第7話 氷が溶けるように、心の壁も溶けるみたいです

 俺達はスポーツスポットで遊んでいた。

 俺は軽く運動目的だが、目的すらなかった筈の女子二名は本気らしい。


「先にホームラン打った方が、安本やすもとくんとカップルジュース飲むって事でいいね?」

「望むところです」


 バッティングセンターでバットを振り回しながら、何故か二人は勝負の熱に燃えている。

 どうしてそんな飲み物が売っているのか不思議ふしぎに思ったが、周囲を見渡せば男女二人組みで来ている人がまあまあいる。

 試しに調べてみれば、最近カップルで有名な動画配信者が訪れたことにより、カップル人気が高まったらしい。


 俺達カップルじゃねーじゃん、と言ってみれば「冷める事言わないで」と、神代かみしろさんに叱られてしまったので、仕方なく成り行きに任せた。

 しかし、ホームランってそう簡単に出るものなのだろうか。

 ゲームとはいえ、的に当てなければその判定は出ない。

 そして、俺を含めてみんな野球経験なんてないだろう……。

 それなのに……よく飛ぶんだよなぁ。


栗野くりの、それもバランスボールの力か?」

「そんな訳ないってわかりますよね!? 実力です!」


 バランスボールで腕っ節が強くならない事くらいわかるらしい……ちょっとした冗談にも小慣こなれてきたようだ。

 バッティングセンターの球はゴムなので、素人しろうとでも飛ぶ……ホームラン判定の的には当たらないが、それでもよく飛ぶのは、バットに当たっているからだろう。

 つまり、二人とも動体視力どうたいしりょくがいいという事だ。

 すると、的に向かって一直線に向かうボールが見えたので無意識むいしきに声がこぼれた。


「おっ……惜しい」

香夜かやちゃん、今のは何ポイント?」

「いつからポイント制になったんですか。 0ポイントです」

「厳しーっ」


 神代さんのギリギリ的を外す打球だきゅうを見て、また二人で盛り上がっていた。

 どうせなら、俺も勝負に参加してご褒美ほうび欲しかったなぁ……いや、まだ間に合うか。


「なあ、二人とも!」

「なんですか?」

「んー?」

「俺がホームラン打ったら、何があるんだ?」

「褒めたげる!」


 神代かみしろさんがめてくれるなら、悪くはないと思うけど、もっとちゃんとしたご褒美が欲しいな。


栗野くりのは?」

「そうですね……今日なかよしする時、少しサービスします」


 なかよし、という単語を言いながら、栗野は赤らめた顔で柔和にゅうわな笑顔を見せると共に自身の胸をひと揉みした……初めて見る栗野の自分で揉む姿には、気分がたかぶった。

