42.悪用

「それで?」


「い、以上です……」


 とある場所――〈輝星の箱舟アーク・オブ・ブライト・スター〉の日本拠点で、任務失敗を幹部に報告していたエドは、自身にどんな罰が下るのか、恐ろしさを感じていた。


「まったく、お前が優秀だからといって、お前の部下までもそうだとは限らないだろう。今回は死亡したから良かったものの、もしそいつらから情報が漏れたら、俺にまで処罰が下るんだぞ!」


 テーブルに叩きつけられた拳が大きな音を立てた。

 エドはビクリと萎縮すると同時に、イレギュラーを起こした人物――大晴を強く恨んだ。


「すみません。神楽大晴がいるとは予測できず……」

「まあ良い。目撃者はそいつら以外いないんだな?」


 エドはコクリと頷いた。


「神楽家には手を出せない……依頼者を始末する必要があるな」

「それは俺が……やります」

「いや、こちらで始末しておく。お前には少し休暇をやるから、次の作戦まで休んでろ」

「……分かりました。失礼します」


 エドはお辞儀をして後ろのドアから、退出する。


「はぁ……〈ザ・ブレイブ〉か。神楽大晴……24歳、C級能力者、後天覚醒者ア・ポステリオリ、〈調和の象徴ハーモナイズシンボル〉第七席・神楽雨竜の息子……やっかいだ」


 〈輝星の箱舟アーク・オブ・ブライト・スター〉には目的がある。

 神の祝福ゴッド・ブレスによって、世界中の力関係が変化し、それに乗じて世界の覇権を握る。


 と、〈輝星の箱舟アーク・オブ・ブライト・スター〉の底辺構成員たちは思っている。

 しかし実際は、神の祝福ゴッド・ブレスを受けて神の存在を確信した人物が、立ち上げた密教だったのだ。


 初めは〈輝星の箱舟アーク・オブ・ブライト・スター〉という名前ではなかった。

 少人数で神の存在に感謝をする組織だったのだが、徐々に狂気が増していき、現在の犯罪組織のかたちになる。


 〈輝星の箱舟アーク・オブ・ブライト・スター〉のトップ陣は、先天覚醒者ア・プリオリである。

 人間の欲望は醜いもので、さらなる力を得るため、いつの間にか神への感謝ではなく、神の力そのものを求めるようになった。


 〈星の記録〉で世界中の情報を得て、犯罪行為を繰り返す。

 そうして多方面から自身の力を成長させ、神になろうとしている。

 だから人体実験やエニグマの研究、エニグマの交配実験に宇宙兵器開発といったことも行っているのだ。


 本来〈星の記録〉を悪用すれば、徐々に制限がかかっていくはずだ。

 しかし、この悪用のラインが緩い。


 人間の禁忌――記憶操作や遺伝子操作、クローン作成、などを直接行わなければ、制限にかからないことが知られてしまっている。


 その能力がある限り、一般の組織では情報力で敵うはずもなく、吸収合併を繰り返し、世界最大の犯罪組織にまで成長した。


 その組織力はSランククランを優に超える。

 確実に潰すなら、〈調和の象徴ハーモナイズシンボル〉最強の力が一席分は必要だろう。


 もはや想力覚醒者アポストルでは無い者が、壊滅できるほど弱くはない。

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