22
「ふぅ、何とかなったなあ」
ロックウッドは、ため息をつきながら額の汗を拭った。
リーサは変身を解いてコウモリから本来の美女の姿に戻り、ロックウッドに歩み寄った。
「リチャードの作戦が上手くハマったわね」
「そうだな」
作戦は完璧に上手く行った。コウモリとなったリーサが敵の位置を知らせ、ロックウッドが射撃能力を活かして仕留める。適材適所な役割分担であり、同時にリーサに直接人殺しをさせずに済んだ。
念のためロックウッドを太り気味から痩せ気味に変身させたのも、敵を惑わせるのに一役買ったようだった。
リーサは両腕を広げた。それに応えてロックウッドも両腕を広げる。二人は抱きしめ合い喜びを分かち合った。
これは二人の勝利だ。
ひとしきり抱き合った後、ロックウッドは伝える。
「――確かに俺の作戦が良かったから勝てたが、リーサが居なければこんな作戦は立てられなかった。ありがとよ」
「……ありがとう」
照れ笑いするリーサ。
「これですべての賞金首を倒せたのね」
その一言に、ロックウッドの胸に改めて喜びの波が到来した。確かにそうだ。改めて認識する。ついにやった。賞金首全員を仕留めたのだ。
だが、まだすべてが終わったというわけではない。やらなければいけない事はまだ残っている。
もう一踏ん張りだ。ロックウッドは改めて気合いを入れた。
元の姿に戻ったロックウッドは、デュークの着ていた服のポケットをあさって、設計図を探した。設計図は、リーサが言うにはデュークが持っている。設計図を持ってすぐに脱出できるよう、どこかに隠したということはないはずだった。
「マイクロフィルムなんだよな?」
しゃがみながら探していたロックウッドは、振り向きリーサを見上げた。
「ええ」
リーサが言うには、キングスはアンドロイドの設計図を三タイプ保存していた。一つはUSBフラッシュドライブ、二つ目は研究者の使うパソコンの中、そして最後がリーサたちの盗み出したマイクロフィルムだ。
詳細は省くが三つとも厳重なセキュリティに守られ普通は持ち出し不可能だ。リーサたちが盗み出せたのは、リーサたち五人の内、四人が超能力者で、しかも全員が内部の人間だったからだ。もっとも盗み出した後は――言うまでもない。
キングスがわざわざ設計図を三通りの方法で保存しているのは、仮に一つが盗まれたとしても、残り二つがバックアップとなるためだ。
バックアップがあれば盗まれた設計図を取り戻せなくとも問題が無くなる。盗み出した犯人ごと処分する手も取れるようになる。
これは確かに機能していて、実際ロックウッドのような賞金稼ぎに設計図のことを伏せて依頼を出すことができている。
「死体から物を漁るのは本当はご法度なんだが――お、これか」
ロックウッドはジャケットの内ポケットから、あからさまなマイクロフィルムを見つけ出した。取り上げてリーサに差し出す。
「ええ、間違いないわ」
マイクロフィルムを受け取ったリーサは確信のこもった声で答えた。
「なるほど、こいつが……」
ロックウッドはリーサの手にあるマイクロフィルムを興味津々に見つめる。この小さいのが世界を変えるものが、そしてリーサの夢を叶えるものが詰まっているのか。
だが、そんなものが既にここにあると思うと――。
「余計なことを言うようだが、親父さんが自律型アンドロイドを完成させちまった今、君の夢ってのは既に叶ったってことにならないか?」
それも自分の出る幕も無しにだ。それは夢を叶えたと言えるのだろうか。そこのところをリーサはどう思っているのだろうか。するとリーサは熱意をもって答えた。
「そんなことはないわ。だってまだ初号機よ? 私には改良という道が残されてる。確かに初号機に携われなかったのはちょっぴり――いや結構、大分、もの凄く悔しいけど! その分早く世の中が良くなると思えば寧ろ望むところよ」
「悪い。本当に余計なことを聞いちまったようだな」
ロックウッドの心配は大きなお世話だったらしい。知っていたつもりではあったが、改めてロックウッドはリーサの心の強さを実感したのだった。
こんなことはもう話す必要はない。
「しかし、どうやって親父さんたちは、みんな血眼になって作ろうとしてそれでも実用化できない自律型アンドロイドを完成させたんだろうな?」
「設計図を見たわけじゃないから詳しくは分からないけど……今までの課題点くらいは私も知ってるから――それに父さんが手掛けたのなら何となくだけど想像できるかも。あー、早く見てみたいなあ!」
「親子の絆ってわけか」
「私の実力も忘れないでほしいけどね」
「言うじゃねえか」
二人は笑う。
「さて、そいつは君が持っておくもんだが、お勧めの隠し場所を教えといてやるぜ」
「どこ?」
「君の胸に聞いてみな」
「どういう意味?」
「そりゃそのままの意味さ。君の胸のところに隠すのさ」
つまりそれはポケットではなく、もっとダイレクトな場所であり――。それを理解したらしいリーサは一瞬眉をピクリと動かした。
「……本気で言ってる?」
「本気も本気さ。考えてもみろ。もしも君が捕まって身体検査を受けることになったとしたら――まあ、そんな目には合わせないがもしもの話さ。ポケットだとすぐバレちまうだろ?」
「それは胸の谷間でも同じことじゃない?」
「服を脱がすだけの時間を、向こうが確保できるとは限らないじゃないか。なんにせよポケットよりは安全だ。俺が保証する」
リーサはしばし疑わしげな眼をロックウッドに向けたが、最後は折れた。呆れたようにため息をつくとロックウッドに背中を見せた。
そして何やら腕を動かすと、またロックウッドの方に体を向けた。そのときにはもう手にマイクロフィルムはなかった。
「信じてあげるわ……って何その顔」
「いや別に見たかったわけじゃないよ?」
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