第14話 授業中でも構わずアピールしてくる魔性の彼女

 今日の教室はやけに静かだと思ったら、ちらちらと俺と香夜かやまゆを見る目線が飛び交っていた。

 男子諸君、今更香夜と繭ふたりの本当の魅力に気付いたところでもう遅いのだ……そんなにそわそわしているのは一体何を考えているのかな?

 ぼーっと過ごしながら、時間割表でも見てみると丁度次の授業が総合学活だった。

 最近の総合学活では修学旅行について班ごとに計画を立てることだった。

 二泊三日の修学旅行は京都で、もう一週間後にせまっている。

 本当はニューヨークだったのが色々あって国内に変更されたらしく、苦笑しかできない。

 俺の彼女達と授業中でも堂々としゃべれる機会だとウキウキしていたら、総合学活の時間になり班に分かれたあとで衝撃的な事になった。


「それって、行けないってこと? 修学旅行」

「ごめん、家庭の事情もあって……詳しくは話せないんだけど」

「そうですか。では、内山くんのレポートはどうなります?」

「それは大丈夫、みんなには迷惑かけない。ただ、僕が行けないってだけ」


 班員は4人構成で、男女2名ずつだったのだが、もう一人の男子である内山くんが諸事情により離脱りだつした。

 色々忙しいらしく、内山くんは言う事を済ませると職員室へと向かって去ってしまった。

 それと同時に、授業中なのにまゆが身体をせてきた。


「三人きりだね」

「内山くんの事は、残念だったな」

「本当かな? 実は嬉しいんでしょ」

「まあ、な」


 正直なところ、俺以外の男子が一人いるだけで、いちゃつくのに躊躇ためらってしまいそうになる。

 でも、不謹慎ふきんしんながら彼が行けたって心細い思いをするビジョンしか浮かばない。

 彼の細かな事情は結局わからないので、気にしても仕方ないと割り切った。

 寄りかかる繭の重みを感じながら考え込んでいると、香夜かやが自由時間の行動予定表を書き直して見せてきた。


「こんな感じでどうですか?」

「これ、結構遠回りじゃない?」

「そうですよ。敢えて最短距離で移動しないことで、時間を作れますよ」


 行動予定の目的は、それなりに大きなスポット6つへ行きレポートを書くことの準備だ。

 つまり、時間に余裕を持っていれば好きに遊べる。


「良いんじゃないか。俺、幾つかのスポットには行った事ある」

「中学の旅行先が同じだった」

「行った事はありませんが、れんくんと一緒にいることが大事だと思うので、この案でいきましょうか」

「あれ、私は? 一緒にいて大事にしてほしいんだけど」

「蓮くんが私と一緒に大事にしてくれますから、安心してください」


 俺も、この二人とずっといられることが大事だと思う。

 繭はジト目で香夜を見るが、


 昼休みを迎えると、残念なことに繭は女子に囲まれて色々かれていた。

 恋愛話になると、女子の質問攻めは永遠に続く。

 朝の約束通り、望むなら見つめてやろうと思ったのに、残念だな。

 まあ、からを破った繭がどうするのか見物だな。

 なんて思いつつ、拘束されていない方の彼女が俺の元へ真っ先に来たので


「ツンツン」

「ぷはっ、突かないでくださいよ」

「悪い……つい、な」

「仕方ないですね、まったく」


 彼女のかわいい反応を見て楽しんでいる時、野暮やぼな奴が来た……東矢だ。

 朝は引いたのに、何故今度は来たんだよ。

 あ、そっか、自分が告白した繭がいないから、東矢にとっては来やすかったのかな。

 でも、俺意外にも話し相手はいるだろうに……もしかして、友人を取られて香夜に嫉妬しっとでもしているのかな。

 東矢、悪いが同性は守備範囲外なんだ。


「よくわからないが、関係は嘘じゃないみたいだな」

「一々言わないでくれませんか?」


 俺とのじゃれ合いに水を差されて苛立いらだったのか、香夜は冷たい声を東矢に発した。

 少し怒っている顔も可愛いな。


「おおっ、すまん栗野さん。そんなに嫌がるとは思わなかったんだ」

「な、俺の彼女可愛いだろ?」


 ひざに香夜を乗せて、顔を見せながら可愛さを伝える。

 本当は放課後になるともっとすごいんだぞ……って言いたいところだが、それは三人だけの秘密だ。


「ひゃんっ……れんくんが椅子いすになっちゃいましたね」

「……自慢かよ」

「自慢に決まっているだろ。羨ましいか?」

