2章 大小の刃 03
ウルスキアが開発したこの兵器はまさに過去の常識を覆し、戦場を一変させた。
ウルスキアが大陸一の国へと台頭できたのもこのマギナギアあってこそだ。
唐突に現れたマギナギアはまるで、汚れを知らぬ仕立てたばかりのシルクのように白く、つややかな装甲を持っていた。
シルエットこそフルアーマーという言葉どおりではあるが、無骨なだけではなく、胸部や肩部には細やかな意匠が施されているのが見て取れる。
まさしく風の如き速さで馬車の横へと立った白のマギナギアがゆっくりと膝をつくと、その肩から短く切りそろえた黒髪の女性が音もなく降り立つ。腰からロングソードと護身用のナイフ―形状からしてソードブレーカーだろうか―を引き抜き、ゆっくりと構えを取った。
黒髪の女性が地に降り立ったことを確認すると、白のマギナギアもまた立ち上がり、背にマウントしていたマギナギア用の巨大な剣を引き抜き、野盗に切っ先を向ける。
「引きなさい!数はそちらが上でしょうが、マギナギア相手に戦うほど無謀ではないでしょう!」
先ほどのどこからか聞こえてきた声はどうやらこのマギナギアの操者の声のようだ。
マギナコアを搭載しているマギナギアは風の精霊であるシルフィアの加護を用いて遠くの声を聴き、そして遠くへと声を届かせる事が出来るらしい。大分離れた場所に居たにも関わらずこちらの様子が理解できていたのもそのおかけだろう。
「た、助かった……」
思わず商人がつぶやく。
それはそうだ。マギナギアはもはや人が数人居たところで太刀打ち出来る代物ではない。
攻城戦用の兵器でも持ち出さないかぎり、マギナギアに対抗出来るのはマギナギアのみ。
快進撃を続けていたウルスキアに対しリッテンハルト王国が抵抗を続けられたのも、同国がマギナギアの残骸などから研究を進め、独自開発に成功したからこそである。
命ばかりか、積み荷まで救われたと商人が安堵しきっている中、マギナギアの登場時こそ引きつった顔をしていたリーダー格がクツクツと笑い出した。
「ク、クク、そうだな、マギナギア相手じゃぁ俺達もどうにもならねぇ……なんていうと思ったかよえぇ!?出番だぜお前ら!」
リーダー格が自信ありげに片手を振り上げると、バキバキという音とともに、彼らの背後にある林がゆっくりと割れていく。
現れたのは、彼らと対峙しているものと同じ5mもの巨体を持つ持つもの。
マギナギアだ。
違うとすればそれは、1機ではなく、2機居るということだ。
「なっ…野盗ごときがマギナギアを2機も持っているなんて」
当然の事ではあるが、マギナギアはそう安いものではない。
なにせともかくでかい。でかければそれだけ材料費も掛かる。
そして何よりも、マギナギアの動力源であるマギナコアは並の魔道具技術者程度では作成することはできない代物だ。
とてもではないが野盗ごときが持てるような物ではないはず。
白のマギナギアの操者の女性もこればかりは驚きを隠せない。
「ククッ、どうするよマギナギア操縦してるお嬢さん。マギナギアの数でも負けちまったなぁ?それとも何か?あんたらが俺たちと遊んでくれるってことか?」
再び自分が有利になったとみるや、ニヤニヤ笑いを復活させたリーダー格が二刀を構える黒髪の女性を舐め回すように見つめる。
「そっちのデカブツの方はわかんねぇが、こっちの黒い方は中々いい女じゃねぇか。あんたがおとなしくするなら荷馬車の方は見逃してやってもいいんだぜ?」
対する黒髪の方はといえば、舐め回すような視線にまるで反応せず、寧ろ存在そのものが無かったかのように白のマギナギアへと声を掛けた。
「ティアお嬢様、引きますか?」
「いいえ、やるわ。野盗の扱うマギナギア2機……なんとかしてみせる。カヤこそ大丈夫?」
「雑魚が4匹。問題ありません」
完全に無視されたリーダー格がピクピクと頬を引きつらせ、ナイフを構え直した。
「いい度胸じゃねぇかあぁ?4対1で何ができんのか見せてもらおうじゃねぇか!碌な死に方出来ると思うんじゃねぇぞ!」
生身の4人がナイフを構え直し、2機のマギナギアが、白のそれと同じようにマギナギア用の剣を引き抜く。まさに一触即発の状態になったその時に、この場に居る全員がすっかりと忘れてたものが、その場にスッと割り込んできた。
「盛り上がってるとこ悪いが、4対1じゃなくて、4対2な?」
それはそそくさと馬車から逃げ出していたはずの男。己の身長よりもでかい剣はすでに鞘から抜き放たれており、肩に担がれている。
「一人増えたところで変わりゃしねぇ!やっちまえ!」
リーダー格の声を皮切りに4人の野盗が一斉に走りだす。
「じゃ、そっち二人は任せた」
戦闘が始まったというのにも関わらず、相変わらずなんともやる気のなさそうな空気をまとう男に対し、マギナギアから降りてきたカヤと呼ばれた黒髪の女性も不信感を抱かざるをえない。
とはいえ、もはやそんなことを気にしている状況でもない。
彼女が小さくコクリと頷くと、4人と2人はマギナギア同士の戦闘に巻き込まれぬように、その場を離れながらもお互いの距離を詰めていった。
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