14.イージス作戦(2)

 〈斥力結界:イージス・オクタグラム〉は半球状に展開される予定だ。

 メインビーコンとサブビーコンからなっており、合計三十三本のビーコンを配備する必要がある。


 メインビーコンは結界の中心に一本。

 サブビーコンは円を八等分してできる八芒星の外側の角に十六本。

 そして線を結んだ時にできる内側の八角形の辺の中点――これを頂点とする八芒星を外側と同じようにして十六本。

 この形状にすることで、より強い結界――二層八芒星型斥力結界が完成する。


 これは本来、宇宙開発で隕石群から防御する目的で開発されたものだった。

 計算上、内側の八角形に八芒星を無限に作ることができるので、強力な結界になりやすい。

 ちなみに宇宙規模でいうと月の墜落を受け止めるには、約一万層八芒星斥力結界が必要だ。


「隊長! ビーコンの設置が完了しました!」

「よし。ご苦労。では直ちに帰投する!」


 乱れぬ動きで撤退の準備をしていると、索敵担当の二つの班から緊急信号が届いた。

 どうやら、エニグマが接近しているとのこと。

 信号を受け取った隊員に冷や汗が流れる。


「隊長! 索敵班からエニグマの接近情報です! 北と東の二班による索敵によると、足が速いエニグマがいるそうです!」


 隊員の報告に隊長は一瞬で判断を下す。


「――迎撃する! 索敵のA班とB班は人数を編成し直すから集まっておけ!」


 隊長のよく通る声に従い、A班とB班は装備を整え集合する。

 迷いなく動きだす様子から、練度の高さが窺える。


「索敵C班、護衛D班、工作E班は敵正面で隊列を組め! 初撃は荷電粒子砲を放つから準備を頼む」

「了解です!」

「さて、A班とB班は横からの遊撃に六名、万が一の場合に備えて退路確保に四名だ。速やかに分かれてくれ。重要な立ち位置だ。頼むぞ!」


 すべての指示を終え、自分の武装を整える隊長は司令部にも報告をする。

 どうやら近くの部隊を応援に向かわせるそうだ。

 ただ、エニグマの到来には間に合わないので、それまで持ち堪える必要がある。

 急ぎで飛ばせば攻撃用ドローンだけは間に合うと言われ、作戦に組み込んでいく。



「エニグマが目視が可能な距離まで来ました!」

「総員! 作戦開始!」


 AIによって制御されたドローンがエニグマの上空で待機する。

 正面では荷電粒子砲というチャージ式の兵器の発射準備に入った。


 現れたエニグマの数はおよそ二百。

 そのほとんどが子供くらいの体躯をした小鬼で、数体だけ狼のようなエニグマに騎乗している。

 その中心には漆黒の鎧を纏った禍々しい騎獣と、それに跨がる多腕の鬼面武者。

 その手には鋭く大きな剣状の刃のあるグレイブという武器が握られている。

 距離が縮まるごとに、空気が重く伸し掛かるような圧力を感じた。


「まだ待て……まだだ……今だ! 撃てー!」


  隊長の掛け声と同時に、亜光速に至るまで加速した荷電粒子が撃ち出された。

  一瞬で鬼面武者がいる場所まで到達し、射線のエニグマのほとんどが死亡する。

  ――が、鬼面武者を討伐することはできなかった。

 

  「――。xcxcxc! xzxzxz!」


 流石に鬼面武者も一撃でここまで被害が出るとは思わなかったようで、油断を突いた一撃は人類側を有利にする。


 しかし――鬼面武者は優れた戦闘力の持ち主だ。

 眼前に迫る亜光速の攻撃を直感で避け、腕の一本を犠牲にするだけで命は助かった。

 即死した騎獣には目もくれず怒り狂い、耳が痛くなるほどの怒声を上げる。


「作戦の第二段階目へ移行せよ!」


 エニグマに大打撃を与えた後は、掃討作戦に移行する。散らばった雑魚はドローンと隊員たちが次々に倒していく。


 残りは鬼面武者のみとなった頃、応援の部隊が到着する。

 その部隊の協力により、なんとか夕方には鬼面武者の討伐が完了した。


 三十名いた隊員の内、四名が死亡し、残り全員が傷を負うという結果に終わった。

 途中合流した部隊の死者は一名、負傷者は多数だ。


 作戦は成功とは行かなかったものの全滅は免れ、数の差を覆し、死者を五名で抑えたその手腕は評価されることだろう。


 この戦いは人類にとって大きな意味を持つものとなった。

 それは人類の科学でエニグマの強力な個体も討ち取れるということ。

 世界中の国が希望に湧くのは確定事項だ。

 それほど、エニグマと人類の戦闘力の差は大きいのだ。

 


「た、隊長! あれを見てください!」


 そんな達成感に満たされていた隊長は、隊員の切羽詰まった声を聞いて、心臓が跳びはねた。

 腕と足に包帯を巻き付けた隊員が、空を指差しながら叫ぶ。

 そこには――

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