31.悪夢との戦闘(3)

 エニグマの親玉――悪夢ナイトメアは吹き飛んだ体を再生させながら起き上がる。

 先程の攻撃が何でもないかのように再生を終え、ギョロリと六人に視線を向けた。


 ゾワッ!


 ――その瞬間、想力覚醒者アポストルの六人は背筋が凍るような感覚に陥った。

 怯えという感情をすぐに追い出した六人は、悪夢ナイトメアに攻撃を加える。


 しかしどんなに斬っても、どんなに貫いても、どんなに破壊しても――すぐに再生し、まるで夢であったかのように元通りになってしまう。

 悪夢ナイトメアは、そんな矮小な六人を興味を失ったかのように意識から外し、虚空を見上げながら停止する。


【マザーゲート】


 慧たちを囲むように展開された四個のゲートからは、小型のエニグマが這い出てきた。

 小型でも侮ってはいけない。

 悪夢ナイトメアの能力によってすぐに進化を果たした強力な個体が、無数にいるのだ。


 悪夢ナイトメアは自ら手を下すまでもないと判断し、眷属たちに排除を命じた。


「おい! どうする!」


 シュタールが目の前の小型のエニグマを斬り飛ばしながら、他の想力覚醒者アポストルたちに話しかける。


「まるでダメージを負っていない感じがしましたね」

「うむ。かなりまずい状況であるな」


 黒いスーツに真紅の血を操る姿がヴァンパイアのように見えるスキアーと、破邪の光翼を広げ眷属を屠っていくオドゥオールが、そう言いながら左右に展開する。


「全くもう! 際限なく出てきますよ!」


 全身から凄まじいオーラを出しているツーユーが、後方のゲートに攻撃を加えているが、あまり効果はない。


 全員が小型のエニグマや眷属たちを倒している中、アルファと慧の二人は悪夢ナイトメアの倒し方を模索していた。

 アルファはその眼で悪夢ナイトメアのコアらしきものを発見し、慧は自己再生を続ける【夢幻世界】の能力の突破方法を考えていた。


悪夢ナイトメアのコア――心臓の隣に何か特別な器官が見えたわ。あれは……おそらく魂の臓器ね」


 そこには血液を体に送るはたらきがある心臓とは、逆のリズムで鼓動する魂の臓器があった。

 魂の臓器については分からないことが多いため、正式な名称や詳しいはたらきは知られていない。

 魂の臓器が備わっている生物は、神獣や古龍など神話の生物に多く、不死性――というよりかは、不滅性を有している。

 現代の地球にはそういった文献や資料が無いため、すべて想像の産物であったはずなのだが……


 とにかく、魂の臓器を持つ生物は総じて強力な個体であるのだ。

 肉体に依存しない魂の臓器があれば、体が滅びても精神が無事なら肉体の再構築が可能になる。

 時間をかければ復活が可能なのだ。

 だから神話の生物たちは討伐が難しく、封印されることが多い。


 アルファの一言で、悪夢ナイトメアもそれと同じものを持っていることが明らかになった。


「なんとか破壊するしか無いだろう。封印の方法なんて、考えていなかったんだから」


 慧が魂の臓器の破壊を提案する。

 それが最も良い方法なのかは、現段階で判断がつかない。

 だが、これ以上もたもたしている方が、消耗を加速するだけで無意味だ。


「それじゃあ、コアの破壊は良いとして、あいつの【夢幻世界】の自己再生はどうするんだぁ?」


 シュタールがコアの破壊にはまず肉体の再生をなんとかしなければならないという、本末転倒な状況に突破方法はないか考える。


「それは俺がなんとかする」

(精神汚染……では不十分だろうな。あいつを精神から崩すのは今の自分では不可能に近い……で、あるならば……)


 慧が【夢幻世界】の突破を考えている間、他の五人は未だゲートから出現し続ける眷属たちを倒していた。


「ケイ! 任せたぞ!」

「【夢幻世界】を無効化した後のことは任せてください」

「コアの破壊は任せなさい!」


 シュタール、スキアー、アルファの頼もしい声が聞こえたと同時に、慧は極限の集中状態となった。

 外部からの情報は最低限に、内部へと意識を向ける。


(ワイズ! 演算とシミュレーションを手伝え!)

『ますたー。りょうかいですー』

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