38.誓いの刻印

「おーい! 大丈夫かー?」


 遠くから〈ザ・ブレイブ〉マークが入った外套を着た集団が駆け寄って来る。


「大晴さん! 無事ですか?」

「ああ、大丈夫だ。向こうに被害者の死体がある丁重に扱ってくれ。そこにあるのは敵の死体だ……何か手がかりになるようなものがないか探してくれ」

「了解です!」


 大晴は〈ザ・ブレイブ〉に入団して七年になる。

 結成初期の古株で部下からは、結構慕われている方だ。

 大晴の指示に団員たちはテキパキと行動開始する。


「それと被害者の女性には、起きたら心のケアなどの面倒を見てやれ」

「分かりました」


 女性団員に被害者のことは任せる。

 最近の大晴はこういったところでリーダーの資質を見せ始めているのだ。


「大晴さん! この二人の死体は特に重要そうなものはありませんでした。しかし、香織さんが切り飛ばした指と指輪があります。この指輪から裏にいる組織など、調べることができそうです」

「分かった。ありがとう。その犯罪者の死体と残った指は放置して構わない。指輪だけ回収してくれ」


 香織が魔法で切り飛ばした指は人差し指と中指だった。

 そこに嵌められた指輪は珍しい造形で、何かの文字が刻印されていた。


「誓いの刻印……か?」


 誓いの刻印。

 現在、契約書があまり有効ではない。

 個人の力が上昇してしまったため、法的拘束力が弱まってしまったのだ。

 契約書にサインをしていても、気に食わなければ暴力で解決しようとする者がいる。


 そこで開発された誓いの魔術。

 契約を魔術によって締結することで、魔術的拘束力を持たせるのだ。


 これには様々な形式がある。

 刻印は最も普及しているやり方だ。


 今回は指輪に刻印を施してあったが、過激な組織とかだと、体に刻印を強制されることもある。


 誓いの刻印は、組織にとって裏切りをなくすための重要な道具なのだ。


 誓いの刻印を持つものは、その組織にとって裏切られたくない者であり、それ相応の地位であると予想できる。

 大晴から逃げ切れる程の能力の持ち主はそうそういない。

 今回の敵対組織の規模がある程度分かった瞬間だった。


「さて、クランホームに帰るぞ」


 〈ザ・ブレイブ〉のメンバーは隊列を組んでダンジョンを来た方向に戻っていく。


「ふふふ」

「どうした?」

「いや、七年前もこうして大晴に背負ってもらったなぁ〜って」

「ああ、あのときか」


 舞佳は痺れて上手く動けないため、大晴に背負われている。

 初めて出会ったときのことを思い出しながら、行動を開始した。


 迷宮ダンジョンの帰り道は、特に大きな出来事も無く、クランホームに帰還できたのだった。

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