第11話 手毬と子爵と御店
こちらはお店に雇われた 手毬(てまり)
「ふう 店の前のお掃除は無事に済んだわ・・さて次は 夕飯の準備の手伝い」
手に木製のバケツやホウキを持って 着物が汚れないようにと 紐で
タスキがけをして 頭には ほっかむり それに眼鏡
コマドリのように動き回り 仕事をしていた
「あ!」 よそ見をして 店の前の道で 誰かにぶつかる
「おっと大丈夫かい? おや君? あの列車で会った子かい?」
良い身なりをした脊の高い男
「僕は舞路寺だよ ほら」
「ああ!あの時の」「手毬ちゃんだったね」
「はい」「君は ここで働いているの?」「はい」
「手毬君 夕飯の準備は・・あ!」
「これは 子爵さま 今日はどのようなご用件ですか?」番頭が尋ねる
彼は丁寧に かしこまる
「そういえば 今日は休みだったね いいのかい?」
「子爵様ともあろう方が 何を遠慮されているのです
準備しますから さあ こちらへ」 明るく笑いながら 番頭は言った
「店を開けて てまり君」番頭が声をかける
「はい!番頭さん」
慌てて木戸を開き 店を開く
店に並ぶ 紅茶のお茶の葉や日持ちする洋菓子類のたぐい
コーヒー豆
右側には 日本各地に日本茶や番茶
それに 和洋の陶器の茶碗類に 異国の小物たち
小さなオルゴールも並んでいる
他にも 飲み物類に なにやら珍しい物もある
「いつもの紅茶ですか?それともコーヒーですか?」
「ああ 紅茶とコーヒーを両方頼む 砂糖に長崎のカステラも欲しい
それから 叔父の為に 葉巻を1ケースと洋酒も・・」
「少々 重くなるかな? 紅茶とコーヒーだけは持ってゆくよ
明日 使いの者を寄越す」綾小路子爵
「いえいえ、それには及びません 私どもでお屋敷まで 運びます」
「そうか 助かる・・」
ちらりと 手毬を見る
「運ぶ者の中に彼女もお願い出来るかな?」
「そうそう、実は違うお願い事だが もしよければ人手が足りず
今度 パーテイがあって 彼女にも手伝ってほしいのだか」
「え!」 「私どもは かまいませんが?」「てまり君?」
番頭に問われ「あ、は、はい」と慌てて答えた
「有難う すまないね 助かるよ」にこやかに子爵は笑いかけた
「謝敷と庭を使ったガーデイン・パーテイになる予定だよ
雨が降れば 屋敷内だけになる」
「パーテイの間 お茶やお酒を運んだりする仕事だが」
「華族や名のある商人 それから 異国の客などだが
皆 品格のある素晴らしい方々だよ
難しい仕事ではないから・・手毬ちゃん?」子爵は手毬を見ている
眼が合い ドキンとする 手毬
「は、はい!」多少の緊張もあり 手毬は慌てたように答えた
「屋敷の場所を覚えるためにも ぜひ明日は来てね」子爵は優しく言葉をかける
「それに パーテイの打ち合わせもあるから・・少々時間をもらうよ」
「もし遅くなっても帰りは屋敷の使用人に送らせるから
いいかな?大丈夫かい?それに番頭さん」
「はい 綾小路子爵さま」番頭はうなずく
「てまり君もいいね」 「あ、はい」
「よかった」子爵は微笑んだ。
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