13.イージス作戦(1)

「――こちらはポイントD3。司令部、応答せよ」


 周囲の建物に少しでも紛れられるように加工された装備を身に着けた一人の人物が、情報端末を手に状況を伝える。


『こちらはNES‐JapTH日本支部東京軍司令部。感度良好。どうぞ」


 返ってきたのは女性の声で、この作戦のオペレーターだ。


「作戦は順調です。未だエニグマは出現していません」

『では引き続き作戦を実行してください。但し、対処しきれないエニグマが出現した場合は速やかに撤退してください』

「了解。――通信終了」


 特殊な合金で作られた装備に身を包み、大きな槍のような発信機を地面に突き立てる作業を進める隊員たちを見ながら、隊長は経過報告をする。


 NESには非超能力者である軍人も存在している。

 彼らはエニグマの討伐がメインではなく今回の作戦のような任務が多い。

 要人の護送や施設の防衛、兵器の開発などだ。


 彼らは瓦礫の山と化した東京の重要施設区画の一つに足を踏み入れていた。

 三十名の隊員を五つの班に分け、索敵班三つ、護衛班一つ、工作班一つで作戦を実行する。


「索敵班! 状況は?」

『こちら異常なし!』

『同じく異常なし!』

『変化なし。異常ありません!』

「よし! 索敵を続けてくれ」


 数日前までは光と音と人に溢れていた商業区のビル群は倒壊し、未だ漂う粉塵がこの場所まで絶望を運んでいた。

 隊員の間には重い雰囲気が漂っている。


「工作班! 慎重に装置の運搬を頼むぞ! 失敗は許されていない」


 大きな槍のような装置は、侵入を防ぐ結界を展開するためのビーコンだ。

 特殊な電波を送受信し、宇宙空間に大量配備された太陽エネルギー変換装置によって、〈斥力結界:イージス・オクタグラム〉を起動することができる。


 大量の電力によって結界の境界付近は強力な斥力が発生する。

 超強力な磁力の壁ができると考えれば分かりやすいかもしれない。

 近づきすぎれば人体に悪影響を及ぼすこともある、戦略級の結界だ。


 その斥力の強さは生物が突破するのはほぼ不可能な程強いものだ。

 もし内側に取り残されてしまったら、外に出るには結界を解かなければいけない。

 人の移動も制限されてしまう結界の用途は、主にエネルギー施設や危険物質の倉庫を守るためだ。


 結界によってエネルギー施設が使用不可の状態になってしまうが、エニグマの破壊行動で大爆発が起きてしまうかもしれない。

 また、危険物質が撒き散らされてしまう可能性もあった。

 それを未然に防ぐための作戦は、今のところ順調のようだ。


「護衛班! 警戒は怠るな! 索敵を抜けてくるエニグマがいないとは限らないからな」

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