第37話 お泊りさん

篠目柚子Side



「なに、昼寝でもしたの?」

『ううん』

「とりあえず、お茶飲んでくるね」


 冷蔵庫からお茶を出して、コップに注ぐ。

 一口飲んだけど、眠い。


「おねえちゃんも早く寝た方がいいよ……」


 ベッドに戻り、布団を被ると、すぐに眠りに落ちた。



φφφ



「……おはよ」


 目を覚まして、お姉ちゃんに声をかけるが、返事が無かった。


「あ」


 そういえば、昨日、夜に目を覚まして……

 イヤホンつけなおしてなかった。


「お姉ちゃん?」

『あ、柚子? おはよ~』

「おはよ」


 イヤホンを付ければ、お姉ちゃんの声が返ってくる。

 ……


「お姉ちゃん」

『どうしたの~?』

「いつから寝てないの?」

『どうしたの、いきなり?』


 昨日の夜の言葉。

 絶対に昨日今日寝てないという感じではなかった。


「寝てないの?」

『うん? うん』

「いつから?」

『いつからっていうか……最初から?』

「は? 最初って?」

『えっと、こうなった日……?』


 ……お姉ちゃんが起きなくなった日……1か月以上前?

 いやいや……


「今、冗談とか求めてないから」

『え、えぇ……?』

「……まじ?」


 お姉ちゃんの反応……本当に寝てないの?

 不眠症?

 確かに、こんな意味わかんない状況になれば、ストレスでそうなっても仕方ない気もする。


「なんでいわないの?」

『え、柚子、怒ってる……?』

「別に怒ってないけど??」


 怒ってはない、怒っては。


「お姉ちゃん、疲れてる?」

『え? ううん、そんなに……』

「というか、疲れてるよね?」


 お姉ちゃんの言葉を遮る。


『えぇ……疲れてないよ?』


 お姉ちゃんが寝てないことを知って、改めて聞けば。

 確かに声はいつも通りだけど……


「お姉ちゃんが、私を不安にさせるようなこと、素直に言うわけないでしょ?」

『……確かに!』

「もしかして、気づいてなかったの?」

『疲れてるの、かなぁ?』


 普通すぐに自覚できるものだと思うんだけど。

 まだ栄養ドリンクの影響が残ってるとかはないだろうけど。

 それにしても、そんな状況で配信とか仕事とかやって、大丈夫なの?

 前にお姉ちゃんが信用が大事って言ってたし、疲労でミスをしたらまずいんじゃないかな。


「なんで寝ないの?」

『寝ないって言うか……?』

「なにそのあいまいな感じ」

『寝る場所がない?』


 寝る場所?

 そういえば、パソコンに繋がるのしかないんだっけ?

 じゃあ、ベッドはないってこと?


「でも、お姉ちゃん、前に疲れたからって床で寝てなかった?」

『まあ、そうだけど……っ!』


 かなり前、お姉ちゃんが中学生の時に、床で寝てお母さんに踏まれて叫んでいたのを思い出す。

 うん、今考えると床で寝てたお姉ちゃんもだけど、お母さんもひどい。


『それに……』

「それに?」

『えっと……寝れないって言うか? あはは……』

「今そういうのいいからはっきり言ってくれない?」

『柚子怒ってる……』


 ……


「……」

『えへへ?』

「5、4,3……」

『ねむくならないのぉ……!!』


 カウントダウンで、素直に答え……え?


「はぁ?」

『ねぇ、柚子? ちょっと会わない間にぐれちゃってない? よくないよ?』

「ずっと寝てないけど、眠くもないってこと?」

『うん……』


 なにそれ?


