第6話 はい、お姉ちゃんですよー!

蜜柑Side



 急に背後から、光が差し込んできた。

 振り返ってみてみれば、そこには、柚子が映っていて、こちらを見ていた。

 私は瞬間的に反応する。


「柚子ー! 見えてるー?」


 久しぶりに見えた妹の顔に声をかける。

 実際、久しぶりなんだと思う。

 色々考えることもあるけど、とりあえず。

 今日もかわいいっ!


「っ!? お姉ちゃん!?」


 私の方を見ていた柚子は、勢いよく後ろを振り返った。

 も~、どこ見てるの~?


「こっちだってー!」


 反対だよ、反対!

 さっきの向きであってたんだよ~?


「蜜柑の声……?」

「パソコンから? あの子、自分の声を録音してたりしたの?」


 お父さんとお母さんもいる!

 二人ともこっちに向かって歩いてくる。


「あ、お父さんとお母さんも! 久しぶりー!」


 私の声を聞いた瞬間、三人とも首を斜めにしてて、おやこ~って感じ。

 うぅ、私だけ仲間外れだよ~…… 


「おぉ……なんかすごいな」

「あの子ったら、どんな状況のものを録音してるのよ……」


 私に意識があるのかを確かめるように、私の方に手を振っている。

 ちょっと面白い。


「いや、録音じゃないってばー!」

「……お姉ちゃん……?」


 む、柚子が疑ってる。

 いやぁ……まあ、しかたないよね!

 私だって今の状況、説明できないもん!


「柚子、何か再生してるの?」

「し、してない……」


 柚子がお母さんに首を振りながらも、私の方をちらちらと見てる。

 疑ってるよぉ……

 どうやって証明したらいいんだろう?


「蜜柑は、こういうこともしてたのか……」

「信じてって~」


 信用が無いよう……

 自分の声を録音なんて、って一瞬思ったけど、よく考えれば、これからそれとほぼ同じことしていくんだよね。

 気を付けないと。


「柚子、お姉ちゃんだよ~」


 出来るだけ、明るく、手を振りながら返事をする。

 伝わってるのかな?

 伝わるといいな、姉妹だし!

 シンパシー的な何かで伝われ!


「ほんとに?」


 う、やっぱり信じてくれない?

 でもな~……

 下手に返事しても信じてくれなさそうだし、やっぱりここは、いつも通りに応えないと。


「ほんとほんと、あいあむおねえちゃん!」


 猛アピールする。

 私、蜜柑だって!

 本物だって!

 柚子の姉の、蜜柑です!


「……本当に、蜜柑なのね?」

「そうだよ!」


 お母さんが信じてくれた!

 やっぱり持つべきものは、かわいい妹と信じてくれるお母さんですよ~。

 あ、もちろん、わがまま聞いてくれるお父さんも。

 全員大事っ!


「あんたねぇ……人が心配してたっていうのに、何やってんのよ」

「えへへ、ごめんね、お母さん」


 謝っとく。

 もう1週間くらい経ってみたいだし、心配もかけちゃったよね。

 私だって柚子が入院するってなったら、大慌てするだろうな~……


「いや、お母さん、軽くない!? 今どういう状況かわかんないんだけど」

「蜜柑、今どこに……いや、じゃあ、病院にいるのは……?」


 お母さんはともかく、柚子とお父さんは混乱してる。

 だよね~。

 私もこうなった時、混乱したし。

 私と比べたら、皆はむしろ、落ち着いてるほうかも?


「逆に、どうなってる~?」


 なんとなく、見える範囲から予想はできて……あれ、部屋が綺麗になってる。

 出しっぱなしにしてあったものが、すっかり整理されてる。

 掃除してくれてたのかな。

 や、やろうとは思ってたんですよ……?


「……蜜柑はずっと病院で寝ている」

「え、ここにいるけど」


 お父さん、信じてくれてない……?

 親子の絆はどうしたの?


「ここって……パソコンの中?」

「あー、やっぱりそうだよね~」


 予想は当たってたみたい。

 パソコンの中か~……

 あれかな、画面の中に入りたいって思ってたからかな?

 いや、でもそんなの、たくさんの人が考えてるだろうしな~……


「……あと」

「うん?」


 柚子が不思議そうな、顔をしながら、一度、お母さん達の方を見た。

 二人も、同じような顔をしてる。

 柚子は、再び私の方を見て、口を開けた。


「その……Vtuber、だったよね?」

「え、なに?」


 いきなり……でもないのかな?

 LINEで送りっぱなしだったし。

 返事も返せてなかったな~。


「Vtuberの用意は終わってたんだけどね」

「そうじゃなくて……」

「?」


 柚子は状況が読みこめてないのか、少し、言い辛そうにしている。

 え、なに?

 何かあったの?

 いや、私がパソコンに入っちゃったこと以上に、驚くことなんて、そうそうないと思うんだけど。


「どうして、あの写真の、女の子の、姿になってるの?」

「???」


 ほわっつ?

 どういうことですのん?

 あの写真の女の子って、LINEで送った絵だよね?

 え、え……?


「どういうこと?」

「……わかってないの?」


 全然わかってない。

 確認する方法も思いつかなかったし。


「鏡で、柚子たちからどう見えてるか、見せてくれない?」

「……スマホでいい?」


 訊きながら、柚子がスマホの内カメラを使って、私の状況を伝えてくれる。

 いつも通りの、パソコンのホーム画面。

 そして、その右端に……


「みかんちゃんだ!」


 

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