だろうか。

 だがしかし、突きばかりに固執していては攻撃がワンパターンになる。

 案の定、リーダー格の攻撃は全く当たる気配を見せず、カヤに完全に見切られているように見えた。


「しっかし、随分とお上品な剣筋だなぁ」


 カヤが繰り出す剣筋はまさにお手本通りというべきもの。洗練された型に従って体が自然と動くようになるまで、繰り返し繰り返し訓練を続けた結果の賜物といえる。

 想定されている相手に対しては無類の強さを発揮するのが型を持つ剣技の有用な部分ではあるが、逆を言えば想定されていない、突飛な動きをする相手に対しては個々の柔軟性次第になる。特定の動きを安定して繰り出せるから有用なのであって、それが崩れた時、決定的な隙が出来やすいということでもある。


 それ故に、リーダー格が不自然にすり足をしている事に気づいた彼はそれに介入しようと、先ほど野盗にとどめを刺し、投げ捨てた野盗のナイフを拾い上げた。


「お前では私には勝てない。諦めろ」


 女性の振るった横薙ぎの一閃をリーダー格が深く沈み込んで躱すと、先ほどまでのすり足で探し当てた握れる程度の小石に手を伸ばしていた。


「けっ、そんな自信があるならさっさと俺を殺してみせろ…よっ!」


 リーダー格は上体を起こすと同時に左手に握りしめた石を相手の顔面へと投げつけ、更にそれに隠れるようにして脇腹へとナイフを繰り出す。

 こうなるであろうと予測していた大剣の男は、勝利を確信した顔のリーダー格へと右手に構えたナイフを投擲しようとし、そして感心の声を上げた。


「おぉ、やるじゃないか」


 カヤは投げつけられた石に対し、ガードも回避もしなかった。


 通常、人に取っての急所である顔面に対してはどうしても防御しなくてはならないという意識が働く。それ故に、咄嗟の顔面への攻撃は多くの者であれば打ち払うなり回避するなりといった防御行動をとってしまう。

 その行動は近接での戦闘における大きな隙となりえる。

 たとえ頭では投石で受けるダメージと大きな隙を作る事とでどちらが不利となるのかが理解出来ているとしても、石を受けるという選択肢を取れるものはそうは居ない。

 しかし、彼女はそれを行った。

 投げつけられた小石を甘んじて頬に受けることで、結果として防御による隙を発生させること無く、逆に相手の思惑を潰すことに成功したのだ。

 リーダー格の攻撃は先ほどまでのような回避されることが前提の踏み込まない突きとは違い、勝利を確信したそれであり、体の体重を載せ一歩を踏み出す一撃となっていた。

 踏み出すということはそれだけの時間が掛かるということであり、また体制を整えるのにも時間がかかるということ。この時間が、リーダー格にとって致命的な時間となった。

 カヤが余裕を持った動きで左手のソードブレーカーにナイフを絡ませると、くるりと手首を返し、リーダー格のナイフを弾き飛ばす。

 ナイフが当たった場合に来るはずだった衝撃に備えた体重の移動は、それが無くなったことでバランスを崩す事となり、リーダー格はナイフを弾き飛ばされたままたたらを踏む。

 更に追い打ちを掛けるように、彼女が前のめりになった男の背中へとロングソードの柄を叩きおろせば、リーダー格は無様にもうつ伏せの状態で倒れこむ事になった。


「ガハッ」


 叩き潰された衝撃で肺の空気を強制的に吐き出されたリーダー格が苦しげに呻く。


「お前はまだ殺さない。聞きたいことがある」


 うつ伏せに倒れこんだ男の首の後ろを踏みつけながら、鋭く光るロングソードを男の顔の横へと突き刺して見せる。いつでも殺す事は出来るのだと、そう思い知らせるために。


「お嬢様は……」


 生身の4人を制圧したことを確認すると、カヤは視線を巡らせる。

 その視線の先では白と茶色のマギナギアが鍔迫り合いをしていた。

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