第35話 いがい

「あ~! ハムスター!? そっかぁ……大きさ難しいもんね。それが……鼻輪だっけ? 牛の鼻についてる輪っかになっちゃってたんだ? ハムスターって模様難しいもんね」


 一通り終わり、今はみんなの答えや描いた絵を見てる。

 14人でやったので、その分、正確に伝えるのは難しい。

 それは分かってたけど……


「一つくらいは成功させたかったなぁ~」


『お題が難しすぎる』

『逆に変な状況の何かが描きやすい?』

『木彫りのサンタクロースから露出狂のおじさんは笑う』

『クジラは全部伝わってたけどな』

『僧侶の方が難しそう。実際ただのおじいさんになってたし』

『二人目の時点でまともに伝わってないからw』

『これ1回で1時間以上かかるのか』

『フラミンゴも伝わってた』

『ピエロに扇風機……』

『外科医とかどうしろと? 絵で伝えるのきつくね?』

『動物多いな。でも、らくだとかキリンとか特徴あるやつだからいいのか』

『これは棒人間ではどうにもならない』


「ね。結構時間かかっちゃう……私はいいんだけど、途中で抜けちゃうと、空って表示になるって誰か言ってたね。事情があって、途中で抜けたいって人も出てきちゃうだろうし、このゲームはこのくらいにしておくね?」


『香川県民参加不可』

『1時間拘束は……あれ、いつもの配信見てる時間の方が長いな』

『見てる側楽しいけど、参加は難しそう』

『マウスでもいいですか?』

『これ好きだから残念』

『次回も待ってます!』


「私もまたやりたいな! 時間がある時にやろうね。じゃあ、今回はこれでおしまい! ばいばい!」


『おつでした!』

『乙』

『スクショあげられない?』

『おつかれさま!』

『普段の絵もいいけど今回みたいのもよき』

『お疲れ様!』



φφφ


篠目柚子Side



「おつかれ」

「ほんと疲れた~……」


 試験期間の最終日。

 3人とも試験が無かったので、えりちゃんの家に集まっていた。


「えりちゃん、ぎりぎりまでレジュメ読んでたもんね」

「普通するよ~……ゆずがおかしい! まちがいない!」

「エリ、一夜漬けするって言ってたじゃん」

「いや~……やる気がでなくって」

「それで単位落としたん?」

「まだ落ちてないから!! セーフの可能性もあるから!」


 えりちゃんのテンションが高い理由は、アルコールが入っているから。

 私とみっちゃんは飲まないので、一人で酔ってる状態。

 正直面倒だけど、こういう日だから仕方ない。


「えりちゃんはお祈りメール用意した方がいいかも?」

「あー、前も送ってたじゃん? 今のうちに作っといたら?」

「二人とも……自分たちは送ったことないからって……」

「送ったことのある人の方が少ないと思うけど」


 それで単位がもらえるなら得な気もする。

 普通に行くの面倒なときあるし。


「って、もうそれはいいよ~! せっかく終わったんだから、そういう話はなしなの~!!」

「はいはい」


 テーブルの上には、大量のお菓子。

 えりちゃんがおつまみにって買ってるらしいんだけど、グミとかっておつまみになるの、とかいろいろ気になるけど、飲まない私たちにはわからないし、想像するようなおつまみばっかり出てきても私たちが困るので何も言わない。


「あ、あれ見よ~!」

「あれ?」

「ほら、みかんちゃん」

「……」


 思わず目を閉じて天井を仰ぎ見た。

 ナンデ?


「あ、エリも見たん? やっぱ、おもろいよね」

「おもしろかった~! あんまりゲームやってる人とか見ないんだけど、みかんちゃんだけなんか見ちゃうんだよね~」

「そ、そうなんだぁ……」


 できればその人だけは見てほしく……

 いや、お姉ちゃん的にはたくさんの人に見てほしいんだろうし、見ないでとも言い辛いし……

 なんとか話題を逸らしたい。


「あー、アニメの人だっけ? 二人ともそっちに興味あったんだ?」


 私たちは、今までそういう、オタク関係の話をしたことがない。

 二人とも話さなかったし、私も、わざわざそういう話振ったりしなかった。

 実際、アニメとかは見てるわけじゃないから、オタクではないんだけど、お姉ちゃんの影響で普通より詳しいみたいで、昔、小学生の頃、お姉ちゃんに、「オタクは嫌われるから他の人に話しちゃだめだよ」と言われてから、他の人に話すことは無くなった。

 ……今考えれば、それは正しいのか正しくなかったのか。

 実際、全く隠してなかったお姉ちゃんが嫌われてたかって話。

 周りから話しかけられないのを本人はハブられてたって考えてたらしいけど。


「私は、割と見る方? 話題追っかけてたらそっちも好きになった感じ?」

「え」

「ウチは、ほら! 前の……何人かの元カレがオタク系だったから、その流れで?」

「え」


 二人とも理解がある人だったらしい。

 え、お姉ちゃんが前に「陽キャ系とか、きゃぴきゃぴ系みたいな、明るい感じの人はオタクを黒いあの虫くらい嫌ってるから、オタクが何しても嫌われるものだよ」って言って……

 あれ、それ偏見じゃない?

 そもそもお姉ちゃんがそういう人たちと話してるとか聞いたことないし。

 というか、お姉ちゃんに色々言われたせいで、変に考えてるんじゃない、私。


「前に、オタク系は服装ださいから嫌いって言ってなかった~?」

「言ってたけど。ふつーに、ださいやつはださいわ」

「確かに~」


 それは確かに。

 じゃなくて!

 ……でも、とりあえず、なんとか話を逸らせた。


「てか、今思ったんだけど……」

「え、あっ、どうしたの、みっちゃん?」


 みっちゃんが私の顔をじっと見ていた。

 え、なに?

 気づかれる要素とか……いや、動揺してるからあれなんだけど。


「黄金みかんとユズの声とちょっと似てる?」

「あ~、ちょっと似てるかも!」

「そ、そうなんだ?」


 知らない知らない。

 声似てるなんて聞いたことないし!


「でも、たぶん……ほら、今も配信してる」

「やっぱりね~、いつでもやってる気がするよね~」


 やだやだききたくないききたくない……

 どんな配信してるか知らないけど、本当に聞きたくない。

 身内の作った声を聞かされ続けられる苦痛を耐えられる自信がない。


「あ、終わった」

「え~……タイミング悪すぎ~……」

「ほっ……」


 ありがとう、お姉ちゃん。

 絶対偶然だけど、本当にありがとう。


「でも、一時間ぐらいしたらまたやるんじゃん?」

「そだね~! あとでまた見よ~」

「……え?」


 1時間後?


「あ、ユズは知らないんよね? っとねー、黄金みかんって配信ペースめっちゃ速くて、一日何回も配信するんよ」

「そうそう、大体やってるんだよね~」

「え?」


 そんなに配信してるんだ。

 でも……


「しかも、毎日なんよね」

「ね~! どれだけ元気なのって感じだよね~」

「あれじゃん? ショートスリーパー? やっぱそういうのなんじゃない?」

「天才って感じ~」


 え?

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