第5話 お片付け

柚子Side



 お姉ちゃんが入院してから、1週間が経った。

 まだ目覚めていない。

 いくつかの病院を回ったが、深く眠り続けている以上の異常は発見されなかったらしい。

 現在は、点滴で栄養を摂らせたりなど、しているらしい。


 そんな中、私達は、再びお姉ちゃんの家に来ていた。

 ここから持っていった、様々な物を返すために。

 下着以外の服なども、病院側で用意されるらしい。


 そして、この家も、しばらく人が住まないので、掃除や片付けなどしなきゃいけない。


「あっ、雑巾忘れちゃったわ」

「買ってくるか?」

「そうね。他に必要なものは……」


 また、私はお姉ちゃんの家で独りになってしまった。

 出来ることだけ、やってしまおう。

 机の上に置かれてる、多分、絵の資料とか、あとは……


「スマホ……」


 私が、お姉ちゃんの家に来た時から、変わらずそこに置かれている。

 手に取ってみると、明かりがついた。

 充電切れ以外で電源を切ることなんて、滅多にないからか、スリープモードだったらしい。


 スマホは、パスワードを示せと訴えてくる。

 お姉ちゃんのパスワードなんて……


「お姉ちゃんの誕生日? 4桁なら、0、8、0、7……?」


 スマホが震え、再びパスワードを要求してくる。


「……0、4、2、7」


 開いた。

 画面は、私とのLINEのやり取りが映っている。

 私のメッセージにも今更、既読がついたと思う。

 そして、「ちょっとねむいから」と、送信前のメッセージが残っていた。

 ……お姉ちゃんらしい。



φφφ



「とりあえず、柚子はお父さんと協力して、持って帰る物を車に運んで。お母さんは水回り拭いたりしてるから」

「車まで運ぶのは父さんやるから、柚子は玄関にまとめておいてくれるか?」

「わかった」


 私は、まず冷蔵庫の中身を片付けることにした。

 どのくらいの期間、空けることになるのかわからないので、全てクーラーボックスに詰めていく。

 慌ただしくしていたから、入れっぱなしだったカレーは、捨てる。

 お母さんに聞けば、まとめて洗うと言われたので、空になった食器はまとめて、シンクに入れておいた。


 次は、服。

 今は秋なので、夏服など季節に合わない服は、タンスにしまったまま。

 というより、自分用の服は新しく買ったの?

 見覚えのあるものばかりで、少し心配になる。

 見覚えのないものは、明らかにサイズの違うものもあったので、絵を描く時に使ったのかもしれない。


 次は……


「お母さん、本はどうするの?」

「え、なにー?」

「本! どうするの!」

「あー、そのままでいいんじゃない?」

「ほこり溜ったりしない?」

「そうね……嵩張るから、また今度で」

「わかった」


 棚の外に出ていた本を棚に戻して、ある程度整えて、終わりにする。


 あとは、何をすればいいんだろ。

 お父さんを手伝おう。

 クーラーボックスをもって、部屋を出て、1階まで下りる。

 結構、重い。



φφφ



「粗方、終わったかしらね」


 部屋を見渡しながら、お母さんが言う。

 私もつられて見渡す。


「あ、コンセント、抜かないの?」

「そうね。テレビとかは、抜いておかないと」


 お母さんがテレビのコンセントを抜く。

 私は、パソコンの……

 あれ?


「これ、つきっぱなし?」


 コンセントを抜こうと屈んだところで、ランプがついているのに気づいた。

 保存とか、しておいたほうがいいよね。


 詳しいことは分からないけど、できる限り保存して、お姉ちゃんが帰っていた時に、何か消えていた、とかならないようにしておきたい。


 マウスを動かすと、画面が灯る。

 ロック画面。


「柚子? 何してるんだ?」


 パソコンを使い始めた私を見て、お父さんが訊いてくる。


「スリープだったみたい。できるだけ、保存しとこうと思って」

「あぁ……そうか」


 お父さんが、後ろを向いた。

 娘のプライベートに気を遣ったのかも。

 

 パソコンからも、パスワードを要求される。

 0427で開いた。

 いや、全部パスワードが同じなのは、セキュリティ的にどうなの、とか、なんで自分のじゃなくて、私の誕生日なの、とか色々あるけど、それはとりあえずいいや。


 画面には、書きかけの絵。

 私に送ってくれた、写真のVtuberの絵ではなかった。

 別の絵を描いてた?

 でも、いつ……?


「あー!」

「!?」


 画面端から、何かが飛び出してきて、驚いて、チェアに体重をかけてしまった。

 あれ、これって、お姉ちゃんの言ってた……


「柚子ー! 見えてるー?」

「っ!? お姉ちゃん!?」


 聞こえてきたお姉ちゃんの声に、振り返る。

 でも、そこには、いきなり叫んだ私に驚いたのか、口を開けたお父さんとお母さんがいるだけ。

 幻聴……?


「こっちだってー!」

「蜜柑の声……?」

「パソコンから? あの子、自分の声を録音してたりしたの?」


 お父さんとお母さんがこちらに近づいてきて、画面を覗く。


「あ、お父さんとお母さんも! 久しぶりー!」

「おぉ……なんかすごいな」

「あの子ったら、どんな状況のもの録音してるのよ……」

「いや、録音じゃないってばー!」

「……お姉ちゃん……?」

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