第4話 もしかして……やばたにえん?

柚子Side



「んぁ……」


 目を覚ました。

 いつもはアラームで起されるような感じだから、休みの日の急かされない目覚めは気持ちがいい。

 というか、妙にポカポカしていると思ったら、お姉ちゃんに抱き着いて寝ていたらしい。

 筋肉がついていないからか、柔らかくて気持ちがいい。

 なんでこれで太らないのか、わからないけど。


 上半身を起こす。

 時計を見ると、8時半。

 ぐっすり寝たみたい。

 まあ、隣でこんだけ気持ちよさそうに寝て……


「……」


 相変わらず、寝息を立てているお姉ちゃん。

 部屋を見回しても、起きた形跡がない。

 もしかして……寝っぱなし?

 昨日から、一回も起きてないの?

 えー、丸一日起きないとか本当にあるんだ?

 私だったら絶対にお腹がすいたりで起きてしまう気がする。


「んーっあ」


 伸びをして、ベッドから降りる。

 お姉ちゃんに布団を掛け直して、朝ごはんを食べることにする。

 

 昨日一応、食パンも買ってきたから……

 カレーを少しのせて焼けばいいか、簡単だし。

 そのくらいなら貰っても、お姉ちゃんの分は残るはず。

 チーズも買ってきとけばよかったかな?



φφφ



「いや、寝過ぎじゃない……?」


 今は11時。

 することも無かったから、掃除の続きをしていたんだけど、その時に掃除機なんかもかけたりしたのに、全然起きる様子が無い。

 別に疲れてるなら、長い時間寝るのはいいんだけど、一回も起きないのは、健康的に大丈夫なの?


「お姉ちゃん?」


 身体を揺する。

 相変わらず気持ちよさそうに寝息を立ててる。

 鼻摘まめば起きるかな……?

 流石にかわいそう?


「お姉ちゃーん?」


 全然起きない。

 どれだけ深く寝てるの?


「お姉ちゃん」


 肩を軽く叩くけど、起きない。

 ビンタ、した方がいいかな?

 ぺちぺちと、ほっぺに触る。

 ……やわらか。

 左右に引っ張ってみる。

 子供みたい……いや、身体以外は前からそうだったかも。


 え、ほんとに起きない?

 無防備というか、ここまで行くと病気じゃない?

 寝てるとはいえ、ここまで顔に触られて起きないって……

 ちょっと心配になる。

 

「お姉ちゃん……?」


 少しずつ、揺する力を強めていったつもり、だったんだけど……

 いつまでも起きないお姉ちゃんに、私は、力いっぱい身体を揺すっていた。

 それでも、お姉ちゃんは、起きなかった。



φφφ



「うん……」

「じゃあ、私達、病院についていくから」

「……わかった」


 お姉ちゃんが起きない、ということを、お母さん達に伝えてから、更に数時間。

 そのあと、調べてみたら、脳疾患の可能性があるとかの検索結果が出てきたらしく、心配になった、お母さん達が病院に連絡。

 病院側に状況を説明すると、今すぐ救急車を向かわせるとの返答で、今さっき到着し、お姉ちゃんは運ばれていった。


 私もついていきたかったけど、ここで留守番をしていてほしいと。

 ただ、もしかしたらと思うことがあった。


 栄養ドリンク。

 あれ、あんなに飲んでいいものじゃないと思う。


 普段から飲んでるのかと思っていたし、お姉ちゃんも起きなかったから聞けなかったけど、いつもは飲んでいなかったら?

 もしくは、いつも以上に飲んでいたら……?

 今の私は、何もできない。



φφφ



 夜、お母さん達が戻ってきた。

 でも、お姉ちゃんはいない。


「どうだったの……?」

「それがなぁ……」

「ええ……」


 歯切れ悪そうにする二人。


「脳には異常が見られないそうだ」

「え……?」

「ただ、寝ているだけらしい」

「なんだ……よかった」


 ただの寝坊助だったのか。

 そう思ったんだけど、それなら、お姉ちゃんがいない理由、二人の表情の理由が分からない。


「じゃあ、お姉ちゃん、帰ってくるの?」

「……」

「え?」

「それがな……蜜柑はずっとノンレム睡眠の状態にあるらしい」


 ノンレム睡眠って、深く眠ってる状態だっけ。


「それは、ダメなの?」

「普通はノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返すらしいんだが……病院にいる間もレム睡眠になることがなかったらしくてな。更に詳しい検査をするために、入院が必要らしい」

「入院……」


 お姉ちゃんが……?

 精神的にはあんまり強くないかもだけど、今まで大きなけがもしたことなかったのに、いきなり入院……?

 少し、上の空になってしまった。


「だから、今から着替えとか持って、病院に戻らなきゃいけないんだ」

「え、あ……」

「柚子、お留守番、しといてくれる?」

「いっちゃだめ……?」


 情けない声が私の口から洩れてしまった。


「……そうね。じゃあ、着替えの用意してくれる? 私たちは、他に持っていくもの買ってくるから」

「うん……」


 二人は、また、出ていった。


 ここはお姉ちゃんの家。

 そこに、私は独り。

 とても……寂しく感じてしまう。

 それに、これは、恐怖。


 もし、私のせいだったら?

 私は、ただ寝ていると思って、お姉ちゃんを放っておいてしまった。

 もっと早い段階で、気づけていたら……


「だめだ……!」


 今はそんなこと考えている場合じゃない。

 着替え、用意、しないと……

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