「でも、もうやめましょう? みんなが、見ていますから……」


 おっと、東矢がダウンする前に香夜の限界が来た? 朝と違うのは……もしかして、

 今判ったことだが、緊張すると香夜はわきを引き締めてしまうみたいだ。

 後でメモしておこう……。


「俺、なんか仲睦なかむつまじい二人の仲に割って入っているみたいで気まずいな」

「みたい? 事実だろ」

「てめぇ、彼女できただけで調子に乗りやがって、今に見ているといいさ、俺だってなぁ」

「はいはい、頑張れ。東矢なら明日にでも出来ていると思うよ」


 俺の言葉を聞きながら、東矢は自分の席へと帰って行った。

 なんか、悪いことしちゃった? あとで謝っておくか、一応数少ない貴重な友人だしな。


「仲睦まじいみたいに見えるんですかね? 結構嬉しいですね」

「普通はほら、お互いに気を使い合って色々ご無沙汰ぶさたになるからじゃないのか?」

「もう、蓮くんはいつもそんな事考えているんですか?」

「は? いや、待て……香夜の勘違いだぞ。俺は決して卑猥ひわいな事は考えていなかった。ん? その反応……香夜こそ、いつもそんな事考えているのか?」

「むうっ、ちょっと……だけに決まっているじゃないですか」

「否定しておけよ!! 一応、誰かに聞かれるかもしれないんだからさ」

「ううっ、そういう事は……もっと早く……」


 まあ、まゆにやらせていたことを考えれば当然だったか。

 香夜は、また腋を引き締めて、両腕を伸ばしながら両手の指を絡ませて弄っていた。

 どうなんだろう……これは、俺に何かを合図しているのだろうか、

 よくわからないが、その緊張を頑張って表に出さない様子が面白くて、意地悪してみたくなった。

 俺は香夜の腕を掴んで、香夜の胸元に持ってきた後に、手を重ねた。


「へ?」

「ごめんな、後は放課後で……」


 俺は香夜の耳にこっそりとささやいた。

 すると、目の前の耳が赤くなっていき、香夜は俺に握られていない手で口元を隠す。

 俺にだけ見えるようにがしてみると、嬉しいのか恥ずかしいのか頑張って表情を硬くしようとしていた。


「想像した?」

「しちゃいました……楽しみ……ですね」


 完全にハマってしまったのか、えらくデレデレしている。

 なんだこの……全く面倒臭くない彼女は。

 始まりがいびつだった分、自然と恋人関係が上手くいっている気がする。

 お互いの求めるものがはっきりしていて、尚且つ合致しているから、俺もやりやすい。

 正直、俺は恋人なんて絶対我儘わがまま言うだろうし面倒臭いんだろうなって思っていたけど、香夜かやとなら楽だし、まゆとなら飽きない。逆にしてもしかりだ。


「授業中、手を振りますね?」

「え、何で?」

「アピールです。みんなにも知ってもらいたいですし、離れていても蓮くんと繋がっている感じがして寂しくないじゃないですか」

「香夜も、実は自慢したかった?」

「察しても言わないでくださいよ。私にだって我儘言わせてください」


 それは、我儘じゃなくてただの照れなんだよなぁ……可愛すぎる。


「ん、そういう事ならわかった。あんまりやり過ぎるなよ……」

「ふふっ、それはどうでしょう。……こんなにうそぶいておいて、できなかったらごめんなさい」

「その時は、香夜が俺を見たときにこちらからするよ」

「ううっ、そういうところ、ナチュラルにかっこいいんですから、かっこつけないでください」

「かっこいいなら、見栄を張るよ。もっと香夜に好きになってもらいたいし……」

「これ以上好きになったら、指の一つも離せなくなってしまいますよぉ」


 香夜の好意は非常にわかりやすい……だって、表情と仕草に出まくるから。

 そして、俺もそんな香夜にずぶずぶと溺れそうになってしまう。

 香夜は視界で魅了してくるんだよな……、制服姿見ているだけでなんか、

 本人は無自覚なんだろうけど、とんでもない魔性の魅力を感じる……こんな逸材いつざいがいるとは驚きだ。

 何の逸材だって? そりゃあ男を魅了して興奮させる点においてこれ以上を知らない。

 まだ初心なのに、これだから積極的になった時俺はどうなってしまうのだろうか。


「それじゃあ、また後で」


 俺はずっと……ずずぅーっと、まるで蕎麦そばをすするような勢いを感じさせる程に超高速思考させながら待ち続け授業開始5分後、香夜がこちらを向いたので俺はニッコリと微笑んで見せた。

