第12話 水着をティッシュ代わりに使うヒロインはダメですか?

 夕飯の後、俺は現在進行形で風呂に入る二人を想像しながら食器を洗っていた。

 どうしても先に入ると言って聞かないので、風呂の順番は譲った。

 しかし、まさか二人一緒に入るとは思わなかった。

 恋人同士とはいえ、同性と異性ではどうしても扱いに差が出てしまうらしい。

 あれ、あの二人も好き合っているんだよな? 未だに香夜かやまゆに対して何か思うところがあるわけないだろうし、じゃれ合っているだけだよな……?

 ファーストキスの写真は、きっとそれを伝えるために見せてくれたのだろうし、この猜疑心さいぎしんは風呂をのぞけない反動なのかな。


「出たよ」

「お湯、飲んじゃダメですよ?」

「飲まねぇよ!!」


 二人はバスタオルを一枚巻いた状態で、とてもきわどい……。

 ドライヤーをかけていないのか、髪が濡れていて、少ししたたしずく胸元むなもとれた。


「どこ見ているのかな~」

「相変わらずかわいい形だよなって思ってさ」

「むう、どうしたられんくんを揶揄からかうことができるのか知りたい」

「では、私がレクチャーしましょう。ということで、蓮くんはお風呂へどうぞ」

「あ、ああ」


 俺はその姿を見続ける事が危ないと感じて風呂へと逃げた。

 しかし、残っている湿気から、微かな残り香が鼻を伝い、興奮を高める。

 いけない、これは色々不味いだろう。

 俺が考えるべきは今日の夜……同じベッドで寝るというのなら、何が起きてもおかしくない。

 だからこそ、俺は一つ自分に制限をかけようと思った。

 敢えて……何もしない。

 するとしても、接吻せっぷんまでと考えておこう。

 それは、今が学生の身空だからとか、クラスで会うからとか、そんな理由はもちろんあるけど、それ以上に俺は本気で彼女達の事が好きだから、汚したくないんだと思う。

 性欲で考えるのは、とっくに過ぎているんだ……胸を揉むのが当たり前になったから。

 愛を育むのは、そうじゃないんだと思う……。

 俺はシャワーで汗を流し、浴室を後にすると、洗面所で深呼吸した。

 そんな時、何やら機械音が聞こえた。


「ん?」


 二人は何をしているのだろうか……危ない事をしていないといいが、と思いつつ香夜がいれば大丈夫かと判断した。

 俺は髪を乾かし、持ってきた寝巻をマイペースに着る。

 部屋に戻れば、そこには水着の二人がいた。


「何のつもりだよ。居間リビングにいたと思ってた」

「タオル代わりに水着の女の子はいかがですか?」

「洗面所で待ち伏せるべきだったな。それに水着なら、弾くだろ。てか、学校のじゃないか」


 まゆは違ったが、香夜かやの方は学校で指定されたものであることを思い出す。

 二人は身体をしっかり乾かしたのか少しつやがある髪以外は確かに吸水してくれそうだった。

 というか、二人ともヘアゴムで髪の毛を束ねており、初めて見る姿にえてしまう。


「来年の夏は蓮くんに汚された水着をみんなに見られてしまいますね!」

「香夜ちゃん、恥ずかしくないの……?」

「まったくレクチャーした奉仕が出来ていないですよ、繭ちゃん。これは土下座の刑が必要なようですね」

「だって、香夜ちゃんが……」


 そういえば、夕方に言っていた風呂上がりの事というのは、このことだったのか……通りで、繭がグラビア誌をまじまじと見ていたと思った。

 というか、……なんとなく、折り目がついているところからそう感じた。

 まあ、なんか繭が本気で土下座させられそうだったので、助けてやろうと話をらす。


「そういえば、なんか機械音しなかったか?」

「それはですね。繭ちゃんのムダ毛を処理していたんですよ」

「なんで俺の家でしたんだよ……」

「私はもうしてしまったので、蓮くんが想像できるようにサービスです」


 そう言いながら、自分の手を上げてわきを見せてくる。

 まあ、確かに処理してくれた方が俺は好きだけど……水着でそのポーズはダメだろう。

 繭の方を見れば、こっちも腋を見せてきた。

 目のやり場困るのだが、これは矛先を変えざるを得ないか。


「それで、俺はもう殆ど濡れていないわけだが?」

「そうですね。とりあえず恒例こうれいのなかよししましょう。先手は繭ちゃんに譲ります。その代わり、我慢をしないでありのままを晒してくださいね?」


 香夜が張り切ってベッドの上に乗って繭を座らせた。

 繭はもう準備はできているようだが、一応いておく。


「繭がそれでいいなら、俺はそれでいいけど」

「なかよししたいよ」

「わかった」


 俺が繭の胸を水着越しに揉むと同時に、香夜が繭に人差し指を差し出した。

 すると、繭は香夜の差し出した指を舐めていた。


「繭ちゃん甘噛みくすぐったいですよ、蓮くんに見られてうずいちゃったんですか? あ、このままじゃ答えられませんね」

 

