16

 クロード・デュークは透明状態で、中央公園をぐるりと回るようにうろつき、キングスの構成員を見つけては、後ろからナイフで刺して回っていた。

 そしてまた一人……今ので六人目。

 ――これだけ暴れれば嫌でも嗅ぎつけるはずだ。

 証拠に、周囲の雰囲気が段々慌ただしくなってきているのを、デュークは肌で感じていた。目に見えて、構成員が中央公園付近に集まってきている。

 デュークの行動は敵の数を減らすことが目的ではなかった。仲間がやられた今、一人でそんなことをやったとしても途方もないことだ。

 デュークの目的はただ一つ、リチャード・ロックウッドを誘い出すことだった。

 サンダースの能力は、今日いっぱいしか持続しないだろうとデュークは予想していた。ならば自分の超能力のことも考えれば、それまで隠れていれば計画はおそらく成功する。

 だが、デュークはそうするつもりはなかった。


 全くの無名にもかかわらずバリモアが脅威の一人と予言したあの男は、一人で仲間たちを仕留めてしまった。

 確かに、サンダースの壁に脱出を阻まれるという想定外の事態は起こったが、たった一人の男に計画を潰されたとあってはキングス元幹部のメンツが立たない。ここまでしてくれたロックウッド相手に逃げ隠れなどできるものか。

 そもそも能力があれば逃げ隠れせずともロックウッドを倒せるのだ。

 そして、目的はそれだけではなかった。


 もう一つの目的、それは裏切り者の始末だった。

 元々ドナルド・ランドンは信用できない男だった。シンジケートに入ってからすぐに裏切りの話に飛びつくなど、どうしてこんな奴を信じられようか。

 ランドンがサンダースにも秘密にしていたその能力が、市の外への安全な脱出におあつらえ向きだったので仲間に入ることを許可したが――それに密談を聞かれてしまった以上入れる他なかったが――まさか裏切るにしても、ロックウッドを味方に引き入れるとはデュークにとってこれまた想定外のことだった。


 デュークは歯ぎしりした。

 結果論だが、自分が他の人物の始末ではなくロックウッドの始末を担当していれば。いや、バリモアがやられた時点で二人掛りは考えられた。

 そしてランドンのことも、用が済めば殺してしまえばよかった。

 間違いを呼んだのは上手く設計図を盗み出せたことによる慢心か、それとも途中で躓いたことによる焦りか。

 しかし不幸中の幸いというかリスク管理というか、デュークはランドンを信用していなかったからこそ、彼一人にだけ他の仲間と違い伝えなかったことがあった。

 そしてデュークにはそのことと、自分の超能力があれば最後に笑うのはこの俺だという自信があった。

 




 細い通りを歩いていると、デュークの歯ぎしりはやんだ。じわりと、ニヤリとした笑みを浮かべる。透明な彼の表情は誰にも見えない。

 デュークは十数メートル先に、ロックウッドを見つけた。

 こちらに向かって歩いてきている。その姿はバリモアが予知した通りの男だった。そしてデュークに全く気が付いていない、少し間の抜けた顔をしていた。

 デュークは思った。裏切り者のランドンが傍に居ないのは残念だ。それに能力的にランドンを先に仕留めたいところではあるが……。

 だが、まずは一人殺してやる。ランドンがどこからか狙いっているのかもしれないが、姿を隠せるこの俺には通用しない。


 通りはキングスが集まってきたせいか人通りがなく、ロックウッドを殺すのに邪魔になるものは何もない。

 強いて言うなら、ロックウッドの少し後ろ、騒ぎを聞きつけたらしい二人組の警官がパトロールしているが、たかが警官程度問題にはならない。

 デュークは大事を取って、近づかなくても済む拳銃でロックウッドを殺すことにした。

 デュークの超能力は、身にまとっている物や手に触れているものまでも透明化できる。だが、拳銃の放たれた弾丸や火花までは透明化できない。そして当然音も消せない。それはナイフに比べればリスクではあるが、デュークは距離のメリットを取った。

 近づくことによって生じるかもしれないロックウッドの逆転のチャンスをも、デュークは潰した。


 デュークは立ち止まり、懐から拳銃を抜いた。命中精度の高いもので、多少の距離があっても外しはしない。

 一歩一歩距離が縮まるたび高揚感が高まっていく。ロックウッドはまったく気づいていない。

 ――死ね。

 デュークはロックウッドを狙って拳銃を撃った。

 高い命中精度の売り文句に恥じることなく、弾丸はロックウッドの胸に命中した。


 ロックウッドは初めこそジタバタしたが、すぐにその場にうずくまった。

 デュークはロックウッドを見下ろしながら、続けざまにさらに三発の弾丸を頭に撃ち込んだ。

 ロックウッドは倒れるようにその場に横たわった。その様をデュークは蔑むように見下ろしニヤリと笑う。


 次の瞬間デュークは右腕に熱を感じた。

 何事かと自分の右腕を見ると、服にじわりと赤色がにじんでいる。それが自分の血であることを理解すると、熱に痛みが加わった。弾丸を一発くらったらしかった。

 ――ど、どこからッ!?


 前を向くと警官の一人が銃口をこちらに向けていた。




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