第8話 Vtuberになります!(もうなってる)

「あれ、みんな泊ってかないの?」


 お母さんたちが、帰る準備をし始めていた。 


「蜜柑が無事なことも分かったし、私達は帰るわ」

「明日、仕事もあるしな」

「お母さん達冷た~い……」


 娘がこんな状態なんですよ!

 どうしようもないと思うけど!


「……私は、泊ってく」

「ほんと!?」


 柚子のつぶやきに即座に返す。


「柚子、あんた着替え持ってきてないでしょう」

「私の使っていいよ?」


 じゃんじゃん使って?

 柚子なら遠慮何て一切要らないから。


「アンタと柚子じゃ、サイズが違うでしょう」

「1日くらい大丈夫だから」


 そうそう、柚子はいい匂いだからね。


「……まあ、好きにしなさい」

「うん……」


 本当に、お母さん達は帰ってしまった。


「柚子?」

「なに、お姉ちゃん?」

「何してあそぼっか!?」

「遊べないでしょ……」



φφφ



「え、柚子泊ってったの!? 起こしてくれればよかったのにぃ……」

「起きないから病院送りになったんだけど」


 柚子は私に気を遣ってか、私に見えるように、パソコンの前で夕ごはんと食べてる。

 私は、お腹も空かないみたい。

 仙人になったのかな?


「……お姉ちゃんさ」

「うん?」


 少し真剣みを帯びた目で訊いてくる。


「今まで何してたの?」

「絵描いたり、Youtubeみたりしてたよっ!」

「ほんとに普通に生活してたんだ……」

「そうだよ! いつもと変わらなくてびっくりした?」

「びっくりはしないけど、安心はした」

「えへへ」


 かわいい。


「そういえば、近くにマイクある?」

「マイク……?」

「ほら、Vtuberやるのに必要だから買ったんだよね~」


 Amazonから届いて箱のまま置いてあるはず。

 よくわからないからおすすめって書いてあったマイク。


「え、お姉ちゃん今でもやる気なの?」

「するよ? そのために準備してきたんだし!」

「こんな状況なのに?」

「それ以外することも無いし……絵も描けるみたいだから、仕事も続けられるしね!」


 改めて考えると、そこまで悪い状況ではないと思う。

 仕事だって問題ないし、ごはんもいらないなら食費かからないし。

 代わりに電気代かかるだろうけど。

 まぁ、缶詰だっけ?

 締め切りに追われて、ホテルに閉じ込められるって言う噂の。

 あれだと思えば、うん。大丈夫。


「というより、そのVtuberって何するの?」

「え? えーっと、ゲーム実況者みたいな?」


 説明するってなると、難しい。

 というより、私もよくわかってない。

 Vtuberを作ることが第一目標だったし……


「柚子、一緒に勉強しよ?」

「なんで私まで?」

「ごはんの間だけでいいから~」

「わかったから、顔近づけないで」

「ガチ恋しちゃう?」

「さっきも言ってたけど、『がちこい』ってなに?」

「えっとね、ガチ恋っていうのは……」



 φφφ



 柚子は夕ごはんを食べ終えた後、お風呂に入り、そして、さっき出てきた。

 柚子のお風呂上がりの姿はお姉ちゃんの特権ですっ!

 そんな、ことを考えていたのに……


「えっ……そんな……そんなことって……」

「お姉ちゃん……」

「ゆ、柚子……? う、嘘だよね?」

「……」


 柚子が私から顔を背けた。


「嘘って言ってよ!」

「……ごめん」

「そんな……っ!」


 私たちの間には溝があった。

 姉妹の絆をもってしても克服できない、深い溝が。


「スイッチで遊べないなんて……っ!」

「予想はついてたでしょ」

「そんなのってないよぉ……」


 Vtuber活動のために買ったスイッチに、頑張って何度も抽選に挑み、ようやく手に入っていたPS5も、私には遊べなかった。

 コントローラーが、もてないっ!


「配信でやるつもりだったのにぃ……」

「えっと、ほら。パソコンでもゲームできるんでしょ? それやればいいじゃん」

「私がパソコンでやるゲームなんて、美少女ゲームだけだもん!!」

「それは知らないけど……」


 しばらく美少女ゲームでお茶を濁す……?

 濁せるの?

 普通にゲームやりたかったのにぃ……ああああ!!


「ほ、ほら。お姉ちゃん、桃鉄やろ? 行ってくれれば私が操作するから」

「なんでそんな友情崩壊ゲームすすめるの? お姉ちゃんのこと嫌い?」

「これ、お姉ちゃんが買ったんだよね……?」



φφφ



「お姉ちゃん」

「なーに?」


 柚子は私のベッドで横になりながら、イヤホンで私の声を聞いている。

 普段から音楽を聞きながら寝ているから、大丈夫だって言ってた。


「この前泊った時はあんまり気にならなかったけど」

「うん」

「パソコンってついてると結構うるさいんだね」


 イヤホンをしていない片耳から聞こえてくるらしい。

 慣れればそこまで気にならないんだけどね。


「子守り歌とか歌う?」

「……余計眠れなくなりそうだからいい」


 私も子守り歌の歌詞知らないや。

 柚子があくびを我慢してる。

 もう眠いみたい。


「そろそろ寝よっか?」

「うん……」

「おやすみ、柚子」

「おやすみ、お姉ちゃん……」


 柚子から声がしなくなり、しばらくして、かわいい寝息も聞こえてきたので、私も目を閉じた。

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