第9話大反撃3



激しく言い争う二人。

今まさに、二人の使い魔である二台の戦車が砲火を交えようとしていた。


冗談じゃねーーーー!!


こんな狭い空間で砲撃戦なんてされたら、とばっちりを食うのは俺なんだからな!

大体俺は足を縛られてて逃げられないんですからね!

二人とも、そこんとこ分かってるんですか!


「アゼル!お姉さん!」


俺は睨み合う二人の間に割って入るよう呼びかけた。


まあ、なんだかんだ言っても二人ともうら若い女の子なわけだし、落ち着いて話し合えば分かり合ことだって可能なはずだよな。ここは一つ大人の俺が二人の間に入って、ことを穏便に済ませるしかないだろう。


「まあまあ、二人ともそう熱くならないで、ここはお互い少し頭を冷やしたほうが………」


「「外野は黙ってろーーーーーー!!」」


「………すんません」


とても、二人の間に俺の入る余地なんかありませんでした。



二人の間に入って仲裁するのを諦めた俺は、縛られたまま、椅子を引きづりながら部屋の隅へと避難した。


あ~あ、こうなったら最悪の事態も想定して、観念するしかね~な。


ところが俺の予想に反して、魔界武装親衛隊少尉アゼル・フォン・シュタイナーと天帝近衛師団中尉エリザベス・マクリーンは、召還した戦車型使い魔、ヤークトパンサーの「ウォルフィ」とトータスの「コリンズ」をほったらかしにして、カラオケで歌う順番のことでもめている今時の女子高生のごとく激しい口喧嘩をおっ始めやがった。


「だいたいマクリーン、貴様は昔から何かといえばしゃしゃり出てきおって。貴様はいつも場違いな場所に場違いな時に現れるお邪魔虫野郎だ!」


「あらあら、そちらこそ礼儀も節度もまるっきり持ち合わせていない無作法者じゃありませんこと。そんなだから「マブシンのアゼル」とか呼ばれているのですわ。それが分かりませんこと?」


なるほど、魔界武装親衛隊だから「マブシン」なんだ。

などと、俺が妙なことに感心している間にも二人の喧嘩は更にヒートアップ。


「ふん!「マブシンのアゼル」などと呼んでいるのは貴様ら天界の低脳天使どもくらいだろうが!」


「ホント、おめでたい人ですこと。ワタクシたちだけじゃなくて、あなたのご同僚も影ではそう呼んでいるのを知らないのですか?」


「なにーーー!!」


やばい!アゼルの奴、完全にブチ切れてやがる。


「魔界の名門貴族の令嬢が、何を血迷ったのか人間と結婚して生まれたのが、あなた。影では皆、あなたのことを哀れんでいるのですよ。可愛そうな「マブシンのアゼル」って」


………すみません。


でも、悪い気はしないよな。

いや~、魔界の名門貴族の令嬢のハートを射止めた俺って、結構色男?


アホか俺!今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ!


「キサマー!母上を愚弄するな!」


「まあ、あなたも苦労しますわよね。あのご両親じゃ。ほほほほ、お気の毒様」


お姉さん、いくらなんでも本人がここにいるんだぜ!


俺は思わず、


「ちょっと!本人がここにいるんだから、もう少し日本的な配慮のある遠回しな表現を用いて下さいよ!」


と、お姉さんに食って掛かった。


「あら、そうでしたわね。ごめんなさい。アゼルさん、こんなロクデナシで救いがたい人間失格な父親をお持ちになって、本当にお気の毒様」


「お姉さん!全然とゆーか、むしろ余計ヒドイことになってるんですけど!」


その時、俺とお姉さんが言い争いしてる間、ずっと沈黙していたアゼルが、うら若き乙女が口にするにはあまりにも不適切すぎる発言をかましてくれました。


「わ、私が「マブシンのアゼル」なら、貴様は「テ〇キのベス」だろーが!」


「なっ!!!」


………この時ばかりは、本気で死にたくなりました。


「だ、誰が「〇コキのベス」ですの!」


「貴様だ。天帝近衛師団装甲騎兵大隊のお荷物。天界の恥さらし。それが貴様エリザベス・マクリーンだろーが!」


アゼルのあまりにも危険極まる言葉に一瞬我を失った俺だが、直ぐに親の当然の義務として自分の娘に教育的指導を行った。


「おい、アゼル!いくら何でも若い女の子が「テ〇キ」はねーだろーが!」


だが、アゼルのやつ、


「ん、何だ?何を怒っているのだ?」


と、まるでことの重大さがわかっていない。


「だからー、「テコ〇」は、マズイって」


マズイなんてもんじゃないよ。ただでさえ、最近の日本は頭の悪い大人が社会の上層部に増えてるんだから、青少年何とか条例違反とかいって、この若さで警察のご厄介になるのは、まっぴらごめんだよ!


