第3話 すやすや

柚子Side



 本日の講義が終わったあと、お母さん達に連絡をして、お姉ちゃんの家に向かっていた。

 実際、会うのは久しぶりな気がする。

 さっき行くことをLINEで送ったんだけど、未読スルーされた。

 まあ、スルーとかじゃなくて、単純に見てないだけだろうけど。


 二駅しか離れていないけど、お母さんから、折角だから泊ってきなさいと言われて、納得して向かっているんだけど、本当はただ、様子を見に行ってきてほしい、だと思う。

 仕事が切羽詰まっていたりすると、部屋の片づけとかを後回しにする癖があるので、もしそうだったら片づけを手伝ってこい、ってこと。


 休日潰して姉の掃除の手伝いって、どうなの、とも思わなくもないけど。

 まあ、色々おごってくれるし、いいんだけど。


 そんなことを考えていたら、お姉ちゃんの住むマンションの下についた。

 パスワードを打ち込むと、ドアが開く。

 そのまま、姉の家に向かう。


 チャイムを鳴らすが、反応なし。

 LINEも……まだ読まれてない。

 電話かけるか。


 ……


 繋がらないし。

 もう一度チャイムを鳴らす。


「入るよー?」


 聞こえないだろうけど、一応、声をかける。

 バッグから鍵を出して、扉を開けた。


「お姉ちゃーん」


 返事が無い。

 結構大きめの声だったんだけど。


「入るよー?」


 寝ているんだろうか。

 玄関で靴を脱ぎ、上着を掛けた。


「お姉ちゃん?」


 玄関とリビングを隔てる扉を開く。


「やっぱり寝てるし……」


 お姉ちゃんは、テーブルに突っ伏していた。

 テーブルにはスマホも乗っていて、お姉ちゃんの右手はスマホを持っていた形のままだった。

 もしかしたら、私にLINEで送ってから、そのまま寝落ちしたのかもしれない。


 改めて見渡すと、これは酷い。

 栄養ドリンクの瓶が所狭しと置かれてる。

 しかも、全部蓋も開けれているし、どれだけの期間捨てていなかったんだろう?


「お姉ちゃん、起きてったら」


 寝息を立てているお姉ちゃんの顔は、疲労の跡が残っていた。

 しかたない。

 もう少し寝させてあげるか。

 来てすぐに片づけをするなんて思わなかったけど、することも無いし、さっさと終わらせてしまおう。

 まあ、瓶以外はちゃんとまとめてあったみたいだし、瓶も1種類だから分別する必要はないし、見た目よりは時間がかからないでしょ。



φφφ



「お姉ちゃん、ちょっと出てくるよー?」


 相変わらず寝息を立てているお姉ちゃんからは返事はない。

 動かすと起こしてしまうかもしれないから、そのまま突っ伏しているけど、一応、毛布だけ掛けておいた。

 エアコンもついているし、風邪をひいたりはしないでしょ。


 今向かっているのは、近所のスーパー。

 片付けの途中で、冷蔵庫の中を見たら、ほとんど何も残っていなかったので、食材を買い求めに外に出てきた。

 たまには作ってあげよう。

 お姉ちゃんよりはうまくできないかもしれないけれど、疲れているだろうし。



φφφ



「ただいまー?」


 気を遣って、小さな声で、帰宅を報告する。

 相変わらず、返事はなかった。


 リビングを覗くと、お姉ちゃんは、外に出た時と、一切変わらず、テーブルに突っ伏していた。

 どれだけ寝るの、って感じだけど。


 実家にいる時は、19時にごはんを食べてたんだけど、こっちではどうだったんだろ?

 そのままだったら、そろそろ作り始めていい時間なんだけど……


「……ま、いっか」


 作り始めちゃおう。

 起きるの待ってたら、いつになるかわからないし。


 お母さんにLINEで「お姉ちゃんねてる」と送ってから、早速作り始めた。

 お姉ちゃんは、子供のころからカレーが好きだったんだから、カレーにした。

 煮込んだりは……時間的にやろうと思えばできるのか。



φφφ



「お姉ちゃん?」


 まだ起きない。

 もう21時なんだけど……

 私は食べ終わってしまった。

 お姉ちゃんの分は鍋の中に残ってる。


「まだ起きないのー?」


 全然起きる気配ないし……

 そんなに疲れたのかな?

 先にお風呂入っちゃお。



φφφ



「もしかして、朝まで起きない感じ……?」


 お風呂からあがっても、お姉ちゃんは微動だにしていなかった。

 このまま起きないなら、流石にベッドに運んだ方がいいよね。


「お姉ちゃん?」

「zzz……」


 駄目っぽい。

 頑張って運びますか。


「よっ! っとぉ?」


 思ったより重い。

 力の入ってない人って、こんなに重いんだ……


 お姉ちゃんの腕を私の肩に回させて、ベッドまで運んだ。

 服もパジャマだし、これでよし。

 歯磨きをして、私も寝てしまおう。

 変な時間に起きるかもしれないから、カレーの事を紙に書いておいて、と。


 ベッドが一つしかないので、一緒に寝ることになる。

 広いから、別に寝苦しくもないんだけど。

 これだけ整った顔を見ると、姉とはいえ感じるものがある。

 えりちゃんも言ってたけど、モデルとか、なれば良かったのに。

 まあ、楽しんで仕事できてるみたいだし、いいんだけど。

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