 もう十分サービスをしてもらった気分だが、俺の手で触らなければ……。


「てか、なかよしするって、絶対もう別の意味で使われているだろ! よし、約束だからな! もちろん神代さんも」

「私も巻き込むなぁ! ……でも、いいよ。今一番可能性高いの、私だもんね!」


 大分調子に乗っている神代さんは、普段よりも輝いて笑っていた。

 元々身体を動かすのが好きなんだろうね。

 もっと近くで見たい……その笑顔を見ながら揉む胸は最高だろうなぁ。

 俺は気を引き締めて本気を出す。

 運ゲーなら、一球一球を大事に確実に飛ばせば、いける筈だ。

 そして、数十分経ち、的に打球が当たってしまった。

 誰の打ったボール? 俺のだ。


 それをに疲れた俺達はフードエリアに行って、テーブルへと座る。

 服装的に、体温が上がりやすかったのか、近くにいると二人の体温と匂いが伝わってくるので、俺は率先そっせんして全員分の注文をしに行った。

 俺が離れている間も、二人はにぎやかだった。


くやしい……何回か本当しかった」

「それを言うなら、私だって惜しかったですよ」

「香夜ちゃんの言う惜しいって、何?」


 神代かみしろさんがまるで正気なのかと疑う目線で栗野くりのを見た。


「え? 的に直進していったのに、途中でボールが降下してしまったじゃないですか」

「いや、それ惜しくないじゃん。香夜ちゃんは、力が足りなかったと思っているでしょ? 物理の授業ちゃんと聞いていたら、惜しかったかもね」

「負け惜しみに八つ当たりしないでください」

「ごめん……でも、本当に悔しかったんだよぉー」


 神代さんはひじを伸ばしテーブルにした。

 そんな光景を栗野は呆れつつなだめることを言う。


「そんなにカップルジュースが飲みたかったんですか。ほら、心配しなくても安本くんが上手くやってくれたみたいですよ」


 栗野は落ち着いた表情で、俺の方へと向いてくれる。

 平然とした顔も可愛い……その顔写真で撮りたい。


「お待たせ」


 俺は、カップルジュースとポテト、後は各々の食べたいものを運んで差し出した。

 ただし、カップルジュースにはハート型にからまったストローが2つ入っていた。

 最初は2個頼もうとしたのだが、気をかせてくれた店員がそうしてくれると言うので従った。


「ね?」

「わっ、私だって安本くんが上手くやってくれるとは思っていたし……」

「何の話だ?」

「はい、うそかないで〜。どうせ聞こえていたんでしょ。とぼけちゃうの良くないよ」


 なんだかよくわからないが、神代かみしろさんが栗野くりのに言い負かされて俺に八つ当たりしてきているようだ。

 神代さんの言う通り、惚けているのは本当だが、別に説明してくれれば済むような話なので、八つ当たりだ。


ねてるのかよ」

「拗ねていますね」

香夜かやちゃんまでぇ〜、酷いよぉ」

「でも、そんなまゆちゃんに安本やすもとくんは見惚みほれているみたいですよ。ね?」

「ああ、神代さんの拗ねる姿なんて、学校の男子内じゃ俺だけだろうから、独り占めだ」


 学校では見られない神代さんを俺は沢山知っている……正直、美人であるとしか見られていないのが残念なくらいだ。


「付き合ってもいないのに、調子に乗りすぎだよ?」

「じゃあ、カップルジュースは飲めないな。さ、栗野飲もうぜ」

「はい!」


 そう言って、片方のストローにくちびるを付けると栗野も唇をストローに付けた。

 近くで見る栗野は可愛いし、ストローで繋がっている感覚に興奮こうふんする。