「「テ〇キ」のどこがマズイんだ?天帝近衛師団装甲騎兵大隊のエリザベスだから、「テ〇キのベス」と呼んでるだけだろーが」


「だから、そうじゃなくて、その~、なんだ~、「〇コキ」は色々とマズイんだよ!」


「そんなんじゃ、分からないだろ。ちゃんと「テコ〇」のどこがマズイのか説明せんか!」


ああ~~!こいつワザとやってるんじゃないのか?


「だから、「テ〇キ」はこの国では、少しというか、かなり若い女の子が使うのは憚られる下品な単語なんだよ!」


さすがにここまで言えばことの重大さを理解したはず、と思ったのだが、


「何を言う。「パン〇ィーセンサー」とか言ってる品性下劣な貴様が」


「ホント、ワタクシの裸を覗き見ようとした人の言葉とは思えませんわ」


今度はさっきまで喧嘩してた二人が共闘して俺への攻撃!


イジメですか?

俺に対するイジメですか?!


「男はいいんだよ!少しくらい下ネタ言ったって!つーか、むしろ下ネタ言ったり、宴会で裸踊りの一つくらいできないよーじゃ、社会に出てからやってけないんだよ!」


「おい、何で裸踊りができないといけないのだ?」


怪訝な眼差しを俺に向けるアゼル。


「俺の知ってる課長から部長になったかと思ったら、今度は取締役から係長になったりする「時をかけるサラリーマン」は、宴会の席でお得意様の裸踊りのリクエストを断ったばかりに上司が代わってやるはめになっちまったんだよ!」


「だから?」


「え?だから、男は大人になったら、そういうことも重要な社交儀礼というか………」


「そのお得意様とは女なのか?」


「え?いや確かおっさんだったけど」


「では何故そいつは男の裸を見たがるんだ?ホモなのか?」


「いや、そうじゃないけど。裸踊りは宴会の定番の余興で………」


「そもそもそんな理不尽な要求をするほうが間違ってるだろうが。人の嫌がることを強要するなどもってのほかだ!」


「そうかもしれないけど、取引先のお得意様の頼みを断ったら、会社の経営が」


「そんな、嫌がる男の裸を見たがるドSの変質者と取引せねばやっていけないような会社など、つぶれたほうが世の中のためだ!」


………なんだかもう、ほとほと人生に疲れ果てました。


自分だけ蚊帳の外にされたのが気に入らなかったのか、お姉さんが強引に話に割り込んできた。


「ちょっと、あなたたちワタクシをほったらかしにして、なに二人で盛り上がってるんですの!」


いや、別に盛り上がってるわけじゃないんだけど。


「そもそも「〇コキのベス」というネーミングセンス自体問題ですわ!」


「うるさい!「テ〇キのベス」は黙ってろ!」


「あー!また「テコ〇のベス」って言いいましたわね!」


「「〇コキのベス」!「テ〇キのベス」!「テコ〇のベス」!「〇コ〇のベス」!」


アゼル、お前は小学生か!


「キーーー!「マブシンのアゼル」のくせに!」


俺を無視して、メンチを切りあうアゼルとお姉さん。。


ああ~~、何で誰も俺の話を聞いてくれないんだよーー!


「もうやめるざます!!」


完全に頭がパニくった俺は、イカれた口調で、両端を握りしめた縄(俺を縛るのに使った残りが床に落ちていたので、それを拾って)を首にかけながら、大声で叫んだ。


「それ以上女の子の口から「テ〇キ」なんて言葉を聞くくらいなら、拙者、自分で首締めて死ぬでござるよーー!!」


自分でいうのもなんですが、見事な壊れっぷりでした。



俺の決死の説得(?)が功を奏したのか、とりあえず、俺の住む街でハルマゲドンが起こるのを回避できたようだ。

俺も自分自身を何とか落ち着かせた後、小学生レベルの喧嘩をしてた二人を目の前に正座させて、柄にもなく説教を始めた。


「だいたいなんで二人はそんなに仲が悪いんだよ?そりゃ、敵同士だからある程度はしかたないけど、それにしてもお前ら度が過ぎるよ」


ばつが悪そうに横を向きながら、ポツリと呟くアゼル。


「それは……こいつが……幼稚園の時に」


えっ!?


