岩沢(いわざわ) 成長進化2


 相手の自分に対する、最初の評価。

 人は中身だと言うが。

 長い付き合いでなければ、中身を知ることなど、デキはしない。


 本当に中身を知るときは、特殊な場合なのだから。

 限られた人付き合いの中でのみ、意味があるのだ。


 少ない時間で、相手を判断するのが、大抵の場合なのだから。

 最初にすり込まれた印象を覆すのは、非常に難しい。


 人を人が、勝手に判断しているのだから、仕方ないのだろう。

 岩沢の場合、最初のインパクトが強すぎた。


 とてつもなく、悪い意味で、である。


 岩沢が、どんなにカワイくなろうと。

 沙羅が、岩沢に対して、最初に思い描くイメージは。

 二頭身の、死んだ目をしていた、ユルキャラの岩沢なのだから。


 今更、良い意味で、裏切られたんだとしても。

 岩沢を見て思う感想は、ひねくれるのである。


「ご都合主義も、ココまで来ると、腹が立ってくるなぁ~、オイ」

 誰の、ご都合主義なのか。


 そんな事すら、どうでも良くなってしまうほど。


 素直に見えているモノを、受け入れられない。

 第一印象フィルターは、強烈なのである。


 手を振る岩沢は。

 褐色の、わがままボディを、沙羅に見せつけながら、高らかに宣言する。


「さ~ら~。わたし! さらの子供つくるねぇ~」

 だが、沙羅は、何も嬉しくない。


「沙羅様! なにも努力していないのに、岩沢の中の好感度、マックスですよ!」

 だが、沙羅の気持ちは沈んでいる。


「本当に、何一つ嬉しくないのは、なぜだろう」

漫画やラノベ。

 主に、年齢規制された恋愛シュミレーションゲームで。

 主人公が、理由もなくモテるのを、うらやましいと思った時期が、沙羅にもあった。


 だが、今の沙羅は、ハッキリ断言できる。


「マジ勘弁してほしい」 


 現実は甘くないと、誰が言ったのか。

 どこかで、聞いて、口にしていたのは、沙羅である。



 沙羅の知っている主人公達は。

 鈍感などではなく、めんどくさいから。

 そもそも、恋愛対象にしていないから。



 相手に言われて、初めて、そういう風にみている過程を。



 プレイヤーが勝手に、鈍感なんだと思い込んでるだけだと、思えてしまう。



 確定役がない限り。

 自分から告白する主人公が、極端に少ない理由は、ココなのかもしれない。


「沙羅様。それは、ですね」

 聞きたくもない事実を、ソニックは口にするようだ。


「本当に小さい子供が、初めて覚えた言葉で、

 父親に、愛情表現してるようなモノ、だからですね」


「お前は、本当に、俺の心のエグリかた、上手くなってきたな」


「いえ、だって、そうじゃないですか」


「絶対に許さないからな、オマエ」


「なんでですか!?」


 二人の視線は。

 目の前で、体の大きさに比例しない仕草を返す、岩沢に向けられた。


「さ~ら~。あとねぇ~」

「うん。聞いてあげるから、全部、言ってごらん」



 沙羅は、ココから。

 背筋が、かゆくなるセリフのオンパレードが続く、と。

 ため息を吐き出した。


「光で、暗いところを、照らせるようになったよぉ~。あとね!」

「うん?」


もう会話の切り口や、流れすら、無視した言葉が、沙羅の耳に届き。

 自分の言いたいことを、言い続ける子供のような話し方だ。


 何を言い出したのか、一瞬分からず。

 沙羅は、再度、聞こえてきた言葉を、ちゃんと受け止めた。


「あのね。穴の中の石とか、たべてたら、水がでてきたのぉ~」

 こんな流れで、水源問題、解決である。



 そして、光で、照らせるようになったのも・

 簡単に火がおこせない、今の状況にしてみれば、光源が確保されたことは、非常に大きい。

 

 生ける懐中電灯、岩沢。

 どうやら思いつきも、悪いことばかりでは、ないようだ。


「なんだと! スマ子より優秀じゃないか!

 あとは、なんかあるのか!?」


テンション、爆上がりである。


「……。すごい食いつきっぷりですね、沙羅様。しかも、私の呼び方、戻ってるし」

 ソニックが、それだけヒドかったのである。



 遭難している今。

 何一つできない子に、残念ながら価値は、ない。


「うるさい! 使えないエセサイボーグは、ちょっと、黙ってろ。

 岩沢、他には?」



 もう、ソニックは、沙羅の中で、なかったことになった。


 岩沢は、沙羅に、指パッチンをしてみせると、その指先から、火花が散る。

 恐らく、石と石をこすりつけて、火花を散らすのと、同じ原理なのだろう。


「なんて…。なんて、優秀な人材なんだ!

 最高だぞ! 岩沢!」

「あと…」


「うん、うん」

「カワイイ声で話せるようになりました~」

 沙羅は、ぶっちゃけ、そんなことは、どうでもよかった。


 さらなる、棚からぼた餅を、待ち望んでいるだけだ。

 餅は、落ちれば、落ちるほど、今は、糧になるのだから。


「…あ、うん。

 あの声から、カワイイ、ハスキーボイスに、なったの大きいな」


「あからさまに、テンション下がるのは、大人げないと思いますよ?」

 冷ややかに、沙羅のテンションに水を差す、ソニック。


 ソニックにしてみれば。

 こんなに、面白くないシチュエーションもないだろう。


「ちょ、おま!

 あの岩沢が、こんなにも、優秀な存在になるなんて、誰が想像した?」


「その期待を裏切るたびに、私達は、ディスられるわけですね? ヒドい人だ」


「うん? あれ? 敬語じゃなくなってるよ、スマ子さん」


「うっさいわねぇ! 岩沢を、カワイがれば、良いじゃない!」

 ヒステリック爆発、コレには沙羅も。


「……。」

 何も言わず、黙るしかない。


「あと、さらぁ~」

 空気を読まないのではなく。

 そもそも、そんな概念が、頭にない岩沢は、突き進む。


 沙羅が、「なんだ」と、岩沢に、先を促せば。

 沙羅の二歩先で立ち止まり、大きく息を吸い込んだ。


「さらぁ~、だいすきですぅぅうう!」


 キメポーズに、敬礼がセットで繰り出され。

 彼女居ない暦、イコール年齢の沙羅の心に、迫るモノは、あった。


 が、すぐに熱は、氷で冷やされる。


「ソニック、なんでだ!

 なんで、うれしくないんだ!」


「岩沢だからですよ!」


「水が確保されて、火すらおこせるようになって。

 しかも、光で夜も、安心なんだぞ!」


「岩沢だからです」


「い~わ~ざ~わ~!」


「はぃ~。さらのためにぃ~、がんばりますぅ~」


 小さかったときに向けられた。

 死んだ魚のような目は、ドコにもない。


 どこまでも純真で。

 透き通った瞳が。


 まっ直ぐに、沙羅に向けられた。


「俺が、お前に言うことは、一つだ!」

「なに~? さらぁ~」


「服を着ろ!」


 そんな物、ドコにあるの?

 ソニックの素朴な疑問と、共に。


 山肌と森、横穴しかない、殺風景な場所に。



 突き抜けた常識は、むなしくこだました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る