第2話 ちょうぜつべりーかわいいいもうとちゃん

「だめだぁ……」


 決意から、約1か月。

 私は、魂が抜けてしまったかのようにテーブルに突っ伏していた。

 理由は明快、イラストの出来に納得できない。


 自慢だけれど、私の妹はめっちゃかわいい。

 どのくらいかわいいかというと、テレビに出てるモデルさんとかの100億万倍くらいかわいい。

 きっと、3大美人とかも目じゃない。

 柚子が一番上で、その3人は三天王みたいになったはず。


 目も大きくて、白目も綺麗。

 肌もぴっちぴちだし、もちもちほっぺだし。

 何より、すっぴんは可愛い系なのに、メイクするとすっごく艶っぽくなる。


 私と違って、努力してるのもすっごくかわいい。

 美容院とかにも頻繁に通ってるって聞いた。

 明るめの茶髪のショートボブがほんとに似合ってて、神様ありがとうって感じ。

 地毛の黒髪もかわいいんだけどね!


 そんな柚子を表現しようと、何度も描いたけれど、納得できない。

 くっそぉ……妹がかわいすぎるぅ!!



φφφ



「……」


 更に1か月。

 起きている時間のほとんどを費やしていた。

 周りには栄養ドリンクの瓶が散乱している。

 この前トイレに行くときに踏んで痛かったので、終わったら片づけたいと思う。


「……」


 画面から目を外し、机の上に置かれた手帳を手に取る。

 そこには、いろいろ雑な文字が書かれているけれど、それはどうでもいい。

 その中、私と柚子のツーショットの写真が入っている。

 これは、柚子が今の大学に入学した時に撮ったもの。

 大学も忙しいだろうし、最近は会いに行けてない。

 それどころか、LINEで会話すらしていない。

 前に、うっとおしいって怒られちゃったから。

 まあ、数時間に一回送られてきたら、面倒だよね。


「……やっぱりかわいいなぁ」


 これを撮ったカメラは、そこまで高性能なものでは無いと思う。

 でも、この写真の柚子を見た後では、私のいままでのイラストも色褪せて見える。

 もっと、頑張らないと。



φφφ



「……」


 更に1か月。

 注文して、さっき玄関に届いていたごはんを食べながら、私は画面を見ていた。

 できた……?


 勿論、キャラクター化してあるとはいえ、ほぼ柚子のような気もする。

 でも、これが多分、私にできる最高の出来。


 ようやく、完成した……っ!

 潤んでしまった目をこする。

 いい大人が恥ずかしい。


 そのまま、私は、LINEを開いた。

 画像は荒くなってしまうけど、柚子に伝えたかった。

 Vtuberのこと、私がそれをしようとしてること、今更だけど、勝手にモデルにしちゃってごめんね、ってことと、あと……



φφφ



柚子Side




 食堂で昼食を食べていると、LINEの通知音が鳴った。

 誰からだろうか?

 もしかしたら、土日と合わせて3連休にするために、金曜日を全休にしているみっちゃんが、暇で送ってきたのかもしれない、そう思って開いたんだけど。


「……」

「ゆず? 誰からだったん? あっ、もしかしてカレシとか~?」


 スマホを見て固まった私を見て、一緒に食べていた、えりちゃんが訊いてくる。

 

「前も行ったけど、彼氏なんていないってば」

「信じられな~い。それに、ゆずは隠れてカレシ作って、卒業してすぐに結婚しそう」


 えりちゃんが、カレーを口に運びながらそんなことを言う。

 失礼な。


「なにそれ。普通に姉からだし」

「ゆずってお姉ちゃんいたんだ?」

「ん、2つ上」

「きいてな~い」


 そういえば、話したことがなかった。

 ……昔はともかく、今はただ聞かれなかったからだけど。


「写真ないの、写真」

「あるけど……」

「やっぱ、ゆずに似て美人?」

「似てないけど」

「そうなん?」

「……こんな感じ」


 フォルダから姉の写真を探し、スマホを渡す。


「……うっわぁ……まじぃ?」

「まじ」

「えぇ……こりゃ神様は不公平だわ」

「……」


 きっと、えりちゃんの言っていることと、私の思っていることは、言葉は同じでも、意味が違う。


「ゆずにお姉さんもこれってことは、お母さんもめっちゃ美人だったりする?」

「普通じゃない?」

「ゆずの普通とか、なんのあてにもなんないじゃ~ん」


 スマホを返してもらいながら、私も自分のうどんを食べ始める。

 早く食べないとのびちゃうし。


「やっぱ、お姉さんってモデルとかやってんの?」

「あー、違うけど、あんま言えない」

「え? 人に言えない仕事……」

「そういうんじゃないから」


 そんなのやろうとしてるなら、絶対に止めてる。


「あ~、なんで神様ってウチも美人にしてくれなかったんだろ」

「えりちゃん……そんなこと言ったら、周りの女子に刺されるよ?」

「絶対にゆずには言われたくない」


 えりちゃんも、かなりもてる。

 1年の時から、カレシを作っては、いつの間にか別の人になっている。


「あれ、2歳差って言ってたっけ?」

「うん」

「美人姉妹とか、有名になりそうじゃん」

「なったよ」

「あー、やっぱ? そりゃあ、なるよねぇ」

「私はそこまでだったけど」

「え、あー……まぁ、このお姉さんじゃねぇ……」

「えりちゃん……?」

「はっ! ゆ、誘導尋問じゃん! いや、ゆずがかわいくないって言ってんじゃなくて! ほら……あれは別格じゃん?」

「私の姉をあれとか言わないでくれる?」


 同意だけど。

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