第6話 ギャップ萌え四重奏

 週末、俺は気付いてしまった。

 栗野くりのどころか神代かみしろさんとも連絡先交換してない!

 つまり、このままでは毎日続けていた女の子の胸を揉むという生きがいが果たされなくなってしまう。

 なんか……女の子って一括ひとくくりにすると悪いおじさんみたいだな。

 俺はこれでも健全けんぜんな男子学生であり、栗野と神代さんが一種の変わり者という解釈が正しいのだろう。

 いやしかし、困ったな……毎日続けないと、気分でさせてもらえなくなってしまうかもしれない。

 マンネリ化は、それはそれで、怖いけどね。

 幾ら彼女達が生粋きっすいの変わり者だとしても、その可能性は十分にあるのだ。

 やはり、こういうことにも新鮮さが大事なのかもしれない……恋愛とかでも大事なものだってよく聞くし?

 でもなぁ、我慢できないなぁ。

 以前、距離感が大事とか言われたけど、俺達の間にはそんなもの必要ないじゃん? ないから良いんだよ。


 ……ということで、俺は学校の連絡網れんらくもうを取り出した。

 直接家に電話すれば良いだけのだ……片方と繋がれば、そのままもう一人とも連絡を取れる筈だから……と思い栗野に電話をかけた。

 どうして栗野にしたかって? 神代さんってお嬢様っぽくて親が出た時に話通すのが面倒くさそうだから……目をつけられたくないしなぁ。

 数分待つと、栗野の声が聞こえた。


『もしもし……』

「栗野? 俺だ、安本やすもと

『え、安本くんですか? どうして電話?』

「連絡手段がこれしかなかったから。何処か出掛けに行かないか?」

『すごく突然ですね。で、デート……という事でしょうか』


 あれ、やっぱり忙しかったかな。

 驚いているだけなのか、動揺どうようしているだけなのか、声だけだと判断つかない。

 デート……かぁ、言い響きだね。

 馴染なじみないことだけど、それ以上のことをしている気がするので、自然と羞恥心しゅうちしんはなかった。


「そんな感じだけど、呼べれば神代も一緒で。俺、連絡手段が電話しかないから頼みたいんだけど……」

『あっさり言いますね。まだ、私は行くって返事していないんですけど、まゆちゃんの名前出されたら行かない訳にはいかないじゃないですか。相変わらず狡いんですね』


 まったくそんなつもりはなかったのに、勘違いされてしまった。けれど、なんだか嫌がる様子はなく、呆れるようで楽しそうにしている声音こわねが聴こえた。

 あ、そっか……俺も心がおどって話を急ぎすぎてしまったようだ。

 そういえば、栗野くりの神代かみしろさんは互いに下の名前で呼び合う仲になったのだが、俺の事は名前で呼んでくれない……今日にでもお願いしてみるか。

 なかよしというなら、そっちの方が自然だろ。

 ……でも、強制するとこじゃないし、やっぱり距離感大事かもしれないから、まだやめておこう。


「いや、なんか……急かしたみたいで悪い」

『今更ですか。良いですよ、やる事もあまりありませんでしたし、それに……』

「それに?」

『もー、言わせないで下さいよ。それでは、待ち合わせ時間と場所を決めましょうか』


 電話でんわしだと、やっぱり表情が見えなくてわかりにくいな……何を言いたかったのか、わからなかった。何かを期待していたのかな?


