27

 赤信号で止まっているロックウッドの車の助手席に、小鳥が降り立った。ロックウッドはキングス本拠ビルの周辺を回って、この小鳥を待っていた。


「おつかれさん」


 ロックウッドはノートパソコンを閉じ、小鳥に話しかける。小鳥はそれに応えるように鳴くと、見る見るうちに姿を変える。

 現れたのは風に金髪をたなびかせ、瞳が夕陽で輝く美女の姿。ロックウッドは息をのんだ。


「どうしたの?」

「君を綺麗だと思ったのさ」

「……それはありがとう」


 リーサは頬を赤くした。

 信号が青に変わりロックウッドは車を発進させる。向かう先はマクローリンの居るリークストリート方面。


「それと、君が無事でよかったよ」

「信じてたんでしょ?」

「そりゃあな。……じゃあそうだな。作戦成功おめでとう、といくか?」

「そうね、それが良いわ」


 ロックウッドは運転を自動操縦に任せると、リーサに拳を突き出す。リーサもそれに応えて拳をロックウッドの拳に合わせた。どちらからともなく笑い声がこぼれる。


「やってやったな」

「ええ、やってやった」


 ロックウッドは賞金首を倒し、リーサはこのままいけば市から脱出できる。そしてささやかながら意趣返しも果たしてみせた。ロックウッドは金を手に入れ、リーサは自律型アンドロイドの設計図と父、そしてこれまでの生活を取り戻した。

 二人は見事死線をくぐり抜け自らの目的を果たすことができたのだ。


「そしておめでとう、だ」

「ええ、そちらこそおめでとう」


 それから二人はひとしきり勝利の余韻に浸ったが、ふとリーサが口を開いた。


「そういえば報酬を渡さないといけないわね」


 報酬――リーサとマクローリンが無事市から脱出できればロックウッドに100万ドル支払うという話だった。だが、今のロックウッドにその金を受け取る気はなかった。


「口座を教えてくれない?」

「いや、それには及ばないぜ」

「どうして?」

「その金額は俺の命の値段だ。俺は君に命を助けられたからな。トントンというわけさ」

「私に気を使う必要は無いわ。知っての通り、私は超能力者だから政府から手当が――」


 ロックウッドはリーサの言葉を遮る。これだけはハッキリさせておきたかった。


「いや、これは親切心やカッコつけのためなんかじゃねえ。賞金稼ぎとしての俺のプライドの問題だ。ここで金を受け取っちまうのは俺が許せねえんだ。寧ろ俺は君に150万ドル渡すつもりでいる。俺一人で倒せなかったランゲンバッハとデュークの分が50万。そして残りは、そもそも倒していない君と君の親父さんの分だ」


 リーサは一瞬考える素振りを見せてから言った。


「……主義かあ。分かった、どうしてもって言うなら受け取ってあげる。でも、リチャードの命が100万ドルってちょっと自己評価高すぎない?」

「うるせえなあ。良いだろ別に――あ!」


 金の話をしているとロックウッドはあることに気が付いた。


「なに、急に大きな声出して。びっくりしたじゃない」

「キングスに君の能力の一部を報告したんだ。それで情報提供料がもらえてもおかしくないのに、結局貰いそびれちまった」


 それを聞いてリーサはクスリと笑った。

 しかし、いくら金好きのロックウッドとはいえ、今更請求しに戻るなどというのは格好がつかないのでする気になれない。

 どうせ大した額にはならなかっただろう。俺はしけた金には興味がないとロックウッドは忘れることにした。――あれ? そういえばサンダースはなんて言ってたっけかな?


「まあいいさ、そのくらい俺ならすぐに稼げる」

「頼もしい限りね――」


 リーサは何か考える素振りを見せながら、ロックウッドの軽口を軽くあしらう。


「どうした?」

「いえ、……うん、そうだね。さっきはああ言ったけど、やっぱり無理。お礼させてほしいの。仕事の報酬じゃなくて私の個人的な気持ち。ねえ、お願い」


 ロックウッドは少しの間考えた。報酬の話ではすでに自分のプライドを通した。であればリーサの気持ちをそこまで頑なに拒否することもない。


「君の気持ちは君の自由だ。意固地にはならないよ」


 ロックウッドの返事にリーサは表情を明るくした。


「そうよ、その通りよ。どうして私一々あなたに聞いたのかしら。で、何が良い?」


 そう言いながらリーサはまたロックウッドに尋ねている。それがおかしくてロックウッドは笑った。


「それじゃ、キスでもしてもらおうか」


 ロックウッドは自分の左頬を指でポンポンと叩いた。


「……ばかっ。私本気なのに、そんなので良いわけ?」


 リーサは呆れたように呟いた。


「俺だってマジさ」


 もちろんロックウッドは本気で言っている。半分ほど。しかし残り半分は冗談かというと、そうではない。所謂ダメ元というやつである。駄目でも仕方がないが言ってみたというわけだ。

 さて、しかし無理強いはできないのでロックウッドは冗談だと告げることにした。


「リーサ悪い、これは――」


 ロックウッドは咄嗟のことに驚いて、言葉はここで途切れた。リーサの顔が一気に近づいたかと思うと左頬に一瞬、感触があった。


「なに驚いてるの? あなたが頼んだんだからね?」


 真っ赤な顔をしたリーサ。


「……そうだった」


 ロックウッドは笑った。





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