今、何気に凄いこと言わなかったか?


「あら、あなた、まだあの時のことを根に持っているんですの?」


「当たり前だ!あれほどの屈辱忘れることなどできるわけないだろうが」


再び、正座したまま、いがみ合うアゼルとお姉さん。

ああ~、こいつら本当に手間かけさせやがって。

でも、今の俺にはそんなことよりもっと重要な問題で頭は一杯だよ。


「おい、ちょっと待て!おまえら何で一緒の幼稚園に通ってんだよ?」


「何か問題でもあるか?」


と、俺の質問に平然と答えるアゼル。


「あるよ!大アリだよ!お前たち戦争してんだろ!何で敵対してる両陣営のお子様が、仲良く同じ幼稚園でお遊戯せにゃあならんのだ!」


戦争してる両世界のお子様が同じ幼稚園で仲良くお手てつないで、歌にダンスなんて、あまりにも違和感ありすぎるだろうが!

まあ、それ以前に天界とか魔界に幼稚園があることに驚いたんだけど。


ところが、お姉さんは平然と、


「確かにワタクシたち天界とこの女の住む魔界は人間界をめぐって長年争っていますが、別に天界と魔界が全面戦争してるわけじゃありませんのよ。まあ、そうですわね。分かりやすく例えるなら、スーパーの特売品コーナーでお一人様二個限定の卵のパックの最後の一つを取り合いしているご近所さんと、いったところでしょうか」


俺たち人間の神経をかなり逆撫でするような例を挙げて、懇切丁寧に答えてくれました。


「お、俺たちの世界って、スーパーの特売の卵パック程度の価値なのかよ!」


「あら、卵のほうがよほど役にたちますわよ。卵焼き、オムレツ、目玉焼き、ああ~、何だか牛丼屋に行って、牛丼大盛り、ツユだく、生卵つきを食べたいですわ」


「ふん、あいかわらず、食うことしか脳のない馬鹿天使だな!」


「なんですって!」


「やめーーーーい!」


これ以上議論しても無駄と判断した俺は強引にこの話を終わらせた。


それにしても、ここまで天使にコケにされてる俺たち人間って、全世界二十億人の〇リ〇ト教徒のことを考えたら、なんかもう目頭が熱くなってきちゃいました!


とりあえず、気を取り直して、俺は再び説教タイムを開始した。


「で、アゼル、おまえ何されたんだ?」


「……言いたくない」


「はあ?」


ふてくされた子供のように横をプイと向くアゼル。

よほど知られたくないような恥ずかしい記憶なのだろうか?

まあ、本人が言いたくないことを無理やり聞き出すのはどうかと思うし。


などと、俺が物分かりのいい父親っぷりを発揮してたら、よせばいいのにお姉さんが横から、


「あっ、それはですね~」


と、強引に口を挟んできた。


それに対してアゼルは一言、


「……牛乳瓶」


と、小声で呟いた。


えっ、「牛乳瓶」?


何のことか分からずにキョトンとしてる俺とは正反対に、アゼルの横で正座していたお姉さんの顔から見る見る血の気が失せていき、


「え、えーと、まあ~、よくよく考えてみれば、たいしたことじゃありませんでしたわ」 


と言いながら、身体をガクガクと震わせるのでありました。


何なの「牛乳瓶」って?!


すげー、気になるんですけど!


ところが、今度は、


「それよりも、今重要なのは、水谷ツトムさん、あなたの今後の処遇ですわ」


と、お姉さんが慌てて話題を変えてきた。


俺の今後の処遇?


「ワタクシは、上からアゼルの「水谷ツトム真人間計画」の阻止を命令されています。それが達成されるまでは、一歩も引くつもりはありませんわ!」


………「水谷ツトム真人間計画」って。


俺ってそんなに酷い人間なんですか?!

もっと他にいるでしょう!

真人間しないといけない人間が!

主に永田町周辺に!


実の子供に人間失格の烙印を押されるなんて、年頃の娘を持つ父親って、みんなこういう想いをするものなんだろうか?

