11.世界最強の六人(1)

「シュタールちゃん! ケイちゃん! 元気だった〜?」


 会議のときとは打って変わって、緩い態度のアルファがシュタールと慧に話しかける。

 しかし、鋭く冷たい雰囲気を漂わせていた彼女の変わりように驚くような人物はいなかった。


 会議後、残った六人の間になんとも言えない空気が漂う。

 名前を呼ばれた二人は「またか……」と、思いつつも久しぶりの再開を喜んでいるようだった。


「「お久しぶりです……(ちゃん付けで呼ぶな!)」」


 十数年ぶりに再開した恩人。

 相変わらずな彼女に二人は思わず苦笑いがこぼれた。

 それでも幼い頃、自分を拾って育ててくれた母親なのだ。

 邪険にすることなどありえない。


「オドゥオールもツーユーも元気そうで良かったわ」

「あなたも元気そうで何よりです。精霊たちも喜んでいます」


 オドゥオールは、かつて自分もちゃん付けで呼ばれていたことを思い出し、二人を見て過去を懐かしんでいる。


 オドゥオールという男性は二十代後半の見た目だが、本来の年齢はその二倍ほどある。

 自分でも正確な年齢は知らないそうで、アルファと出会ってから大体そのくらいの年月が過ぎたという認識だ。

 そんな彼よりも若く見えるアルファの歳はいくつになるのか……誰も触れることはない。


 ひとつ言えることは、オドゥオールが子供の時から今の姿のままだということ。

 肌や髪の艶が衰えることを知らず、いつまでも美しいまま姿に本当に人間なのか疑わしい。

 超能力によるものなのか、この世界に知るものはいない。


「師匠! お久しぶりです!」

「ツーユー、あなたは生きていてよかったわ。それと今は師匠ではないのだからアルファと呼んでね」


 かつてアルファは、仙道の頂を目指すツーユーの師匠でもあったのだ。

 中国に訪れたとき、周囲に馴染めず浮いていた彼女に仙道の才能を見出し、師事したことがあった。

 ツーユーは落ちこぼれと呼ばれていた自分に進むべき道を示し、仙道の頂の片鱗を見せてくれたアルファに憧憬の念を抱いている。


 普段のツーユーを知る人が今の彼女を見たら、どう思うだろうか?

 しっかり者で頼れる姉御肌な女性と、部下に慕われている彼女の変わりように、目を剥いて驚くに違いない。

 まるで尻尾を振る犬のように喜びを表現するのは、アルファの前だからだ。


「分かりました! アルファちゃん? アルファさん……アルさん!」


 彼女は切り替えが早く、本当はとてもフレンドリーな人のようだ。

 ころころ変わる表情は見ているだけで面白い。


「あ、あの、アルさん……創ってくれた聖域、守れなかったんだ……ごめんなさい」


 しかし、突如落ち込んだ表情に変わったツーユー。

 もし尻尾があったら垂れ下がっていただろう、そんな気持ちの落ち込みようだった。


 彼女が言う聖域とは、仙道において重要な役割を持つ場所のことだ。

 アルファが創った聖域は、とある霊峰にある湧泉ゆうせんで、仙気向上の修行によく用いられる。


 万里の長城に出現したエニグマの軍勢は、そのまま彼女の修行場である霊峰にも進軍し、飲み込んでいった。


 現在の中国は万里の長城に沿って展開したエニグマたちによって包囲され孤立状態。

 今や人の住む大陸の約四割はエニグマによって蹂躙されてしまった。


 ツーユーもこの領域から出れば、包囲された中国の中だ。

 中国にはツーユーと双璧を成す先天覚醒者ア・プリオリがいたが、その人も戦死してしまい、絶望的な状況が続いている。

 中国には、聖域が多くあるためこのまま蹂躙されると、損失はかなりのものになるだろう。


 そう言って落ち込んだツーユーに、アルファは優しく声を掛けた。

 かつて、自分を導いてくれた頼れる師匠だった頃のように……


「ツーユー心配するな。ここにいる者たちで必ず中国を奪還してみせるから」

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