五話 なにもしないでくれ1


 時間なんて、スグに、過ぎていくモノである。

 サバイバル系のゲームと同じく。

 なにもない中、必要なものを、一つずつ、そろえ。

 やりたいことを、成し遂げたときには。

 プレイ時間が、ビックリする次元に、到達しているように。


 岩沢の成長に、テンションが爆上がりし。

 周りが見えなくなれば、なおさら、一日は、早い。


 他力本願にて問題が解決し、喜んでいた沙羅は。


 日が、いつの間にか。

 かなり傾いている事に、ため息を吐き出した。


「とりあえず、今日は。

 この横穴で、野宿しなきゃ、いけないんだよなぁ?

 心から、嫌だけど」


「なにが、いやなのぉ?」


 ご機嫌斜めなソニックは、会話に参加することすら、やめたようだ。

 横穴で、雪山でもないのに、ビバーク。


 コレは、ナンの罰ゲームだろう。


 全て、沙羅の行動のツケである。


「お前が食べたせいか、横穴の中ボコボコだし。

 内側の形も歪になって、いつ崩れてくるか、分からないし」


 冷静になれば、また新たな問題が、見えるモノだ。


 欲しいものを手に入れても。

 誰も持っていないモノを、手に入れたとしても。


 持っているから、問題は、別のステージへ進んでいく。


 そう、問題を、問題だと。

 自覚できなくなる、まで。

 いつまでも付いてまわっていく、地団駄である。


「水が出たのは良いけど。

 どうやって、水を飲めば良いか、分からんし」


 水は確保されたが、コップがあるわけではない。

 どうやって、飲めば良いのだろう。



 手で、すくい取る。

 直接飲むと、思いつきはするが、問題は、さらに先にある。


 そもそも、飲んで大丈夫なのか。


 水は、生まれた国の生活感が。

 普段の生活圏の影響が、より強く出るモノである。


 海外で、ミネラルウォーターを飲んでも、日本人は腹を下し。

 都心部で暮らす人が、川の水を飲んでも腹を下す。


 湧き出たという水が、安全である保証は、ドコにもないのだ。


 さらに、まだ、横穴に対する問題は上がる。


「床がグチャグチャだし。とてもじゃないけど、ココで寝れたもんじゃない」

 高反発岩マット、体中、痛くなるのは、うけあいである。


「じゃあ、どうすればいいのぉ?」


「そうだなぁ~。床をフラットにして__」

「フラットってなに?」


「うん。平にしてだねぇ。水道を作って__」

「水道ってなに?」


「……。川みたいに、水が、外まで流れる道を作ることだよ。岩沢」


 そう、忘れてはいけない。

 岩沢の知能レベルは、幼稚園児。

 もしくは、小学生、低学年レベルだと。


 岩沢の能力が、いかに有用であっても。

 本人が、そうだと理解していないのだ。


 ドコまでも、この話は、めんどくさくなるしかない、のである。


 そう。


 もう、沙羅は、めんどくさいのだ。


「沙羅様、また出ましたね…」

 そして、ソニックは。

 面白くないから、沙羅を攻めることを、忘れないのだ。


「もう、面倒くささを、隠そうともしない」

 今の沙羅は、あからさま過ぎた。


「今、さっき、生まれたばかりの岩沢ちゃんに、そんな仕打ち。

 ヒドく、ないですか?」

 正論である。

 これ以上ない、正論である。


「ほんと、ヒドい人だ」

 何一つ、間違っていない。

 なにも言えなくなった、沙羅を気にもせず。

 岩沢は、ドコまでも素直だった。


「えっと~。キレイにすれば、いいのぉ?」


 岩沢は、沙羅の、雑な対応も、なんのその。


 端から見ていれば、かわいそうなぐらい、だというのに。


 沙羅への、理由のない好感度の高さは。

 純粋無垢な、素直さとなって。

 ソニックが、望んだ流れとは、別の方向へ転がっていく。


「えっ? 岩沢ちゃん、ちょっと…」

 岩沢を仲間に引き込み、沙羅を追い詰め。

 改名を迫る、下心は、こうして裏切られる。


「じゃあ、やるねぇ~」

 ニコニコ笑顔で、幼い少女特有の仕草を。

 大人になりきった体で、やられると、どう見えるのか。


 あざとさ、しか、残らない。


 同じ、女性として。

 ソニックに、岩沢が、こう見えてしまうのは、仕方ないのかもしれない。


 だが、それ以上に、問題なのは。


 きっと、アピールすべき男性が、一人だ、と、言うことだろう。

 恋愛シュミレーションゲームの、ヒロイン達の本音の部分である。


 乙女ゲーでも、同じ話である。

 この世界に、アピールすべき異性が、一人なら。



 頭が、おかしいキャラも。


 ご都合主義にしか見えない事件も。


 超展開も、納得できるというモノだ。


 そんな事を思っている、沙羅とソニックを、一切無視し。

 岩沢は、言われるがまま、沙羅の望みを叶えようと動くのだ。


 岩沢は、地面に瓦割りのごとく、拳を付きたて。


 握りこぶしが、地面に埋まるほどの馬力を、二人に見せつければ、すぐに変化は現れる。



 ギョッとした、二人を置き去りにして。


 横穴内部の岩肌が、まるで生き物のように、うごめき。

 しだいに、沙羅が望んだ、凹凸がない奇麗な、快適スペースへと、形を変える。


 なんということでしょう。


 なんの規則性もなく。

 ただ、湧き出たところから、外へ、垂れ流し状態の水が。

 横穴の端にできた、深めのくぼみを流れ。

 余計な水は、目の前の樹海へ、流れていくでは、ありませんか。


 思ったよりも、幅も深さもある溝を、水が流れてくれるだけで。

 常に新鮮な水を、手ですくい取って、飲むことができるどころか、顔すら洗えます。


 デコボコで、居心地が悪いだけの空間だった横穴の中も、完全なバリアフリー空間へ。

 これで、手足を伸ばして、寝転がることが、できます。


 横穴の床は、入り口から一段上がり。

 さらに敷居のような出っ張りができたことで、余計な砂が入ってきません。


 お掃除も、内側から外に余計なモノを、履き出せるよう、出っ張りは、動かすことができる新設設計。


「岩沢! 優秀すぎるだろ!」


 自然に、できたであろう、横穴が。

 キレイに整備されただけ、なのだが。


 水が、横穴の脇を規則正しく流れ。

 そのまま、森へ、流れているだけ、なのだが。


 沙羅の中で、岩沢の株価が、うなぎ登りである。


 そう、コレが。


 一番ダメな子が。


 やれば、一番できる子になった、瞬間だった。


「えへぇぇ」

 とんでもないことに、なってしまうと。

 一歩踏み出し、のばしたソニックの手は、体の真横に戻り。


 屈託のない、純粋無垢な笑顔に。

 あざとさを、感じていた心を責められた。

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