15.燃える闘志は蒼く静かに

 あれから数日立ち、神楽家の安全が確保された。

 神楽武闘の達人を中心にエニグマに対し無双していたようだ。


 大晴の父親――現神楽家当主も掃討戦に加わり、神楽武人という神楽家の戦力だけで事態を収めてしまった。

 エニグマの大群は最新科学兵器を持った部隊ですら苦戦する。

 それを、古い名家だとしても民間人が倒し切るのはすごいことだった。


 ノースハット公園で避難所生活をしていた慧たちは、しばらく神楽家でお世話になることになった。

 神楽家当主との挨拶を終え、部屋を与えられた慧たちは早速休むようだ。


 未だ不安が残っている香織と舞佳の二人は同じ部屋を希望した。


 大晴はしばらく家族との話し合いがあるとかで、慧は部屋で一人だ。


「――〈星の記録〉……並の超能力者では対処不可能なエニグマがいるな」


 NES結成後の会議で決めた方針に従い、中国の奪還を急ぐ。

 そのためにはまず、後方の安全――日本をエニグマから守らなければならない。

 慧は日本にいるエニグマの内、戦闘力が突出した個体のみを倒す予定だ。

 それ以外はNESの超能力者や軍に任せることで、彼らの成長も見込めるという寸法だ。


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 名前:近衛慧

 性別:男

 年齢:17


 戦闘力:2466

 想力:1534


 称号:使徒

 討伐:悪夢の眷属

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 ここ数日間、瞑想による修行を行った。

 慧の想力は前回より34上昇し、それに伴い戦闘力も61上昇した。


「修業によって、ステータスが上昇するのか」


 ステータスを上昇させる方法はいくつかある。


 慧は精神系統の超能力の適正があったおかげで、瞑想修行法でも数値が大きく上昇した。

 反対に、ただ単純な筋力トレーニングを行っても、上昇幅はもっと少ないはずだ。


 人それぞれに合った修行法というものが存在する。

 それを実行することが、強くなるための近道であると慧は実感したのだった。


「皆もう行動を起こしているだろうか? 中国の奪還は激しい戦いになるだろう。俺よりも強いツーユーでさえ、倒せなかったエニグマが何体もいるからな……」


 慧は変わってしまった世界やエニグマとの死闘に対して、激しい興奮を覚えていた。

 あの平和な世界だった頃の自分は、全力を出すこと無く延々と修行を繰り返すだけだった。

 実戦の機会はあったが、どれも慧には刺激の少ないもので……


 世界は退屈――今までの慧の認識だ。

 修行は好きで、暇さえあれば欠かさず行っていた毎日は楽しかった。

 しかし、修行をすればするほど戦闘欲も高まってしまい、それを本気で発散できない状況に段々嫌気が差していた。


 まさにこの事態は、地獄は天国に、天国は地獄に。

 慧という隠れた異常者と、正常者である人類の世界に対する認識が逆転した瞬間である。

 慧は不謹慎だとは思いつつも、浮かんでくる笑みを止められなかった。


「こんな顔、大晴たちには見せられないな」


 いつもクールな慧を見ていた彼らは驚いて拒絶してしまうかもしれない。

 気味の悪いやつだ! 非常識な奴め! そんな罵倒を受けることを容易に予想できたが、何とも思わない自信もあった。


 こんな自分でも大晴は受け入れてくれそうな気もするが……

 ただ慧は見せる気も明かす気もなかった。


 慧の純粋な戦闘欲にそっと火をくべ、その蒼い炎は静かに燃え上がっていく。

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