三話 生命錬成1

「で、何をどうすれば、生命を作り出せるって?」

 上から目線である。

 全く、スマ子(仮)の信用していない沙羅は、自分を棚に上げ。

 全てを、右か左側に置きざりにして、ズケズケと、切り込んでいく。



 お前は、なに様だだとか。

 自業自得だとか。

 沙羅、一人だけでは、この遭難状況を打破できないとか。


 話し合うことは、いくらでも、ありそうだと言うのに。


 二人は、何もかも、置き去りにしたまま。

 もっと、よく分からないモノ。


 色物に意識が、全て向かっていく。


 かくして、沙羅は。

 言葉通り、チュートリアルを、スマ子(仮)に、受けるのであった。


 全てを拒否した後にしてみれば、大、進歩である。

これを幸運と呼ばなければ、バチが当たると言うモノだ。


「私を生み出したときと同じように、そうですね…。

 そこらへんの石で、やってみましょうか?

 たりないかも、しれないですが…」


 ビックリ便利グッズは、道ばたに、落ちているようだ。



 しかも、コンビニに行くような手軽さで。


 沙羅は、冷静にダメな子だと判断した、スマ子(仮)の話が。

 また、迷走するだろうという、理由のない確信を胸に。

 話に乗ってみることにした。


「そんな、テキトーな物で、できちゃうの?」

「なんでも良いんだと、思いますよ?」

 もう、言っていることが、ふんわりしている。


 ここで、口を挟めば、話が進まないのだ。

 一度、飲み込むしかない。


「なんでも良いんだぁ~。

 すごい力のように、聞こえたのは、最初だけ、だったかぁ?」


「知りませんけど」

  知ってるのは、お前だと、言ってはならない。


 会話が、進まなくなるからだ。


 もう一度、スルースキルを、頑張って、使わなければならない。


「テキトーが、一番、危ないって、

 そろそろ気づこうよ、スマ子さんよ」


「とりあえず、集めましょ」

 だから、ソレが危ないんだと、思ってはならない。


 もう一度、全力で忘れてしまうのが、ベストである。


 なぜなら、と、もう書く必要もないだろう。

 