 すると、香夜はくちびる小刻こきざみに震わせて、その後本当に小さく手を振って見せた。

 俺は教師がこちらを見ない間すきって手を振り返した。

 ところでまゆだが、昼休みにもみくちゃにされてしまったのか、午後は疲れてぐったりしていた。

 俺や香夜に気付かないのは相当だと思い、放課後になった瞬間にった。


「繭、大丈夫か?」

「だっこ……」


 疲れ切った繭は子供みたいなことを言い出した。

 まあ、高校生は子供だな……偶には甘えたいときもあるらしい。

 でも、もう高校生だぞ? その甘え方は色々とアウトだ。

 まさか、俺の見ていない間に大変なことになっていたようだ。


「ダメみたいだな」

「繭ちゃん、起きてください」

「授業何も聞いてない~。課題ムリ~」

「はいはい、手伝いますから。今日は、行くところがあるんじゃありませんでしたか?」


 香夜が匂わせることを言うと、繭ははっと目を覚まし立ち上がった。

 おい、さっきまでのは演技かよ。

 しかも、普通に話し始めた。


「そうだ。蓮くんには言ってなかったけど、今日の放課後は一緒にいられないの」

「そうなのか」

「はい。今日の放課後は私が独占します。明日の朝くらいは譲ってあげますよ」

「うん。それじゃあ、先に私帰るね。部屋の荷物はそのままでいいから」

「お、おう」


 繭はそのまま教室からいなくなってしまった。

 窓の外を見れば、朝の光景が嘘みたいに雲一つ空に見えない。

 朝から一緒だったのに、あまり喋れてないことに寂しさを覚える。


「てか、なんでこんな急なんだ?」

「女の子は色々あるんです。事後承諾でも目をつぶってあげましょう」

「まあ、香夜が言うならそうするけど……代わりに香夜がその分尽くしてくれるんだよな?」

「当然ですよ。やっぱり家で手を出さなかったのは、教室がいいとかあったんですか?」

「いや、そこまではまだ求めないよ。それは、二人一緒に頂く」

「ふふっ、そうですね。確かに今のは繭ちゃんに悪かったと思います」


 俺達は、他の連中が去るまで勉強を始めた。

 隣で香夜も課題をしており、時々見ると笑顔を返してくれる。

 そんな関係を見て耐えられなくなったのか、クラスメイト達は忽ち下校していった。

 気付けば二人きり、俺は香夜に言葉を投げかける。


「香夜って、繭の前だと威勢がいいのに、その他だと違うよな」

「繭ちゃんは内面がか弱い乙女ですから、リードしてあげたくなってしまうんですよ」

「何ていうか、男前だな」

「かっこよく振る舞いたい女の子は好きじゃないですか?」

「大好きだ」


 俺は、無意識に手が出て香夜の胸を揉んだ。


「あっ……」


 しかし、ブラジャーの存在が俺の理想を邪魔してきた。


「おや、初めて触られてしまいましたね。がっつくからですよ」

「すまん、香夜が可愛すぎて……」

「なら、仕方ないですね。脱ぐので待ってください」


 俺は不覚だった。

 こんなにも一緒にいて、ブラがあることにすら見抜けないとは……彼氏失格じゃないか。

 桃色のブラがかばん仕舞しまわれた後、俺が暗い表情を見せてしまったのか、香夜が俺の顔を触ってくる。


「チューしてはげましてあげますか? それとも、対面で抱き着きながら胸を楽しみますか?」