 香夜は繭の口から指を取り出し、繭の水着に擦りつけた後で、自分の口に入れた。

 美味しいのだろうか、香夜は数秒間自分でもその感覚を楽しんでいた。


「これが、ありのままですよね? 肯定してください」

「……ありのままの繭を見てくれて幸せです」


 そうか、繭はイメージにとらわれない自分になりたかったんだな。

 それにしても、香夜は暇なのか繭に言葉攻めしている。

 もしかして、繭がそういうのを求めているからしているのだろうか。


「もー、憧れだったんですよ。美人で大和撫子やまとなでしこな振る舞いが、いつも絵になっていると思っていました。それがこんなになっちゃって、反省してください」

「でも、これが……」

「ありのままですもんね。そうだ、を撮りましょう」


 香夜は自分のスマホを取り出すと、インカメラでピースサインをしながらピントを合わせていた。

 これは、昨日までだったら流石にダメだったな。


「はい、ちーず! クラスではクールな繭ちゃん、彼氏彼女の前ではなんてあられもない!」

「そ、その写真どうするの?」

「あまり過激ではないですけど、水着女子二人と男子一人が同じベッドの上。他人に見られたら勘違いされてしまいますね」

「恋人なんだから、勘違いではなくないか?」

「それもそうですね。では、次は私の番でお願いします」


 言われるままに、手を動かした。

 繭はぐったりとして休み、俺達が終わるのを待っていた。

 途中気付いたのが、予想以上に香夜に体力があることだ……いや、気力の問題か。

 終わってみれば、俺の方が落ち着いてしまった。

 部屋はすっかり俺達の熱で温かくなっていたが、風呂上りの俺は逆に熱を取られていったようだ。


「すること済んだなら、二人とも服を着ろ」


 俺がそう言うと、何故か繭がびくりと身体を震わせ、香夜が驚いた顔をする。


「え、良いんですか? どれだけ汚しても大丈夫なんですよ。既に汚している子もいますけどね」


 香夜は繭の胸の上辺りを指差した。

 湿

 それに対して、繭は文句を言い出した。


「香夜ちゃんが汚したんでしょ……」

「ちょっといただけじゃないですか」

「雑巾扱いされてない?」

「糸が少し垂れていたので、まあにいいかと。流石名前の通り糸を引くんですね」

「別に、香夜ちゃんと蓮くんになら、されても良いけどさ」


 いいのかよ……。

 香夜かやまゆは、準備ならできているという態度をとっていた。

 いざ、この瞬間……俺は積極的になれなかった。

 多分、さっきまで理性を保とうと必死で、耐えきったからだろう。


「……二人は、そういう気分なのか?」


 俺は、二人の顔を見比べながら訊いた。

 彼女達が本気なら、俺も応えるべきだろうから。


「鈍感でもないれん君がその質問……我慢していますか?」

「まあ、な」

「え、そうなの?」


 繭がきょとんとして小声で呟くが、聞こえているし、休んでいたのだから気付かなくても無理はない。

 ここで嘘をく事が出来ず、正直に言ってしまうのは、相手が彼女達なので仕方ない。

 とはいえ、このまま興味を持たれても困るので、話をらすことにした。


「そういえば、繭の方が新品みたいだが……なんでだ?」

「それは……」

「少し胸元がキツくなってしまったみたいです。学校指定のだと、よくあるんですよ? あ、蓮くんにとっては、少し悲報でしたね」