「てか、そう言うことって、普通真っ先に言うものでしょ」

『……心配かけるかなぁって?』

「今更?」


 心配事を増やさないでほしい。

 それなら最初から伝えてもらった方がまし。


「睡眠欲ないって、人として終わってない?」

『そういうこという!?』

「食欲もないんでしょ? 欲求ないって……大丈夫?」

『ほ、ほら……その代わりイラスト欲とVtuber欲があるから……』


 うんうんと、悩んでるみたいだけど、思ったより深刻な気がする。

 そもそも食欲がない時点で、普通なら死んでるだろうし、栄養も採れてなくて、睡眠もとれてない時点で、頭が働かないはず。

 でも、ちょっと子供っぽい話し方は元々だし、そこまで頭が働いてないわけでもなさそう。


『でも、ちょっと考えてたことがあってね?』


 お姉ちゃんが明るい声で言う。


「うん」

『私、今寝てるんじゃない、って』

「は?」

『いや、あのね? それやめよ? こわいよ?』


 それは、たまにえりちゃんにも言われるから気をつけなきゃだけど、今はどうでもよくて。


「いいから説明」

『そのままなんだけど……私の身体?は病院で寝て、点滴で栄養貰ってるでしょ?』


 そう。

 お姉ちゃんは、病院で今も寝てて、それはお見舞いに行った私もお母さん達も知ってる。


「……だから、お姉ちゃんは寝なくていいし、ごはん食べなくてもいいってこと?」

『なんとなくだよ? そうなんじゃないかなぁ、って?』


 まあ、誰に聞いても、はっきりとした答えは得られないだろうし、それをふまえれば、お姉ちゃんの感覚が一番信用できる……のかなぁ?

 それに、私も聞いて何となく納得できるし、お姉ちゃんがそう信じてるならいいのかな。

 難しいこととか考えすぎて、安定してる今の状況が悪い方向に転がっても困るし。

 現状維持が一番、かな?


「とりあえず、お姉ちゃんは、どうなの?」

『どうって?』

「他に隠してることない?」

『……たぶん?』

「曖昧な返事しないでくれる?」

『だってぇ、何言わなきゃいけないとか、わかんない……』


 まあ、今の状況を説明しろって言われたって困るに決まってる。

 私も何を聞けばいいのかわからないし、お姉ちゃんにとにかく言えって言うのもかわいそうだし。


「眠れなくても目を瞑って休むのは?」

『んー、ダメだった、かなぁ? 目を閉じてても、別に、何も感じないというか……飽きちゃって?』

「別にそれで疲れがとれたりはしないってこと?」

『うん。とる疲れもないともいうかも?』

「さすがに何とかした方がいいんじゃない」


 具体的にどうすればいいかはわからないけど、そこだけでも、何とか改善した方がいいと思う。

 肉体的?には問題ないのかもしれないけど、精神面でどうにかなってしまいそう。 


『でも、あんまり困ってないからね』


 ……こんなに簡単に流していいのかな……?

 出来ることなんて何もないから仕方ないけど。

 今の、異常事態に慣れてしまってる気がして怖い。

 いろんなことがいっぺんに入ってきているから、なんとなくで済ませてしまっているような。


 お姉ちゃんは、もう何日も寝れてないし、眠くなってもいない。

 でも、それ自体で体調が悪くなったりはしない、みたい。

 あくまで自己申告だけど。


 そもそも、ご飯も食べてない。

 それには飲み物を飲んでないってことも含まれてるはず。

 もちろん普通だったら死ぬ。

 でも、それで今の今まで話せてるってことは問題ないってこと。


 睡眠中の記憶の整理だったり、食事によるストレス軽減だったりは、できてない?

 お姉ちゃんの予想が合ってるなら、今もしてるってこと?

 ストレスの方は、配信を楽しむことで何とかなってるとして、記憶の整理はできなくない?

 だって、今も私との会話とかを記憶してるわけで……


 ……こんなことを考えるのも無駄な気がする。

 でも、考えないでいることなんてできないし。

 とりあえず、その二つは置いておく。

 それより前、たしか……


「お姉ちゃんって、今部屋みたいな場所にいるって言ってたっけ?」

『え、うん。そうだよ?』

「どういう部屋?」

『どういうって言われても……』


 また、曖昧な返事。

 これは……


「隠された方が心配するから」

『えっとね? 後ろの壁に柚子の顔って言うか……カメラの映像が映ってる?』

「壁に?」

『うん』

「プロジェクターみたいな感じ?」

『プロジェクターっていうより……そのまま、パソコンのモニターに映ってるみたいな感じかなぁ?』




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Vtuberに転生!? 超絶かわいい妹と頑張ります! 皮以祝 @oue475869

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