第63話 上海からの客人

父親の屋敷


「上海からの客人?」「はい 旦那様」


「お久しぶりです 伯爵 覚えておられますか?」「・・お前か」

身なりは良い男 だが どこか暗い印象がある


互いに冷たい目をして見つめ合う


「お仕事は順調のようですね 良かったです山之内伯爵」


「何の用だね?」不機嫌そうに聞く 山之内伯爵


「わかっているはずですよ 私どもの望みは・・」


「麻薬のアヘンか」「ええ」

「アヘンは病院にも必要な物 量を少々 増やして輸入できればと・・」


「病院の患者だけでなく 必要がない健康な者にも売る気だろう?」


「ハハッ そのように言われましても」笑みを作る男

「以前なら 二つ返事でしたね 伯爵さま」


「昔は金に困っていた時期もあったが 今は違う」


葉巻に火をつける男

ふうと 気持ちよさそうに煙を吐く


「左様でございますか ふふっ 宜しかったですね」


「・・今は綺麗な仕事をされておられて 堂々としておられるが

昔の一時期の貴方は必死だった」


「若い頃は苦労が多かった 今は昔話に過ぎない」

「アヘン戦争・・アヘンで中国は滅んだと同じだ お前たちはどうする気だ」


「そうですか」

「もう帰ってくれないか?」軽く 相手を睨みながら山之内伯爵は言う


男は葉巻を手持ちの小さな金属の箱に押し込み 火を消した


「では また伯爵さま」

男は軽くお辞儀をして立ち去った


「・・・塩をまいておけ」「旦那様」

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