18

おじいちゃんの日記は達筆すぎて非常に読みにくいもので、さらに古い紙なので茶色がかっていて埃っぽく、妹が苦労して読んでいたのは一目でわかるものだった。

さらに日付が前後していたり、急に定規でマスを書いて診断書のような様式のページがあったり、メモが貼ってあったりで、日記というよりはサイズ以外常に携帯していた手帳のような雰囲気だった。

「これによるとおじいちゃんは戦時中親から引き離されて研究所にいたみたい」

妹の声はいつもよりトーンが低い。

「終戦したときおじいちゃんは12歳だった。そしてまだ研究所は戦争は終わってない、そう思ったのかおじいちゃんをしばらく研究所から出さなかった」

「ふーむ…」

「おじいちゃんは孤児だったみたいで生まれてから数ヶ月で千葉の南の方の、何らかの施設の前に置いていかれた

一応親にも「誰かにひきとってもらいたい」って気持ちはあったのかな…それでもひどいと思うけど…

そしてその施設の人がまだ立って歩けもしないこどもを拾って警察に届けようとしたのね…だけど…」

朝天造が両手をぐっと握って口元にあてて一旦黙った

俺は何も言えないまま、次の朝天造の言葉を待った

「おじいちゃん、寝てたからその施設に務める女性が抱っこしてたみたいなんだけど起きて、女性に噛みついたらしいの。まあこどもならよくあることでしょ?

噛まれた方は痛みでびっくりして取り落としそうになったみたいだけど、なんとか落とさずにすんだ。おじいちゃんのほうがむしろその腕にしがみついてチューチュー血を飲んでいたらしいの…」

一旦ゴクリとつばを飲んで朝天造は続けた

「その施設は表向きはこどもの心と体、頭脳の発育を促す研究をしている施設だった。だけど裏では世界に点在する特殊な体質を持つこどもを育てていたのよ」

そして手をもう一度本の方に戻し、付箋のついているページを見た。

「”目がさめたらおんなの腕の中だった。母だと思い血を吸ったら味が違ったので母ではないと思った。遠くで電話をかけようとしているおとこがいた

あとで思うとあのときなぜ電話だと思えたのかはわからない、初めて見る機械だった

そういう事はあると思う”

おじいちゃんの最初の記憶みたいよ」

「吸血鬼…」

俺はつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る