「んー! 仲間外れはイヤ! 私を独り占めなんて、欲深よくぶかさんなんだから」


 そう言って神代さんももう一方のストローに唇を付けた。


「んー! んー!」

「ん」


 また、言葉にならない声で栗野と同様に繋がる事を求められたので、俺も軽く鼻から声を出して二つのストローを唇でくわえた。

 それからは三人互いに見つめ合っていた。

 俺達は飲み物を吸わないから、中身が減らず、緊張で顔が赤くなった栗野と神代

さんの体温が空気に伝わってくる。

 そして、その熱がジュースの中の氷を溶かしカランという音に我を思い出し、ストローから飲み物を吸い上げた。

 二本のストローにやや引っ張られる感覚……吸い上げる水分の重さが、そう感じさせた。

 そして、中身が空になり残った氷がガラッと音を立てると同時に俺達は唇を離した。


「めっちゃ緊張きんちょうした!」

「なんで二人とも飲まないんですか。タイミングわからなくてもう……もう……ううっ」


 神代かみしろさんは両手をり合わせて、栗野くりのそでになった手元で顔を覆った。


「あのさ……」

「はい……」

「もう一杯買ってくる」

「うわぁ、ハマっちゃったの? もう一回見たいの?」

「めっちゃハマった! もう一回二人の顔じっくり見たい!」

「イヤだぁ〜!」


 神代さんはそう言いつつも本気で嫌ではないらしい。

 いや、飲み物無くなったし買うことは決定だからな。


「買うなら、もう二杯でお願いします!」

「こっちは乗り気だな」


 栗野はもっと反応大きかったのに、積極的に2、3回目を求めた。

 栗野ってそういうところあるよなぁ……。

 二人のギャップ萌えが顕著けんちょに見られて俺は大変気分が良かった。

 そして、第二回戦、第三回戦と、二人にとっては望んでいた筈のご褒美なのに恥ずかしさの我慢比べみたいになってしまった。

 彼女たちはバット振っていた時よりもよっぽど身体を火照ほてらせて、俺の方も色々我慢することになった。


 そんな気分転換に、次にはボーリングをすることにした。

 この時には、俺ももう限界で、二人に頼み込んだ。


「一人がボール転がす間に、なかよししないか?」

「は!? もう我慢できないの?」


 今まで我慢できたを褒めてほしいくらいだけど、毅然きぜんとしたプライドをつくろった神代さんはあまり乗り気ではなかったらしい顔を浮かべる。


「いや、違うって……ボーリングって指疲れるだろ? いやしてもらいたいという考えはおかしくない」

「なるほど、確かにそうですね」

香夜かやちゃん、一体どこに納得したの? この理屈はおかしいよ?」

「だって……ううん、まゆちゃんだって期待しているじゃないですか」

「それは……」

「素直じゃないよなぁ~」


 そこが可愛いんだけどね。

 どうにか栗野の援護で神代さんを納得させようと試みると、案外すぐに諦めた。


「あのあの、ここでそれは卑怯だよぉ」

「良いじゃないか、れようぜ」

「うん……揉まれたい……です。恥ずかしいぃ……」


 放課後とは違うシチュエーションだと、また初々ういういしさを取り戻し、美人が良い意味で台無しになる。

 服装もそうだけど、無理して別人になったみたいだ……これも神代さんであることに代わりないけど、身体意外のすべてが普段と違うから、本当にえる。

 これはもう、大和撫子やまとなでしこな素敵美人ではなく、綿あめのようなふわふわ美少女といった方が良いな……よし、神代さんについて東矢とうやと話す機会があれば今度からそう広めておこう。


