第10話マブシンのアゼル・最終話
「中にいる連中に警告する。貴様らは異世界条約第三条に違反している。速やかに武装を解除して投稿することを命じる」
アゼルの母親であるイゼル・フォン・シュタイナー武装親衛隊大尉は大語で、ホテル内にいる俺たちに向かって警告している。
「3分だけ時間をやろう。もし時間内に投降しない場合は実力をもって貴様らを鎮圧する」
そういうと、彼女は森の中に隠していた、彼女の使い魔、「ヤークトティーガー」をホテルの敷地内に前進させた。
ヤークトティーガーはドイツ軍最強の戦車キングタイガーⅡの砲塔を取り外し、固定戦闘室に替えた、要はタイガー突撃砲である。しかも主砲が120mmという化け物でこの戦車を撃破できる連合国戦車は存在しなかった。
「お、おい、アゼルどうするんだよ」
「まさか母上が人間界に来てるとはな」
「俺とおまえの母親が出会うのはもっと後になってからのハズだろ」
「あなたたち先ほどから何を話しているんですの」
「うるさいから、おまえは黙ってろ」
「きーっ、人をバカにして」
「おまえらいいかげんにしろ。今は喧嘩なんかしてる場合・・・」
ヤークトティーガーの120㎜砲が火を噴き、ホテルの天井が吹き飛ぶ。
「今のは最後通告だ。今すぐ出てこないと、今度は貴様らのいる部屋に直撃させるからな」
「降伏しましょ。今すぐ投降するべきですわ」
「さっきまでの威勢はどうしたんだよ」
「そんなの命あってのものだねですわ。120mm砲でバラバラにされるなんてまっぴらですから」
「確かにな、おい、アゼルここは大人しく降伏したほうがいいだろ」
「・・・だめだ」
「え」
「なに言ってるんですの、この大馬鹿者」
「ここで、貴様と母上が出会ってしまったら、歴史が狂ってしまう」
「だからって、おまえの使い魔じゃ、あれには歯が立たないぞ」
「・・・ベス。私が時間かせぎするから、その間にこの男を連れて、裏口から脱出しろ」
「ええ、かまいませんけど。まさかあなた」
「それじゃあ、頼むぞ」
自分の使い魔のヤークトパンサーに乗り込み、
「いくぞ、ウオルフィ、パンツアーフォー」
アゼルを乗せたウオルフィは勢いよくホテルの前庭へと飛び出していった。
「バカめ、どこのどいつか知らんが血迷ったか」
イゼルも自分の使い魔であるヤークトティーガーに乗り込んだ。
にらみ合う二台の戦車。
「どうやら、貴様も魔界の貴族のようだが、人間界で天界と武力衝突を起こすのは重大な異世界間条約違反になることを知らないわけではあるまい。大人しく投降しろ。貴様の使い魔の88mmでは私のティーガーを倒すことはできんぞ」
・・・わかってます。しかし、母上、今はこうするしかないんです。
アゼルの88mmが火を噴く。
「バカめ、無駄なあがきを」
近距離にも関わらず、イルザのティーガーはいとも簡単に砲弾をはじき返した。
「今度はこちらの番だな」
イルザのテーガーの120mm砲が火を噴き、一撃でアゼルの戦車を撃破した。
「アゼル」
俺はベスが止めるのを振り解き、ホテルの前庭に飛び出していった。
そして、大破したウオルフィからアゼルを引きづり出した。
幸い気を失ってるだけで、たいしたケガはしていない。
「よかった」
一部始終見ていたイルザは戦車から身を乗り出して、
「おい、人間、そこをどけ!貴様には関係ないことだ。その者から離れろ」
「この子をどうするつもりだ」
「条約違反は重大な罪だ。しかも執行官であるわたしを攻撃するとは、見せしめのためにもこの場で処刑する」
冗談じゃない。母親に自分の娘に手をかけさせるわけには絶対いかない。
「いやだ。俺はここを離れない」
「死ぬぞ人間」
「やれるもんなら、やってみろ」
俺はチビりそうになるのを必死に我慢して、そうタンカを切った。
「・・・わたしに構うな。おまえは逃げろ」
弱弱しく呟くアゼル。くそー、俺だって、本当は逃げ出したいよ。でも、ここで逃げたら一生後悔する。
「最後の警告だ。人間そこを立ち去れ」
「いやだ」
俺はイルザの目を直視する。本気で俺もやる気だ。
「・・・そうか、なら死ぬがいい人間」
俺に向かって120mm砲が火を噴く。
くそー、俺はここで死ぬのか。
物凄い爆発とともに俺の意識は遠のいていく。
「おい、速水しっかりしろ」
俺は薄れた意識の中、微かに聞こえるアゼルの声で意識を取り戻した。
「よかった。バカ者め、無茶ばかりしおって」
俺の顔をのぞきこむように、アゼルは泣きながら、俺を膝のうえで介護していた。
俺は目線を正面の黒い大きな物体に移した。それはべスの使い魔のトータスの残骸だった。
「ったく、あなたのせいで、わたくしは大損害ですわ」
