34.神の力

 ――その時。


 悪夢ナイトメアの頭上に巨大な穴が出現した。

【夢幻世界】と〈理想郷ユートピア〉も閉じ、迷宮ダンジョンの天井に出現した穴からは、青空が見える。

 どこか外に繋がっているようだ。


 〈裁きの雷さばきのいかずち


 穴の先から途轍もない光と轟音が響き、悪夢ナイトメアを焼く。

 青白く光る雷は神の裁きのごとく、一瞬では終わらず悪夢ナイトメアに落ち続けている。





 悪夢ナイトメアが今まで慧たちを無視して虚空を眺めていたのは、その先にいる地球の神に対して【封神】を発動し続けていたからだ。


 それによって力を封じられていた地球の神は、悪夢ナイトメアからの干渉が急に無くなったことに驚いていた。


「まさか……下界の使徒にアレを倒せるものがいるはずがない……」


 神は【封神】の効果が切れると、急いで下界を覗いた。

 目の前に大きな鏡が無数に出現し、複数の戦場を俯瞰することができる。


 すると自分に攻撃を仕掛けていたエニグマが地球に進出し、暴れていることに気がつく。


「なんと……」


 その中には想力覚醒者アポストルになり悪夢ナイトメアと戦う者たち、科学の知識と兵器で抵抗している者たちがいた。

 人間の抵抗力の高さに嬉しさと頼もしさを覚えた。


「ふふ……今回の地球の文明は素晴らしい。これでようやく果たせるか……」


 しかしその使徒と人間たちが今、自分を封じていた悪夢ナイトメアやエニグマの餌食になろうとしている。


 まだ回復しきっていない神だったが、力を振り絞り〈裁きの雷さばきのいかずち〉を鏡の向こう側に放つ。





 悪夢ナイトメアは自分に落ちてくる光の柱を見た瞬間、体を流れる雷と体の端から焼け崩れていく光景を最後に命を落とした。

 声を上げる暇すらなく、神の一撃のもとに屠られる。


 慧たち想力覚醒者アポストルを圧倒していた悪夢ナイトメアの最後としては、実に呆気ないものだった。


「……倒したのか?」


 六人の疑問を何者かが答える。


『――よくやった私の地球、そしてその使徒たちよ……』

『――特にそこのケイ……君の頑張りで【封神】の対象が、私から君に移ったのだよ。おかげで止めを刺すことができた』

『今は力が使えないだろうが、地球にいる限り、徐々に回復していくから安心すると良い』


 これが耳に届いた瞬間、心温まる不思議な声の主は神であると、六人は感じ取った。


『私はしばらく、地球を守る結界の構築と自身の回復のため休眠する。その後に、改めて話そう……』


 神の声は非常に厳かな雰囲気を纏っていたが、最後の方は疲労を感じさせる声に変わっていった。


『しばらく、地球を任せるぞ』


 ――神はいる。

 この場にいる六人だけが知る真実。

 大いなる存在に地球は守られていたのだ。


 そんな存在に地球を任された使徒六人は、エニグマに負けないほどの力を求めるのだった。


 慧は魂力の回復とワイズの成長を待ち、再び悪夢ナイトメア級のエニグマに負けないため、聖域での修行を本格的に開始する。

 ワイズは得意な演算とシミュレーションで、魔術の開発を進める。


 各々、次なるエニグマに備え、行動を起こすのだった。





 ――そして舞台は7年後の2106年へ――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る