9.魂の覚醒者とバケモノの親玉
一方、世界の各地では、魂の覚醒者が誕生していた。
「アルファ様。ご無事で何よりです。バケモノの解析は順調に進んでいます」
「ふむ……」
アルファと呼ばれた女性は、部下の報告に空返事をする。
何かに集中した様子で、虚空を眺めている。
視界に表示されたステータスを眺めるていると、外から見る人には何をしているのか分からない。
だが、アルファの部下のひとりは、そんな彼女に集中力を削ぐような質問はしない。
「戦闘力……想力……なにかを基準に数値化しているの?」
研究者気質のあるアルファ・セイントは、新たな力の実験やバケモノの研究を進める。
今後彼女が〈星の記録〉に記したバケモノの情報は、超能力者の生存率の上昇に貢献することになるだろう。
――〈
人の気配が一切ない夜の街に、月光によって輝く剣が舞っていた。
よく見ると剣には最新技術による様々な加工が施されており、切れ味や頑丈さを兼ね備えている。
その銀光は、慧が戦ったものと同等のバケモノの全身を斬りつけ、ダメージを与えていく。
凄まじい剣術のセンスは、まるで未来を見ているかのように彼を導いて、一切のダメージを受けずに勝利してしまった。
「……他愛もない」
バケモノの金属のような外殻を、超能力を用いた剣術で圧倒した彼の名前は――シュタール。
慧と同じく
ある意味、慧の兄弟とも言える存在だ。
本人たちの面識は無いが……
「――大地を怒らせるなぁ! 〈
彼はそのバケモノが発生させた地震を鎮めた。
それは樹海の民族由来の妖術で超能力の一種だ。
「〈
木や地面から半透明な霊魂が出現し、相手に纏わり付く。それによってバケモノの視界や探知機能を遮ることが可能だ。
徐々に取り込まれて、最後には奇形樹になってしまう。
彼の名前はオドゥオール。身につけたアクセサリーは見た目に反して高性能である。その中でも特に目立つペンダントはアルファ・セイントからの贈り物だ。
三個の宝石が連なったペンダントトップは、『調和』『友愛』『浄化』の意味が込められている。呪いや病気を退ける効果があるのだとか……
彼は自然を愛する祈祷師で、二歳の頃から大地を司る精霊に妖術を教わっていた。
アルファ・セイントと出会って〈精神感応〉を会得してからは、自然との親和性が増したと話している。
バケモノが自然の権能を悪用したことで、オドゥオールは自然から怒りの感情を受け取った。
彼自身も自然を侵食していくバケモノに怒りを感じていたこともあり、それはバケモノの排除に積極的になった瞬間だった。
「こいつら! 次から次へと!」
怒りが込められた女性の叫びが聞こえてきた。彼女の名前はツーユー。
仙道を極めるため、あらゆる力を求めている。
今まで会得してきた力は、バケモノにも十分に通用していたが、数が多すぎてもはや手に負えなくなっている。
ここは本来敵国兵士の侵入を阻むための長城であった。
だが――現在はどこからともなくやってくるバケモノの進軍を、辛うじて抑えているという程度の時間稼ぎにしかなっていなかった。直に突破されることだろう。
その長城の一角にツーユーとその仲間たちがいた。
〈
過酷な仙道の先に会得することができる能力を発動する。
ツーユーが具現化させたオーラの羽衣は、とても美しい輝きを宿していた。
身体能力や攻撃の破壊力が増し、バケモノを一撃で屠っていく。その姿は戦場を大いに沸かせた。
しかし、際限なく現れるバケモノに後退を余儀なくされる。戦況は不利の状態から動かない。
「ダメだ。埒が明かない」
策を考えようとしたが、バケモノ共はそんな暇を与えてはくれない。
『――xugxugxug』
そんな彼女に追い打ちをかけるように、空に漆黒の裂け目が発生する。
その裂け目から、悍ましい音とともに大量の何かがこぼれ落ちてきた。
ドロリとした液体は黒く染まった巨大生物の形を成していく。
――戦場にバケモノ共の親玉が降臨した瞬間だった。
人間たちの叫びとバケモノたちの歓喜で、戦場はパニックに陥った。
兵士たちが戦うことを放棄して逃げ出し、戦線が崩壊する。
親玉の降臨によって、バケモノ共の勢いは増し、中には姿を変えるように進化する個体も出現した。
進化後の強さは、慧が死にかけたバケモノと同等レベルだ。
それが、あっちこっちに現れてはどうしようもない。
「撤退だ!」
ツーユーとその仲間たちも敗走を決意した。
ツーユーが先頭になって、進化したバケモノを屠りつつ撤退する。
すでに魂の覚醒済みであるツーユーの前に、バケモノ共は進化後だろうが関係なく倒れていく。
結果――ツーユーとその仲間たちは戦場からの撤退に成功したが、バケモノ共に長城を占拠されてしまった。
国境沿いに築かれた長城はバケモノ共に利用され、広く展開される要因になってしまった。陸路が断たれ、一部ではバケモノ共の包囲が完成している地域も存在し始めている。
――全世界死者数約30億人。世界は絶望の中、ただ時間が過ぎていく。
この緊急事態は2099年4月から続き、世界人口の約20%が命を落とすことになる。
異星人の侵略なのか? 超生物兵器由来の技術暴走なのか? 様々な憶測が飛び交った。
ただ事実としてあるのは、生態系のピラミッドの頂点が人類ではなくなったということだ。
人類滅亡――そんな絶望が蔓延していく。
緊急で
会議では歴史上初めて、すべての国の意見が一致した項目も出たようだ。
人類は世界が絶望の淵に立たされる中、立ち上がる者たちが現れることを祈っていた。
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