19.本物の輝き

「あの魔術はあと何回発動できるんだ? この戦闘中だけでも三回は発動しているぞ」


 慧は超能力を発動する際、魂力を消費して効果を得ている。

 魂力とは慧が自分の経験――使用時に魂を強く意識することから――をもとに名付けたもので、他の超能力者たちの間では、魔力や妖力、霊力など呼び名は様々だ。


 つまり何が言いたいかというと、エニグマも同じように発動できる魔術の回数が、決まっているのではないかと考えたわけだ……


(まだ発動できると考えたほうが良さそうだな。まだ疲れている様子は感じないし、未だ翼が使い物にならないにもかかわらず、魔術を発動したまま浮かんでいる。あの巨体を浮遊させ続ける以上の魔力が残っているだろうな……)


「思ってた以上に厳しい状況だ」

「JWQJWQJWQ!JHJHaaaa!」


 ドラゴンのエニグマは、まるで嘲笑うような目で慧を見て咆哮した。

 それと同時に今までよりも苛烈に攻め始める。


「――あの赤黒い光線意外はなんとか避けられるな……あれが来る前になんとかしないと……死ぬ!」


 もう後がない慧は焦り出すが、興奮は高まるばかり。

 いつもより心臓の音が大きい。いつもより視野が狭くなる。

 しかし――


「ふふ……ははは……なんでこんなにも楽しいんだ? 追い詰められているのに、もっと戦いに没入したいと思ってしまう……想力に覚醒してから、どこか狂っている自分を認識して、それを受け入れてしまった。使徒となったことで、人間から乖離した精神を持った影響か?」


 慧は得意な精神系超能力で、自身の精神を明確に感じ取れる様になった。

 その時から精神を見てきたからこそ感じた違和感。

 使徒になったときに変化した精神世界と人間とは異なる精神構造。


 自分が人間をやめたことに気がついてもそれほど驚かなかった。

 その理由は先天覚醒者ア・プリオリであるお前はバケモノだ、という迫害を受けた過去があるからだろうか。


 しかしそんなことは大晴をはじめ、それなりの理解者ができたことで、いつしか気にならなくなった。

 そして想力覚醒者アポストルとなっても、同じ仲間がいることをしっかりと認識している。


 偽りで飾られていた慧の精神は本物の輝きを放ち始めたのだ。

 ――それがどんなに狂っていても、どんなに妖しくても慧にとっての本来の光であることには変わりない。


「すぅ……はぁ……やるか。――〈胡蝶の夢〉――」

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