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すなわち、まずは腹ごしらえだ。
時計はもうそろそろ十二時を回る。賞金首ではないものの、一人倒しひとまず時間のできた今、とっとと昼食を取っておかなければこのあとの戦闘は不可能だ。
以前ゴールドレイク市を訪れた時見つけたのだが、確かここから近いところにいいレストランがあったはずだ。
思い出したロックウッドは車の操縦を自動運転に任せ、ノートパソコンを開いてニュース番組を見始めた。無論、ターゲット発見の手掛かりを期待してだ。市内に居る、そして外には出られない、これだけでも大した情報だがもっと絞り込めた方が当然楽できる。
しかしながらロックウッドの期待は外れてしまった。今、ニュースで大々的に報道されてるのは、サンダースが作った透明な壁のせいで起こっている交通や経済に対する悪影響のことだった。そんなことはロックウッドも既に知っている。
意外だったのは精々軍絡みニュースが全くなかったことくらいだ。
この騒ぎ、しかも原因は明らかに超能力者。普通この規模なら軍が動いてもおかしくはないのだが、そういった報道が無いのはおそらくディーノの根回しによるものだろう。キングスのボスともなれば各界にパイプを持っているらしい。
だが軍に邪魔されたくないということが分かったところで、何の役にも立ちはしないとロックウッドは思った。
あとはいつものように、昨日の大リーグの試合の結果とか、自律型アンドロイドの開発に難航、課題は自律的な思考プログラムとか、今度発売される某社製の犬、猫、馬の三種から選べるペットロボットには、異性タイプと鉢合わせすると発情モードに入る機能が搭載され、なんてリアルなんだ(しかもオス型は去勢すると電力消費を抑えられるとかいう馬鹿な仕様もある。前回タイプはちゃんとペット用トイレで用を足すという機能の追加で盛り上がった)とか、見慣れたというか見飽きたニュースばかりだった。
ロックウッドはため息をついてノートパソコンを閉じた。
仕方がないが彼に頼る他ないらしい。
ロックウッドは彼のことが好きではなかった。ニューヨークに住む彼は天才的ハッカーで仕事のできる男であるし、その点においては信頼できる。だが個人的な悪趣味が彼を頼るのを何時も躊躇わせる。
今回もできれば彼に頼みたくはなかった。しかし、キングスの方もさすがに全員は動員できないだろうが、百人単位で人を動かしているはずだ。このまま何の手掛かりも無しに事に当たるとなると、ほぼ確実に先を越されてしまうだろう。悩んだ末ロックウッドは覚悟を決めた。
ロックウッドは彼に電話をかけた。数コールの後に彼は出た。
「こちらピーター・サム。おたくどちらさま?」
寝起きなのか眠たそうな声をしている。
「俺だロックウッドだ。仕事の依頼だ」
「おお、久しぶりだな。で中身は?」
「市内の全部の防犯カメラの映像データ――今日の分だけで良い。そこからこいつらを探し出してくれ」
ロックウッドは言いながらサムに賞金首たちの画像データを送る。
「了解した。報酬はいつもので良いぞ」
「……分かってる」
ロックウッドは舌打ちしてから言った。この報酬というのがサムの悪趣味なところだ。口にするのもおぞましい。ロックウッドは用件を伝え終えたので通話を切った。
それから数分後のことだ。そろそろレストランが見えてくるというところでロックウッドのスマホが鳴った。サムからだった。相変わらず仕事の早い男である。
「見つかったか? 見つかったなら画像データで寄こしてくれ」
「それがだなあ」
何やら様子がおかしいことをロックウッドは察した。いつものサムなら無駄口をたたいたとしても同時に仕事はこなしている。つまり画像データが送られてこないのはおかしかった。
「そいつらだがなあ、どこにも居やしないぜ? 本当に市内に居るのか?」
「なんだと?」
では賞金首たちが余程隠れるのが上手いのか、それともサンダースの思い違いだとでもいうのか。いや、おそらく前者だろう。
だが、そうなると非常に困ったことになってしまった。これでは依然、数の多いキングスの方が先に賞金首を見つけてしまうではないか。
どうしたものか。とりあえずロックウッドは考えるのをやめた。
車をレストラン横の駐車場にとめ、降車した。飯の時は余計なことを考えない方が美味い。
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