「じゃあ、安本くんが投げている間は私とですね。繭ちゃん!」

「いいけど……確かに香夜ちゃんのも気になるし……」

「栗野は大胆だなぁ……初めの頃とは大違いだ」

「今でも恥ずかしいんですけど、やっぱり嬉しいじゃないですか。自分の胸にはそれだけの価値があるんだって教えてもらっているみたいで」

「その気持ちは、わかるかも……気持ち良いだけじゃなくて……って、やっぱりムリ!」


 栗野くりののように、意識を変えて態度を取り繕うとした神代かみしろさんは途中で折れた。

 やっぱり、まだまだ恥ずかしさの方が上らしい。

 いや、触らせてはくれるみたいだし、丁度拮抗きっこうしているのかな……その葛藤かっとうが今の神代さんを作り上げているのなら、貴重な顔だろう。

 俺はスマホのカメラを起動して刹那せつなに神代さんの顔を撮影さつえいした。


「バカ、やりすぎ! ボール投げるよ!」

「悪い! それは本当に危ないからやめてくれ」

「じゃあ、削除さくじょ……しなくていいから、なかよしは優しくして」


 おお、何故か許された。

 いや、やりすぎって言うけど……ジュースの件とかと比べれば、まだ軽い遊びだったと思う。

 まあ、次からは反省して同意を得てからにしよう。


「私は撮らないんですか?」

「栗野は同意を得なくても怒らなそうだよな……水着の写真とか撮りたい」

「写真の話ですか。場合によりますよ?」


 大抵の場合は怒らないという解釈で良いのかな。

 まあ、水着についての願望は下心したごころ丸出まるだしかな……栗野の場合、カメラを向けて恥じらいを見せた瞬間が一番撮りたいんだよなぁ。


「ほうほう、どんな時に怒るんだい? 栗野の怒る顔は貴重だからな」

「以前に怒ったことがあるような気もしますが……」

「神代さんに見捨てられて教室に戻ってきたときの話なら、栗野が勝手に荒れ狂っていただけだぞ」

「むっ、そういうデリカシーが無い且つ過去をかえす発言にはいきどおりを感じます」


 ぷいっと、栗野は顔をそららしてねたように見せる。

 あの時の栗野だって、荒れ狂っていたというのは誇張こちょうしたかもしれないけど、そういった意識で演技していたのだろうから、否定できずに義憤ぎふんを覚えたらしい。


「ごめんって……例えば着替え中の栗野を撮ったらアウト?」

「それは、当たり前にアウトです。私もこのボールがあらぬ方向へ飛んでしまうかもしれませんね!」

「ちょっと、二人とも物騒だな」

「あ、流石にここでブラを外す訳にはいかないので、一回トイレ行ってきますね。まゆちゃん、行きましょう?」

「うん。てか、香夜かやちゃん今怒っていたのに、撮らないんだね」

「そりゃ、ボール持ったまま言われたらな……」

「あはははは!」


 神代かみしろさんが声を出して笑いながら、二人は一旦トイレに向かった。

 しかし、やることの準備まできちんと忘れないのは、内心の期待を隠し切れていないのではないか?

 でも、よくよく考えたら今日の下着の色を確認することが出来ないというばつを受けていた。

 今日の服装は二人交換していると言っていたけど、下着まで交換しているのかとか知りたかった。

 そして待つこと数分で胸元を気にしながらそわそわした二人が戻ってきた。

 周囲に視線は少なくないので、落ち着かないのだろう。

 俺達は、他の人から丁度見えにくいはしのレーンが空いていたので使うことにした。


「私が一番手に打ちますね」


 そういって、最初に栗野くりのがボールを持って行ったので、俺は神代さんに近づいた。

 驚いた顔をしていたが、逃げない神代さんの胸に対して俺は躊躇ためらいなく手を伸ばした。

 ゴロゴロと音を立てて落ちるピンをよそに、俺はふわふわの感触を堪能たんのうした。


「じゃあ、次は私行くから……」


 そう言って神代さんは離れていってしまったけど、腕で胸を隠すような挙動きょどうを見て、更に興奮した。

 しかし、違和感があった……感触がいつもと違う。

 存在はあるのに、また別物を触った感じだった。

 成る程、見た目のお洒落しゃれと同じで、はさぬのによって楽しみ方が広がるのか。


「どうぞ~」


 そして、自ら俺の方へ向かってきた栗野の相手をする。

 こっちも同じく普段と違かった。

 ニットって基本的にふわふわしているらしい……その素材を使った服を持っていないので知らなかったが、意識するとピッタリ肌と一体化いったいかしているみたいだった。

 神代さんと違ったのは、栗野の場合表情にも変化があったことだ。

 俺だけじゃなくて、栗野も新しい体験たいけんを楽しんでいる事がわかる。

 多分、神代さんとは違って栗野には思い描いていた感覚というのがあったのだろう。

 それは俺にもあるから判るのだが、以前と比較することが衝撃インパクトに繋がっている。

 神代さんはまだ触られることそのものに緊張しているから、栗野のように毎回の感覚も楽しんでほしいよなぁ。


「そんなにずっと触っていると、大きくなっちゃいますよ?」

「それは良くないな」

「え? 大きい方がいいんじゃ……」

「そんな訳ないだろ。大きなやつよりも、よっぽどかわいい形なのにもったいない」

「ふふっ、褒め上手なんですから……次、安本くんの番ですよ」

「おう」


 栗野くりの満面まんめんみを後に、俺はボールを転がした。

 運よく、初回で全てのピンが倒れてストライクが出た。

 おっ、これはスッキリする感覚だな。

 いつか、このピンのように二人とも押し倒してみたいものだと考えながら、またふわふわの感触を味わいに戻った。

 最後の方には、ホームラン打った時に取り決めたサービスで膝枕ひざまくらをしてもらった。

 頭の裏に太ももの柔らかさ、手に胸の柔らかさを感じながら安らかな気分だったが、後に来た子連れの客が隣のレーンに来たので、あまりしてもらえなかった。

 でも、二人の太ももはどちらも満足したし、求めすぎても飽きるだけだろうと前向きポジティブに考えるのであった。

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