などと、俺が一人物思いに耽っていると、アゼルとお姉さんの第二ラウンドの開始のゴングが耳に響いてきた。


「ふざけるな!貴様がどんな命令を受けていようが、知ったことか!私は必ずこの男を真人間にする!」


「ファザコンもここまでくると、もうご立派としかいいようがありませんわね」


「誰がファザコンだ!」


「あなたですわよ。「マブシンのアゼル」さん」


「やかましい!この「テ〇キのベス」が!」


「いいから、二人とも落ち着けっつーの!」


ちょっと年頃の父親らしくキレ気味に叫んでみました。



いいかげんこのへんで終わらせないとキリがないと考え、俺はある提案に踏み切った。


「ああ~、その~、なんだ。要はお姉さんとしては、とにかくアゼルの邪魔をしたいわけですよね」


「ええ、まあ、身も蓋もない言い方ですけど、そういうことですわ」


「とりあえず、完全に計画を頓挫させなくても、いくらかでも計画が支障をきたすような状況になれば、いいんじゃないですか?」


「そうですわね。ワタクシの受けた命令は「可能な限り」ですから」


「じゃあ、アゼルが俺に行ってる「虐待」、もとい「特訓」の量が減って、俺が自堕落に過ごす時間が増えれば、一応目的は達成されることになるんじゃないですか?」


「ええ、少しでもあなたの「ダメ人間度」が高くなればいいんですから」


ここでようやく俺の考えを見抜いたアゼルが、猛然と食って掛ってきた。


「おい!水谷ツトム、まさかおまえ?」


「そうだよ。俺の一日の予定のうち、自由時間を増やせばいいんだ」


「ふざけるな!もっと勉強時間を増やしてもいいくらいなのに。減らすなど論外だ!」


アゼル、おまえならそう言うと思ったよ。


でもな、


「じゃあ、ここで一戦交えるか?それで俺が怪我でもしたら、魔力で治療するにしたって、大幅に予定が狂うかもしれないぞ。それこそ元も子もないだろ」


と、俺は冷静に話しを続けた。


「そ、それはそうだが………」


俺の正論に反論できず、唇を噛み締めるアゼル。

そして、次に俺はお姉さんの方を向いて、


「お姉さんは、お姉さんで、俺を死なせたりしたら大目玉を食らうんじゃないですか?」


と、静かに話し掛けた。


「………」


やはり、何も言えず黙り込むお姉さん。

まあ、ホントは「ダメ人間度」発言にかなり言いたい事があるんだけど、ここは我慢することにします。


「何も面と向かってドンパチするだけが能じゃないだろ?上手く駆け引きして、自分に有利な状況を作り出すのも優秀な兵士の資質だと思うけどな」


しばらくの静寂の後。


「ふん、仕方ない。ここは貴様の戯言に付き合ってやる!」


と、先にアゼルの方が俺の提案を受け入れた。

大分不満気だが、まあ、このくらいの妥協はしょうがないと判断したようだ。


続いてお姉さんも、


「まあ、別にワタクシはやる気満々なんですけど、見境なく砲火を交えるというのも、あまりお上品とは言えませんし。あなたの提案に同意してもよろしくてよ」


と、こちらは少し肩の荷が下りたかのように安堵の表情を浮かべていた。


こうして、俺の天才的な外交手腕によって、人間界における魔界と天界の全面対決、ハルマゲドンは無事回避されたのであった。


すげーな、俺!


自分で自分のことを最大級の賛辞で誉めてやりたい気分だよ!


