7.権力の一端

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 名前:近衛慧

 性別:男

 年齢:17


 戦闘力:2405

 想力:1500


 称号:使徒

 討伐:悪夢の眷属

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「なんだこれは? ステータス?」


 視界に表示された、その情報は慧自身のものだ。

 名前、性別、年齢は理解できる。


「戦闘力? 想力? なんだかよく分からないな」


 称号は使徒となっている。これは、先程の声が地球の使徒と言っていたことと関係がありそうだ。


「使徒とあるが……地球の使徒になったのだろうか?」


 あの声によると「地球において使徒と認める」となっている。

 地球以外とは? 使徒とは? などの疑問が尽きない。答えてくれそうな謎の声も、あれっきりで反応がない。

 そして討伐の欄。悪夢の眷属とある。


「あのバケモノのことだろうな」


 慧によって蹂躙じゅうりんされた目玉の巨人のことだろうと見当をつけた。

 ただの人間では太刀打ちできない脅威。それがただの眷属であったという驚き。

 この情報を知っている人類はいったい何人いるのだろうか?

 使徒となった慧は、眷属の主に対抗できるのか?


「とにかく情報がたりない……」


 今すぐ〈星の記録〉にアクセスして情報を集めたいところだが、先行している大晴に合流することにした。



「ハァハァ……」

「すまん。速く走りすぎたな」


 慧と別れ、大晴と舞佳と香織の三人は、避難所であるノースハット公園へ向かっていた。

 大晴はバケモノから逃げようとするあまり、走るペースを上げすぎたことに気づく。

 舞佳を背負っているのにも関わらず、香織が激しく息を切らすスピードでも平然としている大晴。

 彼女たちには頼もしく映ったが、大晴は必死に恐怖に耐えていた。


「ねえ……近衛君、大丈夫だと思う?」

「う、うん。私も気になる。無事だと良いけど……」


 彼女たちは自分たちを逃がすため、あの場に残った年下の少年の心配をしていた。


「大丈夫だ。俺は慧より強いやつを見たことがない。死にはしないさ」


 以前なら自信を持って発せた言葉も、今は疑心に溢れていた。

 慧にはないおぞましい気配と感じたことのない恐怖に怯える。

 ひょっとしたら……なんて、考えてしまっていることをひたすらに隠した。


「それよりも、無事にノースハット公園にたどり着くことが重要だ。この先、あのクラスのバケモノがいたらお終いだ。できるだけ速く進むぞ」


 大晴は走るのが辛そうな香織を励ましながら、仄暗ほのぐらい通路を進んでいく。


「ねえ……あれって……」


 そこは、人で溢れていた。

 ノースハット公園の地上に繋がるエレベーターはとても大きいが、あれだけの人数を一度に運ぶことは不可能だ。

 通常時の避難はこういった混雑を避けるように設計されているはずだが……

 しかし今回は様子が違った。


 ノースハット公園の付近の避難所がバケモノによって破壊されていたのだ。

 本来そこに避難する人がすべてこちらに流れて来たことによって、避難者の多くは足止めを余儀なくされた。


「地上に出るためのエレベーターが故障したか、人数が多すぎて混雑しているかのどちらかだな」

「ど、どうしましょう? ここも安全ではない……ですよね?」

「そうだな……余計に危ないかもしれない」


 人は集団になるとパニックに陥りやすい。万が一バケモノが出現したら、大騒ぎになることだろう。

 バケモノに殺されるというよりは、人に押しつぶされて死ぬ方が多いかもしれない。


「なんとかするから、少し待ってて」


 そうして大晴は持っていた神楽家仕様の情報端末に、特殊なコードを入力する。

 表示されたのは、現在地の詳しい情報と神楽家関係者の所在地、電話番号。


 神楽家は日本の名家だ。

 この日まで潰えなかった神楽家の権力は想像を絶するほどに成長した。

 その次男である大晴がなんとかできない存在は、逆に限られてくるのだ。

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