第12話 反抗作戦に向けて
えっと……んんっ?
今のは、私の聞き間違えかな?
あ、それか竜の言葉だったのかもしれないわね!
やーねぇ、もう!変な想像しちゃったわ!
とはいえ、一応確認だけはしておこうかな?
「えーっと、ウェネニーヴちゃん?こ、交尾って、どういう……」
「はい、子作りのことです」
おぅ……そのまんまなの!?
「って、なに言ってるのよ!そんなの無理に決まってるじゃない!」
人と竜……いや、それ以前に私達は女の子同士じゃないの!
真っ赤になりながらそう説得したけど、ウェネニーヴは平然と大丈夫ですと微笑んだ。
「そもそも竜は雌雄同体ですから、なんの問題もありません」
それはそれで問題大ありだよ!
え、じゃあなに?
こんな可憐な美少女に、男の人の
……いえ、ちょっと落ち着こう、エアル。
確かに雌雄同体っていうのにも驚いたけど、そもそもなんで竜が人間相手に求愛してきてるのって話よ。
突然の出来事に思考がついていかず、混乱しかける私に、ウェネニーヴが少し説明させていただきますと、コホンと一息ついて語り始めた。
◆
『ウェネニーヴによる、竜の繁殖方法講座』
それでは、よろしくお願いします。
そもそも、竜という種族にはオスかメスかといった区別はありません。
どちらの機能も、備えているのが普通です。
我が強く、縄張り意識も強い竜族は、かち合えば即戦闘が当たり前。
時には殺し合いに発展する事も、しばしばありますね。
ですが、それでは種が絶えてしまいます。
ですから、戦いの後に両者が生き残った場合は、勝者が敗者を孕ませる事で種を保存するわけです。
なお、これは他種族に敗北した場合にも該当されます。
今回、ワタクシはお姉さまに敗北し、なおかつ生き延びました。
ですから、お姉さまと子作りをしなければなりません。
というか、お姉さま以外ではそういう気になりません。
そのための人化であり、敗北したワタクシが子を孕むのでベースは女体。
故に、この姿というわけです。
ご静聴、ありがとうございました。
◆
ペコリと頭を下げて、ウェネニーヴの説明は終了した。
ふぅん、確かに縄張り争いっていうのは野性動物にはよくある事だけど、種の保存まで絡んでくるなんて、竜族のはもっとハードなのね。
それに敗北は死か孕まされるって、人間だったらかなりキツいシチュエーションだわ。
でも、プライドの高いアーケラード様やリモーレ様なら、「くっ、殺せ……」とか言いそう……。
ウェネニーヴの解説を聞いて、ぼんやりとそんな事を考えながら
「ご理解いただけましたか、お姉さま!さあ、早速ワタクシと交尾いたしましょう!」
「しません!」
私はキッパリ拒否をする。
すると、ウェネニーヴは満面の笑みから一転、奈落の底に突き落とされたかのような、絶望の表情を見せた。
くっ!美少女にこんな顔させるなんて、なんだか心が痛むわ!
だけど、相手の一方的な求愛行動に答えられるほど、私は大人でもなければ、ふしだらでもないのよ!
悪いけど、諦めてくれる事を願っていると、ウェネニーヴの瞳にみるみる涙が溜まっていく。
「お、お姉さまは、ワタクシがお嫌いなんですかぁ……」
ボロボロと大粒の涙を流し、綺麗な顔をくしゃくしゃに歪めながら、彼女は訴えかけてきた。
「お姉さまに嫌われたら、ワタクシはどうしてよいのかわかりません……どうか、見捨てないてくださいぃ……」
はぐれた迷子みたいに泣きながら、ウェネニーヴは私にすがり付く。
「あーあ、泣かせたー!」
「かーわいそう!」
横からわいわいと褌おじさん達が、涙にくれる美少女を擁護し、私を責める。
ええい、いい歳したおっさん達が、囃し立てないでよね!
「あー……ち、違うのよ、ウェネニーヴ。別にあなたが嫌いとか、そういう事じゃないの」
なんとか宥めようと、彼女の頭を撫でながら語りかける。
と、辛うじて泣き止んだ彼女が、上目遣いで顔を私に向けてきた。
「あのね……竜族とか人間とかいう前に、私は女だからその……あ、あなたを孕ませるなんて事はできないのよ」
いくら彼女が望んでも、こればかりはどうしようもない。
だから素直に諦めてくれないかな。
「……なるほど、わかりました」
おおっ、わかってもらえたのね!
思ったよりも、あっさり理解してくれて嬉しいわ。
「つまり、ワタクシがお姉さまを孕ませればよいのですね!」
いや、そうはならんやろ。
「なんで、そうなるのよ!私じゃなくて、他のいい人を探せばいいじゃないの!」
「ワタクシの初めての人(敗北したという意味で)は、お姉さまです!お姉さま以外に、ご主人さまと仰ぐお方も、繁殖したいお方もおりません!」
拒む私に、迫るウェネニーヴ。
まさに平行線の話し合いで、このままでは和解などできそうもない。
ええい、こうなったら……。
「わかったわ、それじゃあこうしましょう。私はある目的があって旅をしてるんだけど、その目的地に着くまでは一緒に行きましょう。で、その道中で私よりもウェネニーヴの眼鏡にかなう人なり竜なりがいたら、私の事は諦めてもらう」
それでどう?と尋ねると、少し考え込んだウェネニーヴはコクリと頷いた。
「性急に事を進めようとすれば、逆に
それで構いませんと、彼女も承諾してくれた。
ふぅ、これでひとまずは安心ね。
「ただ……」
呟いて、ウェネニーヴは私を見る。
「旅の終わりには、必ずお姉さまの
そう言って、パチッとウインクしてみせた。
うっわぁ、すっごく可愛い!