 その後、時間と場所を決めて電話を切った。

 会ったら、今度からはスマホから直接連絡とれるようにしないとな。

 早く顔を見たいな……やっばぁ、栗野のこと本当に好きみたいだ。

 でも、神代さんもいるんだよな……彼女の胸も、やはり良かったから、非常に迷っている。

 告白して成功確率が高いのは、やっぱり神代さんの方なのだけど、それがきっかけで栗野との関係を終わらせたくない。

 いや、逆でも然りか。

 あー、じゃあこれ告白できないやつだ……ふっ、いいさ、この関係が進めば自然とヤれるだろう。

 案外あんがいすぐにちてしまうかもしてないし、あまり恋愛に繋げようと考えるのは彼女達にも失礼だ。

 友情だと思っていたのに、突然好きと言われてしらけてしまうという話はよく聞くからなぁ……俺の場合は下心だけど、似たようなものだろう。

 身体の関係と心の関係は違うのだから、その辺はわきまえなければいけない。

 そんなこころがまえをしながら着替えを済ませて、俺は予定の10分前に集合場合へ着くように家を出た。


 しかし、現地に着いてから時間までに二人はあらわれなかった。

 10分遅れた時点で、心配のあまりスマホから家に電話をかけてみようとまで考え出した瞬間、二人の姿が見えた。


「ごめんなさい。ちょっと、色々ありまして……」

「本当、私が悪かったから、香夜かやちゃんのことは責めないであげて」

「怒ってないから安心してくれ。むしろ、何事もなくて安心したよ」


 本当はへりくだった態度たいどの神代さんに意地悪してやりたかったけど、栗野にも罪悪感が生まれてしまいそうなのでやめた。

 それに、俺が急に呼び出した訳だから上から目線でいすぎると今回ばかりは嫌われかねない。


「まあ、それはそうとして、連絡先交換しようか。毎回電話は流石にな……あと、二人とも服似合ってるよ」

「ふーん、ちゃんと褒められるんだ」

「神代さんってカジュアルな服着ると思っていたのに、華奢な服着るんだね」


 神代さんの服装はふわふわニットのカーデガンにスイングスカートと、美人の彼女が着るにしてはギャップが出て良かった。


「め、目敏めざとい」

「逆に栗野は少し大人っぽい」


 ウエストベルト付きのニットセットアップが、少し大きめに見えた。

 ひじを伸ばすと、ややそでが長く、少しそでになりかけている。


「実は、今日は服を交換してみたんですよ……ニットって、胸の大きさがはっきりしちゃうから少し苦手なんですけどね」

「あー、成る程なぁ」


 通りで違和感いわかんがあったわけだ……って考えても、言われなかったらそのまま疑わなかっただろうな。

 むしろギャップとして効果が出ていたくらいだし……まあ、この二人は元の素材が良いからなぁ。

 胸の大きさが目立つのに、その選択……俺が気にしないという部分を信じてくれている感じがするのも、魅力みりょくでしかない。

 てか、服の交換で待ち合わせに遅れたのなら別にあやまる必要なかったよな……そこは彼女たちの謙虚けんきょな部分だと思っておくか。


「私達って、多少身長差はあるんですけど、、あんまり違和感いわかんなかったでしょう?」

「ああ、初対面で見たら絶対気付けないな」

「んー、やっぱり性格って、ファッションセンスにつながっちゃうのかな」

「ああ、神代さんはその傾向あるかもね」

「え、どうして?」

「だって、イメージとか気にするだろ」


 だからこそ、今日の服装はギャップえがいつもより激しかった。

 俺達の前ではそこまで気にしなくなり始めているのかな。


「あー、そういう部分で無意識に選んでいるのは否めない……」

「それを加味かみして言うけど、今日の服装は二人とも似合ってるよ」

「ありがとうございます」

「もー、この女たらしはさぁ……」


 栗野くりのが笑顔で感謝を述べるのに対して、神代かみしろさんが髪の毛を指で弄ってねたように見せるが、口元を見れば喜んでいるのは一目瞭然いちもくりょうぜんだった。

 素直じゃないな……そこがまた良いんだけどね。

 今日のコーデに、そのほのかな微笑ほほえみはマッチしていた。


「え……ちょっと、何するの?」


 そんな可愛らしさに、俺はつい神代さんの頭をでてしまった。

 胸に比べれば、敷居しきいが低いからあまり躊躇ちゅうちょしなかったことには撫で始めてから気付いた。

 口で文句を言いつつ、手で振り払わない……それどころか、段々安らかな顔になっていった。

 おいおい、性感帯でもないのに、なんて色っぽい顔しているんだよ。

 折角せっかくの美人が台無しだが、また別の魅力が引き立った。


「なんか、安本くんの触り方って優しいんだよね。胸もそうだけど、ふんわり柔らかい感覚」

「それは、神代さんの胸も髪もふわふわだからだよ。俺だってさわ心地ごこちの良さに驚いたからな」

「また適当言っちゃって……褒めてあげてるのに自分がリードしなきゃ気が済まないんだから」

「よければ、私にもしてくれていいんですよ?」


 そして、今度は栗野がこれ見よがしにと頭を突き出してきた。

 仕方ないな、と俺はその頭も撫でるが、毛先まで流すようにした。

 人通りの多いところではないけれど、通りがかりのおばあさんに微笑ほほえましそうな目線を送られた。

 仲のいい兄妹と思われたのかな。


「え? まゆちゃんと違いますよね?」

「違うぞ。栗野の髪の触り心地を知りたかったんだ。それに、セットアップに合わせて、上から下まで撫でたかったんだ」

「これも良いんですが、私もしっかり優しい感じでお願いします」

「ははっ、悪い。そんな反応が見たくて態とだったよ」


 あまり力を入れずに撫でたのだが、触られている身からするとやはりそこまで感覚がないのだろう。

 今度はしっかりと撫でて引き寄せる……近くで見ると可愛い妹二人だよな。

 とはいえ、なんだか神代さんの方がむすっとした表情を作った。


「ほら、香夜かやちゃんもこの男が悪いやつだと思うよね?」

「悪いのかはともかく、魔性ましょうそなえているのは間違いなさそうです」


 えー、二人がそれを言うのかよ。

 栗野も神代さんも、それぞれが行動一つで垣間かいま見せる色気いろけがあることを自覚していないだろ。

 特に、恥じらいを見せる時は普段では絶対に見ることのできない破壊力はかいりょく抜群ばつぐん可愛とうとさを有している。

 俺の場合、実は打算ださんなんだよなぁ……いっそ吹っ切れてリア充イケメンになってみるか!

