第36話 久し振り

篠目柚子Side


「ほんとだ……」


 えりちゃんが酔って眠ってしまった後、お疲れさま会は解散になった。

 家に帰ったあと、私はお姉ちゃんのアカウントを見ていた。

 今も配信しているみたい。

 見ないけど。


「でも……」


 今までお姉ちゃんのアカウントも見てないし、当然配信も見てなかった。

 過去の配信が並んでて……


「こんなに……?」


 毎日10時間以上、配信してることになっちゃうんだけど……

 ……Vtuberってそういうものなのかも?


 でも、お姉ちゃんがそこまで力を入れてやってることが驚きだった。

 だって、寝る時間とか考えたら、絵を描いてる時間の方が少なくなってるってこと。

 私の中では、お姉ちゃんは、絵を描いてるイメージが強すぎて、他の事にそれほど時間をかけてるイメージがない。

 あと、えりちゃんとみっちゃんが言ってたようなショートスリーパーみたいなことは一切ない。

 それこそ、絵を描いているか寝ているか、みたいな感じだったし、寝るのも好きと言ってたのも聞いたことがある。

 それよりも、今は配信の方が楽しいってこと?


「……」


 それにしてもじゃない?

 そんなに、楽しいのかな……?


「あ、Twitter……」


 私のスマホの上部に通知を知らせるポップが出たことで、前に、お姉ちゃんのスマホに大量の通知が来ていたことを思い出す。

 そっちも、ちょっと見てみよっかな。


「えっと……わ、やっぱりフォロワーすごっ。やっぱりイラストレーターっていろんな人から興味持たれるんだ?」


 フォロワーが多いのにフォローしてる数が少ないのは、ちょっとした有名人みたいで、なんだか嬉しいような恥ずかしいような。

 過去のツイートは……最近は配信の告知ばっかり。

 あ、でも、仕事の方も、再開してる?

 ……?

 お姉ちゃん、いつ寝てるんだろ?

 LINEで……あー、たまには行こうかな?

 最近行けてなかったし。

 金曜に行くって送っておけばいいや、それで直接聞こ。



φφφ



 金曜日、予定通りお姉ちゃんのマンションの下まで来た。

 最後に来たのは……1か月くらい前?

 お姉ちゃんに来るなと言われたし、私も期末試験があったりで足が遠のいていた。

 お姉ちゃんがあんな風になる前は、もっと通ってなかったのに、不思議だ。

 ……配信は、してないから、入っていいよね。


 鍵を開け、部屋に入る。

 ……当然、前来た時から変わっていない。

 ちょっと埃は積もっているかもだけど、ゴミもたまってない。

 そして、パソコンの音はなり続けている。

 人の気配はないけれど、確かにお姉ちゃんはそこにいる。


「……お姉ちゃん?」

『あー、柚子! いらっしゃーい!』


 スリープモードを解除して、声を掛ければ、お姉ちゃんの声が帰ってくる。

 相変わらず、元気良さそう。


「元気だった?」

『うん! 心配してきてくれたのー?』

「そんな感じ?」


 流石に照れくさい。

 悪い気はしないけど。


「配信とか色々やってるみたいだったから、見に来たんだけど。まあ、その……Vtuberの顔も、声も疲れてる感じじゃないし」

『……そうだよ~! 疲れてまで配信しないって~』

「まあ、そうだよね」


 無理してまで、やってるわけじゃないならよかった。

 今までだって、自分で体調管理はしてたし、取り越し苦労だったかな。


『今日はなにしよっか~?』

「べつにゲームしにきてるわけじゃないんだけど……」

『え~、やろうよ~!』

「……まあ、やるけど」



φφφ



 お風呂にも入ったし、あとはもう寝るだけ。

 イヤホンをつけて、ベッドに横になった。


『ねんねんころりよ~』

「うるさい」

『この続き知ってる?』

「……ねんねんころりよ……えっと、おころりよ、だっけ? その後が、坊やはよい子だねんねしな?」

『よく知ってるね?』

「……」


 なんで覚えてるんだろ?

 自分でもわからない。

 何処で聞いたんだろう。


「ぁっ……」


 どうでもいいことを思い出そうとしていたら、あくびが出てしまった。


『きょうもおつかれさま』

「お姉ちゃんもね」

『そうだね~』

「おねえちゃんも……」



φφφ



「んっ……」


 目が覚めてしまった。

 枕元に置いたスマホを手に取ってみれば、まだ3時を少し過ぎたところ。

 なにか飲も……


 身を起こして、ベッドから降りる。


「いったぁぁ!?」


 キッチンに向かおうとしたら、机に小指をぶつけてしまう。

 痛い痛い!


「もぉ!」

『柚子、大丈夫?』

「え?」


 お姉ちゃんの声がする。


『どうしたの? 目、覚めちゃった?』


 画面が光を放っていた。

 私が机にぶつかったからか、スリープモードではなくなったのか。


『イヤホンつけっぱなしだよ? 外さないと』

「……お姉ちゃん?」

『どうしたの?』


 画面の右端には、もう見慣れた顔。


「……まだおきてたの?」

『そうだよ?』


 寝起きの頭ではあったけれど、確かに違和感があった。


「……お姉ちゃんっていつ寝てるの?」

『……寝てないよ?』

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