12.世界最強の六人(2)

「ツーユー心配するな。ここにいる者たちで必ず中国を奪還してみせるから」


 今にも泣き崩れそうになっているツーユーを支え、元気づけるようにアルファは言う。

 涙を浮かべたツーユーとってその言葉は、頼もしく、それだけで心に余裕が生まれた。


「初めまして、近衛慧このえけいです。アルファはいつも急なので……奪還云々うんぬんは今聞きましたが……もちろん協力しますよ」


 慧が自己紹介をしながら、握手をした。

 女性らしい手だが、所々に努力の跡が見られる。

 勇気づけるように力強い握手をすると、相手からも同じように返ってきた。


「シュタールだ。まあ、あんたに言われなくても――エニグマの討伐は任せておけ……それとケイと言ったか? 俺の弟分なんだろ? よろしくな」


 シュタールはツーユーと握手をした後、慧とも挨拶を交わした。

 シュタールと慧の年齢は近い。

 それにアルファに拾われた同じ過去を持つ者同士、兄弟として接する相手ができたことに、少し嬉しく感じていた。

 シュタールは体格が良く、手も大きいため、力一杯握られた慧の手は赤くなっている。


「私の名前はオドゥオール。大地の精霊士で妖術が得意だ。エニグマの討伐には全力で臨むので、よろしく頼む」


 続いて、オドゥオールという男性が自己紹介をした。

 見た目は民族的な服を着た二十代後半という感じだが、本来の年齢はその倍ほどある。

 ツーユー、シュタール、ケイとは親と子ほど離れているのだ。


 また、能力を発動していない彼らには見えていないが、肩と頭に乗った二体の精霊も挨拶をしている。

 温厚そうなオドゥオールに似て、綺麗な魔力と浄化の結界を纏っている二体の精霊は、オドゥオールの妖術の先生だ。

 オドゥオールが子供の時からの付き合いで、姿形はその時の気分次第で変わる。


「ツーユーです! ……皆、ありがとう。私も内側から抵抗するよ。みんなが来るまで絶対に耐えきってみせる!」


 ツーユーは慧たちの援軍到着まで、耐えきってみせると意気込んだ。

 この場にいる彼らは、現世では地球の各地にいるため、中国に到達するのに少し時間がかかる。


 それでも、ツーユーは元の自身に満ち溢れる顔つきへ戻っていく。

 この場にいるアルファたちが、たとえ離れた場所にいても心強いと感じたからだ。


「先程も名乗りましたが改めて……スキアーと申します。皆さんよろしくお願いします」


 先程の会議で司会を務めていたスキアーだ。近くで見るとさらにスマートな印象を受ける。

 ダークスーツを着こなしたその姿は、どこかの貴族のような雰囲気を漂わせていた。


 彼はアルファの一番の部下でもあり、想力覚醒者アポストルとしてアルファと同等の能力者でもある。

 先程のがらくた並の価値しか無かった会議では、アルファの部下の内の一人として振る舞っていたが、この場では対等な存在として振る舞っている。

 

 この場にいる六人は想力覚醒者アポストルで使徒なのだから、揃ったときにはアルファの部下のスキアーではなく、想力覚醒者アポストルのスキアーとして振る舞いなさい、とアルファ本人から言われたのだ。


「さてさて、自己紹介も終わったことだし、これからどうするか詰めていくよ」


 アルファがエニグマ討伐兼中国奪還作戦の内容を話し始めた。

 もうすでに大体の作戦は出来上がっているみたいだった。

 金色に光る瞳は世界を事細かく見抜き、最適な未来を見通しているようで、迷い無く作戦を伝えていく。


「皆の現在地はここであってる?」


 テーブルに広げられた世界地図に六人に対応した駒が置かれている。

 慧が日本の東京。

 シュタールがドイツのベルリン。

 オドゥオールがタンザニアのアルーシャ。

 ツーユーが中国の北京。

 スキアーがイギリスのロンドン。

 アルファがブラジルのリオデジャネイロ。


「そして――これらがたった一体で、都市を壊滅に追い込めるレベルの眷属の位置よ。これはあくまで、被害状況から予想したもの過ぎないから、正確じゃないわ」


 次に置かれた駒は、エニグマの眷属以上の戦闘力を持つのものの位置だ。

 この駒が置かれた場所には、想力覚醒時に討伐した眷属よりも数倍強力な個体がいる。


 アルファはそれぞれの想力覚醒時、討伐した眷属の強さをリストにまとめていた。

 六人の戦闘力は現在2500前後。それから割り出した眷属の数値は約1200ほどだ。


 対して、今置かれた駒の眷属たちの戦闘力は約2700。

 想力に覚醒してもなお、苦戦の可能性が残っている。


 そして、中国に顕現したエニグマの親玉と思われる個体の戦闘力は不明だ。

 小型のエニグマを眷属レベルに強制的に進化させたことも考慮に入れると、総合の戦闘力の数値は数千では足りず、万の領域まではあるだろう。


「エニグマの親玉には全員で当たる。眷属やそれ以外は個人で対処しよう。君たち以外では厳しそうなエニグマがいたら、それの討伐も頼む。各自、道中の眷属を倒しつつ、中国へ向かってくれ。これ以上細かな作戦は、お前たちには必要ないだろう。なにか情報を得たら〈星の記録〉の専用領域を作成して、メッセージをくれ」


「「「「「了解!」」」」」


 全員の声が揃う。

 こうして世界最強の六人が動き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る