 顔は変えられないって? やかましい! 俺はイケメンだあぁぁ!

 しかし、いくら内心ハイになっても、きちんと彼女達の顔を見たら、意識してしまいそうになり、二人の頭から手を離してしまう。


「あれ、やめちゃうんだ」

「物足りないのか?」

「ち、違う。てか、こっちの台詞なんだけど……勿体ないの」


 撫でるのは俺の方なんだから、神代さんのね方は完全に欲求不満フラストレーションのそれなのだが、そんな顔も普段とのギャップがあってかわいい。


まゆちゃん欲しがっているのに、らすのが上手なんですから。そういうところが魔性なんですよ」

香夜かやちゃん!? 欲しがってないからね!?」

「本人がこう言っていることだし、焦らしているわけじゃないよ」

「本当ですか? 安本くんはわかっている気がします」


 察しの良い栗野があおってくる。

 なんで、俺こんな変な物言いで追い詰められているんだよ。

 絶対俺を言い負かしてみたいとか、そんな魂胆こんたんがあるだろ。


「いやぁ、本当だよ。天然物の魔性を持つ二人には敵わないって。俺が魔性の男だったら、既に彼女の一人や二人作っているさ」

「二人!?」

「いや、魔性ならそうなんじゃないのか? 知らないけど」


 まあ、実際彼女何人作ろうが、その彼女同士も納得しているなら良いと思うけどな。

 同性愛や兄妹愛とかとそう変わり……あるかの是非ぜひは置いておいて、他人に迷惑めいわくかけないなら問題ないだろう。

 勿論もちろん、結婚制度には望まれないことだろうけどね。


「確かに、安本くんにどうして彼女がいないのか不思議で堪りませんね」

「本当はいたりしないの?」

「本当にいたら、お前らの胸を揉んだ時点で不味まずいだろ」


 不味いというか、アウトだ……簡単に浮気うわき判定はんていが出る。

 俺はそんな奴にはなりたくないし、彼女がいないのは作ろうとしなかっただけなのかもな。

 彼女ができないのと作らないのは、結果論で同じだからどうでもいいけどな。


「あ、そっか。じゃあ、行動しなかっただけなんだね」

「今は行動できていると?」

「急に私達呼び出して行動力無いと、本気で言っているの?」

「冗談だよ。神代さんが褒め上手だったから、ちょっととぼけた」

「引っかかっちゃった~」


 神代さんはふざけてつややかな顔を見せてきた。

 本当この子は感情の変化が激しいな……最高かよ。


「とはいえ、実際休日だから二人の胸を揉めないと絶望して呼び出したんだ。行動力はあるのかよくわからないな」

「急にデリカシーの欠片も無くなったのはどうして? ねえ、どうして?」


 今度は、まじまじと俺の顔を見つめながら問い詰めてきた。

 今日の神代さんノリノリだな。


「このタイミングなら、引かないと思ったんだ」

「別に、どのタイミングでも安本やすもとくんに引いたりしないよ」

「そうですよ。安本くんが私達の胸ばかり見ているのは知っているんですから」

「おい、ちょっと待てよ。触る時とその直前以外はあまり見てないだろ」

「ふふっ、仕返しです!」

「流石、香夜ちゃんやるー! それで、これからの予定は無いってこと?」

「予定はないな。退屈にさせる気はないけど……」

「一体何をしようとしているのかなー?」


 俺が卑猥ひわいな事を考えているとでも思ったのだろうか。

 それは、後回しだ。


「ちょっと、運動とかどうかなって」

「お、おおう。うっ、運動……」

「いや、どうしたんだよ、神代さん……」


 何故か、神代さんが俺の言葉に過剰反応オーバーリアクションしてきたので、その理由を考えた。

 ポーカーフェイスで見つめる間に、するどい俺はあっと気付いた。


「もう、自分は卑猥ひわいな事言う女ですって認めて良いんだぞ」

「女心ガン無視の最底辺発言さいていへんはつげんにドン引きだよ?」

「どのタイミングでも引かないって言ったのはどの口だよ」


 俺は不貞腐ふてくされたような顔を浮かべると、神代かみしろさんが自分の口を指差し笑う。


「あははっ、この口でした~。でも、言ってくれるなら言わせようとしていたよね?」

「どうかな、自覚があるなら言うんだろうなって思った程度だよ」

「ああ言えばこう言う……」

「まあまあ、安本くんに任せましょう」


 そして、栗野くりのは期待の眼差しで俺を見つめた。

 特別な事をしようとしている訳ではないが、単純に身体を動かすのも悪くないだろう……と、俺達はアミューズメント施設へと向かった。

 そこにはスポーツを楽しめる場所もあるからな。

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