 香夜は繭の言葉をさえぎり、小悪魔こあくまっぽく笑いながらそう言った。

 育ち盛りの年頃だし、そんな事もあるだろう。

 男子の水着は、その点心配事が少ない……ひもである程度どうにかなるからである。


「ううっ、香夜ちゃんの意地悪」

「大丈夫だ。俺が触った限り、繭の胸の成長は、去年から俺達が出会うまでのお話だろ?」

「言われてみればそうですね。良かったですね、繭ちゃん!」


 たとえ、俺はこれから繭の胸が大きくなろうと、嫌いになることはない。

 だというのに、恥じらいにも余韻よいんがあるのか、顔を真っ赤にしていた。

 相対的に冷静になった香夜が、俺の意志を汲み取ったのか、提案してくれる。


「では、今日はやめておきましょうか」

「やめちゃうの?」

「ごめん、繭。次の機会にしよう」

「蓮くんが乗り気ではないのに、私達の願望を押し付けても仕方ないですよ」

「それは、そうだけど……」


 それでも、と名残惜なごりおしそうに繭は下を向いた。


「わかりました。繭ちゃんのために、三人でキスをしましょう。あと、意気地なしの蓮くんへの罰として、私達二人はこの格好で就寝を共にします!」


 前者はともかく、後者は本当に俺への罰になるのだろうか。

 香夜かやは既に水着姿をみられることを、胸を揉まれる事と同じくらい気にしていなかった。

 まあ、水着姿は毎年見られているものだし、そんなものか。

 しかし、三人で接吻せっぷん……という訳にもいかず、似たような形になった。

 その結果、俺が舌を出すのを合図に二人も熱い息を吐きながら真似るようにかえした。

 結果、二人の水着、湿


 そしてあっという間に就寝の時間をむかえる。

 俺も水着に着替えさせられて、身体を密着させながら寝ようと言われたので従った。

 こんな格好でも、部屋は温かく、羽毛布団を出して三人でくるまるだけで案外心地ここちよかった。

 寝ながらだと、彼女達の顔がとても近い。

 それだけ安らかな心地で眠れそうだったのに、布団の中を香夜が動き出した。


「身体こすりつけるな」

「どうして、手を出さないんですか?」

「俺、二人を大事にしたいからさ。やっぱり、綺麗でいてほしいなって」

「……絶対汚した方が綺麗に成長しますよ」


 香夜はそれでもと誘惑してくる。

 それは、聞こえだけでは言いえてみょうな事だが、確かに魅力的みりょくてきな提案だ。

 でも、俺達はもう少しゆっくり進んでも良いと思うんだ。


「意味わからない。寝るぞ」

「ダメです」

「いやいや……じゃあ、触るだけだ」

「全身触ってくださいね?」


 窓から少し入る月の明かりを頼りに、二人の身体を触った。

 途中から、目をつぶった方が手触りの良いことに気付いてカーテンを閉めた。

 だから俺の顔なんて見えない筈なのに、静寂せいじゃくの中、まゆが突如しゃべり始める。


「お酒が飲める年になったら、無理やりしてきそうな顔しているのに、優しいんだから」

「繭ちゃん、そういうのが好きなんだ……」

「余計なこと言っちゃった。れんくんまくらにして寝る」


 なあ、水着の女子二人に抱き着かれながら眠るのは無理だろ……なんて思っていたが、二人は先に眠ってしまった。

 だから、俺は再びカーテンを開いた。

 幸せそうな顔を月の光で見る事ができるのは、眠れなくても良いと思わされた。

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