17

 ロックウッドは最初不安だった。今しがた自分が放った弾丸は、果たしてデュークに命中しただろうか。ちゃんと火花目掛けて三発撃ったはずだが、相手がすぐに移動していたら……。その不安が拭えるのに少しばかり時間が要った。

 数秒後、どこからともなく血がしたたり、地面に落ちるのを見てようやく一安心できた。弾丸はデュークに命中したのだ。


 ――だが、少し残酷な作戦だったか。

 まず、そこら辺に居た鳩をリーサの超能力でロックウッドの姿に変身させ、それを囮とする。

 次にロックウッドは小太りの警官、リーサは痩せ気味の警官に変身しデュークを待ち受ける。それがロックウッドの考えた二つの問題を解消できる策だった。

 しかし、気持ちのいい作戦ではなかった。

 警官なら騒ぎのあった場所をうろついていても不自然じゃない。これは素直に妙案だった。

 だが鳩のことは、人間ではないとはいえ一つの命を犠牲にしてしまった。当初は死んでもほとんど心の痛まない蠅あたりにしようとしたのだが、都合よく見つからなかったのだった。


 しかし、何であれ作戦は上手くいった。何もない所から血が落ちてくるが、見えていないだけで何もない所にデュークが居るのだ。

 被弾して、なお能力が解けないのは天晴れといったところだが、地面に滴り落ちる血がデュークの居場所をロックウッドに教えてくれる。

 ロックウッドは再び狙いを付けるが、地面の血の跡が点々と移動を始めた。

 点はロックウッドから離れるように移動していく。その速度から走っていることが見て取れた。


 相手が移動を初めたので命中率は落ちるが、このチャンスを逃す手はない。

 ロックウッドは引き金にかけている指に力を加える。そして最も遠くにある点の、真上を狙って撃った。

 しかし、相変わらず血の点は止まることなく続いていく。外してしまったのか? 

 地面に落ちる血の量に変化が見られない事から、外したのだとロックウッドは判断した。そして、真上を狙ったのは失敗だったかもしれないとすぐさま反省した。

 最初に撃った弾丸は確かにデュークに命中したが、どこに命中したかまでは分からなかった。地面の血の点の真上を狙えば、さっき命中した箇所が体の中心部からズレていればズレている程、次弾の命中率が落ちることになる。


「クソッ」


 ロックウッドは舌打ちした。


「今のは外したようね。追いかけましょう!」


 リーサは走り出した。確かに相手は負傷し、血のおかげで相手の居場所も分かる。この大チャンスを逃す手はない。ロックウッドもリーサの後に続いた。




 しばしの追走劇。ロックウッドは追いかけながら何発か撃ったが、血の跡は相変わらず続いていく。しかし。


「なに!?」


 ロックウッドは思わず声を出した。

 途中でいきなり血の跡が途絶えてしまったのだ。走りながら止血したのか。いや手段などどうでも良いだろう。ロックウッドたちは、デュークの居場所を知る手掛かりを失ってしまったのだ。


「どうする?」


 リーサが心配そうな顔でロックウッドに次の手を尋ねた。

 ロックウッドは頭を回す。どうやってデュークの居場所を突き止める。せっかくチャンスをつかんだと思ったのに、このまま逃して堪るものか。

 デュークは一体どちらに向かったのか。上は無いだろう。そのまままっすぐか、それとも右か左か、あるいは……。

 次の瞬間ロックウッドの脳に稲妻が走った。こんなことをしている場合ではない。


「走れッ!」


 事態を飲み込めないという顔をして突っ立っているリーサの手を引き、ロックウッドは走り出した。

 ロックウッドの判断は正しかった。


 紙一重で、さっきまでリーサが居た所に弾丸が飛んできた。




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