本当に、あの恐ろしい毒竜と同一人物とは思えない美少女だわ……なんか言葉に不穏な気配があった気がしたけど。
しかし、こんな可愛い娘のためだ、なんとかいい人を見つけてあげたい。
私は旅の目標の一つに、彼女のよき伴侶を見つけてあげるというのをこっそりと付け加える事にした。
「どうやら、そっちの話はまとまったみたいだな」
私達の会話が終わるタイミングを見計らって、お頭さんが話しかけてきた。
あ、そういえば彼等はウェネニーヴに用があったんだっけ。
「竜のお嬢ちゃん、あんたに折り入って頼みがあるんだ……」
そう切り出して、先程ウェネニーヴが竜形態の時に聞く耳を持たなかった、彼等の計画について語り始めた。
「……ふうん」
話を聞き終えて、ウェネニーヴは興味の欠片もないといった声色でポツリと呟く。
そんな彼女の反応を受けて、お頭さんを始め『裸がユニフォーム』の面々は、一斉に土下座してお願いしますと拝み倒した。
しかし、それでも彼女の表情に変化はない。
うーん、やっぱり竜にとっては人間のいざこざなんか、どうでもいいんだろうなぁ。
でも、大の大人達がここまでして頼んでるんだから、少しくらいは力を貸してやってほしい。
なんとかしてあげられないかなと、私からも頼もうかと思ったら、ウェネニーヴが何か思いついたのか、不意に私の方に顔を向けた。
「その計画とやらに、お姉さまも参加するのですか?」
「え?いや、私は加わらないけど……」
「じゃあ、やっぱりワタクシも参加しません」
ええっ!?そ、そんな……。
「ワタクシが力を振るうのは、お姉さまの為と我が身を守る時だけです。こんなおっさん達がどうなろうと、興味はありません」
まぁ、本音なんだろうけど、ハッキリと言うなぁ。
どさくさで、また抱きついてくる彼女をなんとか説得しようとしたその時、ふと無数の視線を感じて、そちらに目を向けた。
「お嬢さん……」
視線の主は、もちろんお頭さん達。
彼等は捨てられかけた子犬みたいな目で、私に訴えかけてきていた。
すなわち、「お前も参加してくれや」と。
む、無理だよ、そんなの!
それでなくても、悪徳領主を懲らしめるなんて派手な騒ぎ参加したら、勇者に嗅ぎ付けられるかもしれないし!
こっちだって、一応は逃亡中の身なんだからね!
「頼む、お嬢さん!苦しんでる領民達の為にも、力を貸してくれ!」
うっ……そんな頼まれ方したら、断りづらいじゃないの!ずるいよ、もう!
はぁ……仕方がない。
しばらく悩んだけれど、結局私には彼等を見捨てるという選択はできなかった。
不承不承、手伝う事を告げると、ウェネニーヴも手伝う事を快諾してくれる。
「……ただ、一つだけ条件があります」
せめて、私とウェネニーヴの事は表に出ないよう、あくまで彼等と謎の竜の力で、事を成したという風にしてほしい。
そう条件をつけると、むしろ戸惑われてしまった。
「いいのか?あんたらの功績は、表に出ないって事だぞ?」
「いいんです。私は、なるべく目立ちたくないんですから」
「お姉さまがそう願うなら、ワタクシも同じ意見です」
なんだかわからないけど、私達の意思は堅いと理解して、お頭さんはあんたらの望み通りにすると答えた。
「すまねぇな、お嬢さん」
「そろそろお嬢さんはやめてください。私には、エアルって名前があるんですから」
「ワタクシにも、ウェネニーヴという名前があります」
冗談めかして私達が反論すると、お頭さんもクスッと笑って言い返してきた。
「そりゃ、すまなかった。そういえば、俺も自己紹介がまだだったな」
あ、確かに。
いままで『お頭さん』で通ってたから、聞いてなかったわ。
「俺の名はモルドラドジャガーノッド。『モジャさん』と呼んでくれ」
名前長っ!
一瞬、名前と姓を一緒に告げたのかと思ったけど、『モルドラドジャガーノッド』だけで名前らしい(平民だから姓は無しとのこと)。
それに略称のモジャさんって……名は体を現すって本当なのね。
「よろしく頼むぜ。エアル、ウェネニーヴ!」
そう言って、モジャさんが私達の頭にポンと手をのせた。が、次の瞬間!
ハエでも払うように手を振ったウェネニーヴに吹っ飛ばされて、モジャさんの体が宙を舞う!
そのまま、後方にいた褌おじさん数人を巻き込み、数メートルほど地面を転がってようやく止まった。
突然の事に声もでなかった私の目の前で、ウェネニーヴは不快そうに呟く。
「ワタクシに気安く触れて良いのは、お姉さまだけです」
調子に乗らないでくださいと、彼女は失神するモジャさん達を一瞥した。
んんん……だ、大丈夫なのかな、この調子で……。
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