「良い性格してるよなぁ。俺の選択は決まっている。どちらもだ」

「欲張りさんですね、もー」


 なんて言っているが、最初からそのつもりで言ったのが丸わかりだ。

 香夜は、自分から俺の腕を取って触らせようとはしない。

 今まで通りなのだが、あくまで俺の意思で触ってほしいという絶対条件のようなものがあるらしい。

 それは、まるでペットのようで、可愛らしい。

 俺達は、いつもより少し長い放課後を堪能たんのうした。



◇◆◇



 香夜かやも着替えがないので自分の家に帰るらしく、俺は自分の家へと帰ることになった。

 何故か、彼女達がいないだけで心が伽藍洞がらんどうになってしまいそうになったが、一通の連絡が入っていることに気付いた。


『置き土産は好きに使っていいですよ。嗅ぐのは良いですが、食べるのはやめてくださいね』


 置き土産というのは、彼女の荷物のことだろう。

 流石に無機物を食べる気はないのだが、そのメッセージには心が洗われるようだった。

 俺がさびしくなることまで予想していたのかな、俺のこと好きすぎだろ。

 香夜はかわいいだけでなく、俺のこと判ってくれる部分はなんだかカッコいいんだよな。

 俺はそれだけで元気になって、彼女達の

 え? ここは普通漁らない? 愛しい彼女のものなんだから、気になるに決まっているだろ!!

 もちろん、何かに使う事はない……ただ彼女達のものを知りたかっただけだ。


「……え? どういうことだ?」


 荷物を確認すると、驚くべきことがあり、声にれる。

 それは、香夜の荷物を漁っている時ではない……

 様々な憶測おくそく脳裏のうり散乱さんらんしてくる……そうか、まさかそんな事があり得るのか。

 まゆの方は許可を取っていなかったので明日にでも謝ろうと思ったが、俺はそうしない事が正解なんじゃないかって思わされた。

 香夜の方はちゃんと寝巻が入っていたのだが、

 それを繭が知らない筈がない……なら、あの水着で一緒に寝た意味って……。

 きっと、昨日駅に集合した時点で判っていたから香夜だってあんな無茶苦茶な計画を立てたんだ。

 だから、繭の水着は新品だったのだろう。

 すると、香夜は最初からそういったことをするつもりだったということになるが……彼女の大胆さは今更か。

 俺への罰だなんて、じゃないか……最初からそのつもりだったんだ。


香夜かや、お前は本当にかっこいい女の子だよ。益々好きになりそうだ」


 そこにはいないのに、言葉にしてしまうくらい夢中にされてしまった。

 同じように、繭もれてしまったのだろうね。

 この恋人関係が成立したことに、そういった背景があるのなら、安心できるのだ。

 三人で恋をするということは、支え合うということは、本来難しい筈だから。


 でも、香夜の思いやりは、俺達がにあったものだ。

 だったら、は彼氏である俺が頼りになる存在でいなければいけないよな。

 油断したら、を香夜に奪われてしまいそうだ。

 彼女達を可憐なヒロインにさせて、それに相応しい彼氏になりたいと、思ったんだ。

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