あの時、120mm砲が直撃する直前,べスがトータスを俺の前に出現させてくれたのだ。
「これは借りですかね。いつか返してもらいますから」
サンキュー、べス、おまえ結構いいとこあるじゃん。とにかく俺はなんとか命びろいしたわけだが、まだカタはついていない。
俺たちのやりとりを見ていたイルザはしばらく、無言のまま静観していたが、しばらくすると戦車から降りて、こちらに歩み寄ってきた。
「・・・母上」
イルザに聞こえないように小さく呟くアゼル。
俺たちの目の前まできて、冷たい氷のような眼差しで俺たちを見下ろすイルザ。こうしてみると、確かにアゼルに似ている。やはり親子といったところか。
「人間・・・貴様・・・」
イルザの琥珀色の眼から目が離せない。
「貴様は・・・貴様は本当に」
さあ、どうする。もう俺達には何の手立てもない。
だが、次の瞬間、
「なんて勇敢な男なのだ。貴様のような男は魔界広しといえどもまずいないだろう」
と、なんとイルザのやつ、俺に抱き着いてきたのだ。
「なあ?」
「は・・・いや、なんなんだ」
俺だけでなく、アゼルとべスの二人も,イルザのあまりの変貌ぶりにまともに声も出ない。
イルザはそんな二人を無視して、
「わたしは貴様のような男を待っていたのだ。父上の見合いの相手など家柄だけいいふぬけぞろいで、話にならん。決めた。お前をわたしの婿にしてやろう」
なにがなんだかわからないが、どうや俺はイルザに気に入られたようだ。アゼルから聞いた話とは違うが、結果オーライといったところか。
ところが、アゼルが急に反対してきた。
「ちよっと待て。そなた自分の言ってることは分かってるのか。相手は下等種族の人間だぞ。それを婿にするなど」
「関係ないわ。この男こそ、わたしの伴侶に相応しい勇敢な男。種族の壁などささいな問題だ」
「いや、この人間はスケベでぐーたらで、ろくでなしだぞ」
「おいおい、アゼル、おまえはせっかく上手くいきそうな話をぶち壊すつもりか」
「黙れ、とにかくまだこの男と結婚するなど論外だ。考え直せ」
「さっきから、貴様、邪魔ばかりしてるが、この人間のなんなのだ」
「いや・・・それは・・・とにかく、まだ結婚など早い」
「わかった。貴様この人間に恋しているのだろう」
イルザに確信を突かれ、真っ赤になるアゼル。
「バ、バカも休み休み言え」
「なら、黙っててもらおうか。わたしとこの人間の問題なのだからな」
俺たち三人の痴話げんかについていけないとばかりにべスのやつ早々に退散していった。
「これ以上つきあいきれませんわ。あとはお三方でやってください」
トータスの残骸とともに光の中に消えていくべス。
「あー、貴様一人だけ逃げるな」
大声でアゼルが叫ぶが、後の祭り。
その間に俺を立ち上がらせ、身体を寄せてくるイルザ。
「それじゃ、さっそく魔界に戻って、父上に婿候補が決まったとお知らせせねば」
アゼルは何とかして、俺たちの間に入り込み、二人を割くこうと必死だ。
「そなた、いいから、少し落ち着け。生涯の伴侶をこんなに簡単に決めていいのか」
「私は十分熟慮したうえで、決めたのだ。貴様にとやかく言われる筋合いはない」
「どこが熟慮しただ。5分も考えていないだろう」
なんんだかわけがわからんことになってきた。娘が父親と母親の結婚を阻止しようとしているわけだが、そんなことをしたら娘であるアゼルは生まれてこなくなる。
うーん、本当にどうしたもんか。
「だから、どうして貴様は邪魔をするんだ」
「邪魔をしてるわけではない。まだ、早いといってるだけだ」
なんだかアゼルのやつ結婚しようとする娘を必死で止める父親のようだ。
「こうなったら、実力で貴様を排除するしかなさそうだな」
「面白い。先ほどのようにはいかんぞ」
げ、マジでこの母娘、また戦争を始めるつもりだよ。
「アゼルもういいだろう。どうせイルザと俺は結婚するわけだし」
「そうか。人間貴様も我が婿になることを同意するか」
「だめだ!まだこのヘタレと結婚させるわけにはいかない。わたしにはこいつをマシな人間にする義務が・・・」
燃え落ちて廃墟となったホテルの前で、俺とアゼルとイルザの三人はいつまでも大声で怒鳴りあっていた。
山の向こう側がしだいに明るくなっていき、眩い早朝の光があたり一面を照らしだしていく。
「・・・俺の高校生活、これからどうなるの」
二人が激しく言い争う中、俺、水谷ツトムは一人、そう呟くのだった。
エンド?
マブシンのアゼル 南極ぱらだいす @nakypa
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