第104話 お茶の席 梶野伯爵夫人(子爵の叔母)と子爵

裏千家などの茶会で使われる小さな庵


近くでは

水が溜まり、竹が合図を打つように小気味よい音を立ていた。


中では 茶釜からお湯を取り、作法に従って茶筅でお茶をたてる

そうして着物を着た年配の婦人が傍の若者に薄茶を差し出す


「みきさん 貴方の婚約者は欧州へ行くとか」子爵の叔母である梶野伯爵夫人

「はい、叔母様」子爵が微笑みながら答えた。


「茶菓子は京から取り寄せたものですの どうかしら?」


甥でもある

子爵もまた決められた作法を守りながら 答えるのであった。

「さすがに美味です 有難うございます 茶菓子だけでなく器も素晴らしいですね」


「今度は茶懐石に 後でお琴で演奏しましょうか?」「それは楽しみです叔母様」


「私も欧州に行ってみたいものだわ シベリア鉄道を使う方法もあったのだけど

日露戦争もあった事ですから」

高価な茶の器を扱いながらの梶野伯爵夫人の言葉


「そうでしたね」叔母で貴婦人である彼女に子爵が穏やかに答えたのだった。


「飛行船の話も聞いた事があるけれど 空を往くなど少し怖いわ」

「あ‥」「あ!」「また、揺れましたわ」

不安そうな表情を浮かべた大事な叔母にそっと聞いてみる。


「はい、気になりますね しばらく避暑地にでも行ってみますか?」

「‥ええ、そうね」そう答えたのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る