21

 デュークは事態を飲み込めなかった。

 右胸に焼けるような激しい痛み。目の前には銃口を自分に向けている警官ランドンの姿。銃口からは硝煙が漂っている。


 何が起こったのかデュークは確かに見た。

 ランドンの方がデュークより銃を撃つのが早かった。デュークが引き金に指をかけた刹那、ランドンは一瞬にして銃を抜き、デュークを上回る速度でショットしたのだ――。

 銃声はデュークの拳銃からではなく、ランドンの拳銃から出たものだった。

 だが、そんなことは起こりようのない事だ。ランドンが自分に弾丸を命中させることも、これだけの早撃ちをかますことも。


「やった……ッ」


 ランドンは満足げに息を吐き、デュークを見た。今となってはデュークの超能力はダメージにより持続が不可能になっていた。デュークは胸の傷押さえながら、崩れるように膝をついた。


「な、何故だ……。どうやった……ランドンッ」


 デュークは必死に声を絞り出し、ランドンを睨んだ。ランドンは銃口をデュークに向けながら、耳を疑うことを言った。


「冥土の土産に教えといてやる。俺はロックウッドだ」

「ば、馬鹿な!? ……痩せ気味の方がランドンだったはずだ……ッ」


 デュークは公園でのことを思い出す。公園で早撃ちを見せたのは太り気味の警官だった。まさかアレは勘違いだったのか。いや違う。デュークはすぐに真実に気が付いた。


「途中で入れ替わったのか……」


 痩せ気味の警官はニヤリと笑った。

 だが、いつ。いやこれも簡単だ。入れ替わったのはデュークが下の階を探索していたときだろう。時間はたっぷりあった。これで早撃ちのからくりは分かったが――。


「早撃ちのからくりは分かったが……、俺はまぐれ当たりに負けたのか……?」

「安心しろ、まぐれじゃねえ。上を見な」


 デュークは一瞬ためらったが、上を向いた。真上には一匹、不潔な小動物が天井に逆さまになってとまっていた。


「そのコウモリがリーサ、まあランドンだ。そいつがお前の居場所を合図で教えてくれたのさ」


 デュークは声にならない声をあげた。あれがランドンだと!?


「お前が来るまで近くの天井にずっと止まっていたんだが、気が付かなかったか?」


 ロックウッドの居所を探す際に見つけた不潔な小動物。デュークは気にも留めなかった。こんな薄暗い廃ビル、コウモリの一匹くらい居ても不思議ではないと。ただ不潔な小動物が居るとしか思わなかった。

 デュークは決して警戒を怠っていたわけではなかった。しかし、命取りになったのは隠れているのはロックウッドだという考えから抜け出せなかったことだ。

 デュークはロックウッドが攻撃してくると思い込んでいた。どこから攻撃してくるのかばかり意識がいっていた。目の前の人間が、目の前から攻撃してくるとは思いもよらなかった。

 仮にコウモリがランドンの変身だと、コウモリを見つけた段階ですぐに気付けたとしても、その時にはもう手遅れだ。超音波で向こうの方がそれより早くデュークに気付いている。


 デュークは下を向き、唇を噛んだ。

 及ばなかった。まさかこの俺が負けるとはッ。……このまま計画は失敗するのか?


「俺たちの勝ちだ、デューク」


 ロックウッドの声にハッとして前を向いたときには、デュークはその身に弾丸を受けていた。

 デュークは血と共に体から力が抜けていくのを感じた。目蓋を開けていられなくなるのに時間はかからなかった。




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