そんな人生最高のひと時を過ごしてる俺に、マブシンのアゼルさんが、


「それじゃあ、明日から午前と午後、30分ずつ自由時間を増やしてやるが、その分キツくするからな、覚悟しろよ!」


と、ものすごく恩着せがましく仰いました。


「………」


今日という日がずっと続けばいいと、柄にもなく本気でそう思いました。



「ところで、おまえどうやってここまで来たんだ?」


俺はアゼルがここに現れた時から、疑問に思ってたことを彼女に質問した。

お姉さんの話じゃ、この建物の周辺にはかなりヤバイもんが沢山仕掛けられてるようだが、こいつが来たとき、何の反応もなかったし。


「そうですわ。アゼル、あなたどうやってワタクシが一週間かけて構築した、この要塞の防御線を突破したのです?」


やはり疑問に感じていたのか、お姉さんも少し棘のあるものいいで、アゼルに尋ねた。


召喚した使い魔「ウオルフィ」を元に戻す呪文を唱えていたアゼルはこちらを振り向いて、


「いや、道路から坂を上がりこの建物の裏手にあった車庫から普通に入ってきたのだが」


と、淡々とした口調で、そう答えた。


「……」


俺は言葉を失い、隣にいるお姉さんの方を向いた。


「ああー!何たる不覚!裏口があるなんて思いもよりませんでしたわーーー!!」


大声で上げて、取り乱すお姉さん。


なるほどね。

アゼルがお姉さんのことを「天帝近衛師団のお荷物」っていった理由がよく分かったよ。


「ふふふ、流石はアゼル。ワタクシが生涯のライバルと認めた方だけはありますわ。よくそんな常人には思いつかないような盲点に気づきましたわね」


「いや~、普通この手の建物には車用の出入り口はあるもんなんですよ」


そう、郊外型のこの手の建物には人目につかないよう、必ず車専用の出入り口が完備されているのだ。

俺たち人間にとっては当たり前(?)のことも天界の天使には通じないこともあるんだな。

でも、それにしたって、これから敵を待伏せる建物の構造を十分把握しておかないなんて、この人ホントに天界の軍人さんなのかね。


「ふん、だから言っただろ。こいつは天帝近衛師団のお荷物だとな」


あちゃ~、俺も心の中では思っていたけど。

まあ、口に出すのはちょっと憚られる人物評価をズバリ言ってしまうところが、アゼルらしいといえば、そうなんだけど。


「誰がお荷物ですの!」


「お前に決まっているだろーが!」


………やれやれ、今日のところは何とか穏便に済んだけどこの分じゃ明日からは、また頭痛の種が増えそうだな。


「またかよ!アゼル、話はついたんだから、さっさと帰る支度を」



俺がそう言い終わらないうちに、、突如、正面玄関に面した庭の方から、凄まじい爆発音が聞こえてきた。そして、それと共に建物内に耳をつんざくような警報ベルが鳴り響いた。


「うわ、な、なんなんだ?!」


思わず、動転する俺を横目に見ながら、


「ほら、ごらんなさい。ワタクシのやること、万事抜かりはなくてよ。ワタクシが張り巡らしたトラップはちゃんと正常に作動しましてよ」


と、お姉さんは勝ち誇ったように言い返してきた。


だが、流石はアゼル・フォン・シュタイナー。

魔界武装親衛隊のエリートである彼女は即座に状況判断をすべく、窓際に駆け寄り、双眼鏡で外を覗った。


「馬鹿!なに悠長なこと言ってるんだ!」


「え?」


アゼルに馬鹿者呼ばわりされたお姉さんも今度ばかりは、さっきまでのように言い返したりはしなかった。


「私はここにいるんだぞ!ということは誰か他のやつがここに進入してきたってことだろうが!」


「そんなハズありませんわ!人間は近づけないよう確かに結界を」


オロオロと自信なさげに言い訳をするお姉さん。


「貴様のことだ、どうせ何かポカでも」


俺も窓際まで行って、お姉さんと言い争いをしているアゼルの持ってた双眼鏡を横取り、それを覗きながら、


「いや、アゼル、あいつらはただのご近所さんじゃなさそうだ」


と、緊張した面持ちで、そう言った。


「あれは!」


そこには完全武装した一団が、国道からこのホテルの入り口までまっすぐ伸びる道路沿いに、散開しながら近づいてくるのが見えた。


「間違いない。私と同じ魔界武装親衛隊の兵士たちだ」


俺から取り返した双眼鏡を覗きながらアゼルは苦々しい口調で、そう言った。


それにしたって、何で魔界武装親衛隊の部隊がこんなところにいるんだ?

アゼルを助けに来たっていう雰囲気じゃないし。

なんだか嫌~な予感がするぜ。


「ちょっと!あそこにいるのが指揮官じゃありませんこと?」


いつの間にかお姉さんも窓際まで来ていて、自分の双眼鏡を覗きながら大声で叫んだ。

お姉さんの指差すほうに双眼鏡を向けるアゼル。


「!」


アゼルの身体が急速に強張っていくのが分かる。

こいつがこんなに緊張するなんて初めてじゃないか。

俺はアゼルの後ろからそっと囁きかけた。


「どうしたんだ?知り合いか?」


俺の言葉に我に返るアゼル。

なんだこいつ、凄い冷や汗をかいてるじゃないか。


アゼルは俺の方にチラリと目をやると、慎重に言葉を選びながら、口を開いた。


「……ああ、知ってる。……あの方は魔界武装親衛隊創設以来の最高の兵士であり、魔界13大貴族筆頭シュタイナー家の正当な後継者であり、将来の貴様の伴侶になるお方」


「お、おい!それって」


「魔界武装親衛隊第一機甲師団所属独立装甲猟兵中隊指揮官イルザ・フォン・シュタイナーSS大尉。……私の母上だ」


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