「どうやって?」

「拾い集めるんですよ。そこらへんから」


「スマ子さん、スマ子さん。」

「なんですか?」


「あなたが、指差している樹海に足を踏み入れて、

 何かあっても、俺には、何もできないけど?」



 大自然。


 耳障り良く聞こえるのは。

 動物や虫が、日々、食物連鎖という究極の実力主義の中。

 徘徊している自然を、知らないからである。


 沙羅が指さした、自然は。

 道路の両脇にある、整えられた緑ではなく。


 無作為に、草木が、虫が、動物が。

 生きていられるから、そのようになった、環境である。



 幽霊と同じで、分からないものに、恐怖を感じるのは、当然のことだ。


「……。見えてる、このあぜ道のような、場所だけで探しましょう」

 未知の恐怖に、見事に屈服。

 さすが、スマ子(仮)である。


そして、浮き彫りになるのだ。


「石一つ集めるのも、ままならない。

 この状況を、打破するほうが、先のように思えてきたから…。

 そっちから、やろうよスマ子。とりあえず水だよ」


「どうやって?」



 もう、ダメそうな流れを変えたのにだ。

 まさかの、話のループである。


 会議などで、よく見られるが。

 話が一周しているだけ、だというのに。

 話し合いをした事実が、なにも決まっていないのに「やることは、やった」と、満足し。


 ナニも決まらない、なにも話し合わない、都合の悪いことは報告しない。

 そんな会議は。

 夜中、画面を見ながら、ズボンを下ろして。

 やることやったら、寝るのと変わらない。


 いつまでも、話が前に進まない、負の連鎖。


 社会人三年生の沙羅が、知らないハズがない。


「スマ子さんは、強いから、樹海に入っても大丈夫だよ」

 断ち切りに行く。


「ペン・ソードとか持ってるんだから、何かあっても、対応できるだろ?」

 あおりに行く。


「あれだけ、重そうなモノを振り回せるんだから、身体能力も高い」

 少しの情報を、必死にかき集める。


「まずは、水源を探しに行かないと、な。

 スグに、駄目になるから、そこから解決しようぜ?」

 正論で、説得を試みる。


 これで、話しの流れが変われば。

 少しは、意味のある「会議」にできると。

 社会人スイッチの入った、沙羅の発言、だが。


「私に何かあった時、何もできなくて焦るのは、

 沙羅様だと、私は思うのですが、どうでしょう?」


  正論に殺される。

 こうなれば、原点に戻るしかない。


「石、探そうか」

「そうですね」


 お互い、何も言わず。

 安全地帯と思われる、あぜ道とは言いにくい、自然に、できた隙間。


 いそいそと、小さな物音に、怯えながら石を集め。


 採取範囲が狭すぎて、思った以上に、はかどらず。


 簡単に、一時間という時間が、溶けていき。


 時間の割には、体力と神経をすり減らした作業の末。


 公園の砂場で子供が作る山と、大差ない、石の小山が完成した。


「沙羅様、一時間の成果ですよ!」

「スマ子、そこの小枝を、山の中央にさせば、遊べるぞ」

 棒倒しゲーム。

 学校のグランドなどで、暇つぶしに行われる、遊びである。


 砂などで山を作り、棒を、山の中央にさす事で、ゲームスタートだ。


 お互いに山の砂を、好きな量を取っていき。

 棒を倒した方が負け。

 本当に、生産性も何もない、ただの暇つぶしゲームである。



 沙羅達は、貴重な、日の出ている、一時間という、時間を浪費し。

 すごくアナログな、遊びの手段を手に入れたのだ。


「ただでさえ、この達成感のなさを、痛感しているときに。

 もっと虚しくなれと、そうおっしゃるんですね」


「違う。ちょっと、思うがまま、現実から逃げようかと思って」


「逃げても、この疲労感からは、逃げられません」


 石の山の天辺に、先ほど、人の形に見えた石を添えれば。


 この一時間で、何も進んでいない。

 という、現実から、顔を背けたくなる気持ちも、分かるというものだろう。



 もうこうなれば、ダメだと思っていても。

 スマ子(仮)の話を進めるしかない。



「で、ココから、どうすれば良いんだ?」 

「誰かに助けを求めて、私が生まれたんですから…。

 同じことを思えば、できるハズです」

 恐ろしく、フワッとしていた。



 一時間の労働が、無駄になるときは。

 きっと、目前に控えているのだろう。

 それでも、沙羅が口を挟まないのは。

 ダメじゃないという、ものすごく少ない可能性を、信じているからだ。


 一時間も、かかったというのに。

 数行で、説明できてしまうような作業が。

 無駄ではなかったと、思いたい気持ちが、流れを止めさせない。


「その時、何を想像されましたか?」

「ファンタジーで、空を飛べるような、何かが。

 俺を、助けてくれないか、と、思ってた」

 もう、棒読みである。


「では、その石が、何になるか想像して。

 願いを、こめてみては、どうでしょう?」

 説明しているようで、なにも説明できていない。



 シュッと、やってバンだっての!

 なんていう擬音だけで説明しようとすれば、諦めがつくというのに。


 中途半端に、説明デキてしまっているところが、あきらめの決定打に、させない。



 スマ子の言うとおり、石が、何かになると、想像しようとして。

 一番、最初に出てきたのは、ゲシュタルト崩壊の向こう側に見えた、人の顔。


 石山の一番上に置いたのだ。

 こんなことを言われて、想像するなと言うほうが、無理な話である。



 そこから、人物像を想像し。

 どんな人物かを、想像するだけ。



 簡単なようで難しい、この脳内作業だが。


  沙羅にとっては、簡単な話だった。


 彼は、ジャンルを問わない、ゲーマーなのだから。

 ソレっぽいキャラを思い出して、当てはめれば、どうにでもなる。


 あとは、その人物に、何を願うのか。

 今、沙羅が、求める願いは一つだけだった。


「この絶望的な、遭難状態を何とかしてくれ」


 そこに追加して語るべきは、安易につけた名前だろう。


 沙羅は、 現実逃避するために、道ばたの石ころに、名前をつけていたのだ。


 ネーミングが安易で当然なのだが。

 仮の話し相手の名前を、沙羅は、恥じらいもなく、つぶやく。


「岩沢(いわざわ)」


 沙羅の声に反応し。

 石の小山、周辺に、光の文字らしきものが浮かび上がり、光は増えていく。

 線になり、文字になり、図形になり。


 そして、小山を、這うようにつたい、光は石の中央に集まり、輪をつくる。



 黄金に輝く光はうねり。

 必死に集めた石ころが、宙に浮いていく。


 光のワルツは、石を内部に飲み込み、踊る、踊る。



 景色を彩るように、様々な光のショーを見せる。

 二人の背後にある木々や岩すら、舞台にして。


 そして、このイベントの締めくくりと。

 沙羅の胸から放たれた、赤い光が、混ざり合う。


「沙羅様、コレです!」

「よかったな。スマ子。

 本当に痛い子じゃないって、証明されて」


「私は、このあと。

 沙羅様の中で、私が、どういう存在なのか、

 よく話し合いたいと、思います」


 軽口こそ、出てきているが。

 沙羅は、胸から光が出たことに、驚きを隠せない。


 だが、そんな驚きすら飲み込み。

 見惚れさせる光景から、目が離せず。

 終わるのを待つことしか、できなかった。


 コレで終わりと、ゆっくりと輝きは収束し。

 一つの塊となって、地面に落ちる。



 一抹の不安を、二人に植え付けたまま。


「なぁ、スマ子。

 このまま手足が生えて、歩きだすだけ、とかいうオチが、見えてるんだが?」

「ないとは、言い切れませんねぇ…」


 落ちた光は、勢いをなくし、大気に四散する。

 雪のように、黄金の光の粒がふり。


 光の中央から、見えたシルエット。


 それはまさに、沙羅の想像したもの。


 二人の表情は、固まり。


 言葉を失う中。

 

 教科書の端に、一筆書きしたような。

 石ころサイズの、ゆるキャラが、ソコにいた。


「全く、俺の意図を、くみ取ってないんだが!?」


「えっと…」


「小指の先ほども、俺の意思が、反映されてないんだが!?」


「良かったじゃないですか。

 石に、手足が生えているだけじゃ、なくて」


「ほとんど、変わらないんだが!?」


「カワイイじゃないですか、少なからず」


「それしか、この生物の美点がないと、

 言っている事に、気づいているか? スマ子」


「終わったんで、いい加減、改名してください」


「今は、その話題に触れるときじゃねぇ!」

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