20
デュークはビルの中には入らず、土煙が収まるのを入り口で待った。デュークはこの爆発の目的が攻撃ではない事を読み取っていた。
恐らく狙いは身を隠すため。しかしだからといって、逃がして堪るものかと今すぐ侵入すれば、攻撃を食らわないとも限らない。
デュークがさっき爆弾を躱せたのは、ロックウッドがポケットから何か取り出すのが見えたからだ。
だが今、土煙で視界が塞がれた状態では不意に爆弾を食らってしまうかもしれない。デュークには銃撃なら当たらない自信があったが、爆弾のような広範囲の攻撃方法はさすがに警戒しなくてはならなかった。
少ししてようやく土煙が晴れたので、デュークは一応辺りを警戒しながら、入り口を通ってビルに侵入した。
デュークは歩きながら考える。ロックウッドたちが逃げ場所にここを選んだのは、身を隠せる場所が多いと踏んだからだろう。
だが、隠れたところで無意味だ。精々防御の点において、ようやく五分になれるかといったところだ。結局、向こうはこちらの居所を知る術がないのだから、攻撃に転ずることができない。
むしろ、隠れ場所が多いのはこちらも同じことなのだから、公園の時のようなカウンターはもう通じない。俺は爆弾を使った罠にだけ気を付けていれば勝てるというわけだ。
デュークはそっとほくそ笑んだ。ロックウッド、そしてランドン。ここがお前たちの墓場だ。
デュークは一階から探索を始めた。逃げたということは無いはずだという確信があった。
デュークは自律型アンドロイドの設計図を持っている。ランドンが裏切ったのはそれを我が物とするためのはずだ。であれば、これを奪い取らずして逃げることはしないはずだ。それが確信の根拠だ。
薄暗い中、罠にも気を付けるが足元にも気を付けて歩く。うっかり何か蹴飛ばしたら居場所を気取られる。デュークは可能な限り足音を立てないように努めた。
デュークは一階をくまなく探したが、二人は見つからなかった。見つかったのは哀れなアーチボルドの死体くらいだった。
一階の探索を終えると次は二階に向かった。順番に一階ずつ調べることに決めたのだ。
二階も一階同様に慎重に探っていくが、結果も一階同様だった。デュークは結果が分かるとすぐに探索を打ち切った。
デュークは三階に上がるために階段へ向かう途中、ある考えが過ぎった。
ひょっとしたら自分は時間稼ぎの策にハマっているのではないか? 二人がどの階に潜んでいるかは今の段階では分からないが、上の方に潜んでおけばそこにデュークが辿り着くまで時間が稼げる。
だが、そんなことは結果論だと頭を横に振った。
逆にロックウッドたちが裏の裏を読んで一階に潜んでいた場合もあったではないか。一階から順に探すことは何も間違いではない。第一、いくら時間を稼いでどんな準備をしようとこの俺には通用しない。焦ることは無い。
デュークは三階に上がって、下の階同様くまなく探した。
しかし、またもや二人は見つからなかった。もう残るは四階と五階だけである。デュークは心の中で舌打ちした。手間を取らせやがって。
今度は四階に上がった。まったくどの階も荒れ、床に物が散乱し、音を立てずに移動するのが面倒だ。
階段を出て、デュークが次の一歩を踏み出せる足の置き場を探していると、物音がした。デュークは反射的にそちらを向くと、なんてことはない、ネズミが一匹走っているだけだった。
デュークはふーっと息を吐き、自信を付けた。物音がしたからといって咄嗟に銃を撃つヘマをやらかさなかった。今の俺は冷静だ。
それから少し歩いたところで、デュークは息をのんだ。
運命の時というのは存外あっけなく訪れるものらしい。デュークは緊張するより昂った。思わず歓喜の声を挙げたくなった。ついに、見つけたのだ。
デュークは視界の中にランドンをとらえた。
確かあの痩せ気味の警官の方がランドンだったはずだとデュークは記憶を確認する。その痩せ気味の警官が、デュークの前方右手の部屋、距離にして約8メートル先、その入り口付近で身を隠しながら顔を少しだけ出して、廊下の様子をうかがっていた。
しかしデュークはすぐには手を出さず、ひとまず冷静になることにした。
ランドンだけ?
デュークの目の前には、デュークに気付いていない様子の細身の警官が居る。しかし忘れてはならない。ロックウッドの姿が見えないではないか。
デュークは、小太りの警官ロックウッドの姿が見えないことを訝しんだ。
そして目の前のランドンが公園と同じ様に囮であると悟った時、デュークは心の中で嘲るように笑った。あの二人は自分に二度も同じ手が通用すると思っているらしい。とんだ間抜けな野郎どもだ。
あんな手はもう二度と食わない。あの時、デュークが弾丸を受けてしまったのは立ち止まっていたからに過ぎない。撃った直後に動いてしまえば、ロックウッドは反撃を外す。
だがデュークは念のためすぐには仕掛けず、ロックウッドを探すことにした。撃ってすぐ動くにしても動く先は考えた方が良い。ロックウッドの射線が問題だ。
カウンターを狙っているのなら、ランドンの近くに居るはずだとデュークは目星をつけた。
周囲の床、壁、天井に目を向ける。しかし、見つかるのはゴミとか不潔な小動物だけだった。ランドンから近くの場所で、まだ探せていない場所はあと一つしかない。
ランドンの居る部屋の奥に潜んでいるのか?
デュークは疑った。しかし、さすがに透明とはいえ、部屋の入り口に陣取るランドンの目を掻い潜って中に入るのは不可能だ、と直接確認するのは諦めた。しかし、そこに居る可能性を頭に残し警戒を強める。
だが部屋の奥、それもここからは姿を確認できないほど奥に居て、果たして迅速な反撃ができるだろうか? いやできまい。ならば警戒さえ解かなければ、デュークには対応できるだけの猶予がある。
デュークは、ロックウッドの正確な位置を把握できなかったものの、攻撃を仕掛けることを決定した。
デュークは銃口をランドンに向け狙いを付けた。
引き金に指をかけ力をこめる。
銃声。発射された弾丸は確かに命中した。
撃たれたのは自分の方だった。
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