16
学校へ行った。
特に変わったことはない。
なんとなく授業に身が入らない。
午前の授業が終わった。
うちのクラスは時間割りと先生の兼合いなどから他のクラスより授業が進んでいるようで、午後の5時間目は自習となることとなった。金曜日だけ6時間目まであるのだが、英文法の時間で、俺の苦手な先生だった。予習しないとついていけない授業展開をするし、結局のところ丸暗記していくしかないようなものだ。文法なんてそんなもんだ。教える方も大変だろうが、教え方が気に食わない。
ふっ、と俺は寝たきりの父のことが気にかかり頭から離れなくなった。
なんだかお腹が空いて今日は一人で弁当を食い(今日もすばらしくおいしかった)
ふらっと誰かに「午後はエスケープする」と伝え、父の病院に行った。
父が入院している病院は電車で快速で2駅。歩いて行くには坂がエグく、自転車でもきつい。
途中実家を挟んでいるので一旦帰って荷物を置いてもよかったのだが、なんとなく母には悟られたくなく、そのまま徒歩15分頃の最寄り駅に走る。
ホームに行くとちょうど15分に一本の総武快速線が来ていた。
方向を確かめ、来ていた電車に飛び乗る。
電車で25分、特にやることがなかったので村上春樹を読んだ。
別にハルキストでもなんでもないが、羊男は好きだった。
あっというまというか、当たり前に日本の電車ほど正しいものもない、電車が止まって徒歩10分、某県立大学の付属病院に着いた。
受付で名前を告げると「どうぞ」と軽く通される。
父の名前が札に入ってる部屋はずっと変わらないので、間違えようもない。
そっとドアを開ける。薄いカーテンがかけられ仄暗い部屋にまず目に飛び込んで来たのは、朝天造の姿であった。
「朝天造!?」
「あ、え…?」
具合が悪いわけではなかったのか?
朝天造のほうが先に口を出した
「熱下がったし…やることなくて…なんとなく…」
「お、おう」
なんとなく気まずくなって、ふたりは「せ~の!」と言いながら一緒に父の体勢を変える。
こうやって頻繁に体位を変えないと、床ずれができてしまうのだ。
床ずれ防止は数時間おきに体位を変えなくてはいけないことはわかっているし、電動のベッドが動かしてくれる。父親についている看護師もよくやってくれていることはわかっている。だけどもう何年もこの状態だと、背中の皮膚はあまり状態が良いとは言えない。このまま朽ちていってしまうと思いたくない。
たまには自分たちで父親の皮膚に血が通っていることを感じたい、そう思う。
まだ、父は生きていることを信じたい。
一人でやるより楽なので、そこは朝天造と気があった。いい感じに父は右斜めを向き、体の至る所には管がつながっているので、気をつけながらも楽な姿勢にした。そしてシーツを伸ばし、羽毛布団をふっくらと上にかけておく。
うちの父は記憶もあいまいだが、体が小さくて白く、顔といえばなんだか母に似ていた記憶もあるが、一緒にいると顔が似るということもある。
今目をつぶっている父の目を開けた表情は、写真のほうが見た回数が多い。
「ふふっ」
朝天造が父の顔をみていると笑いかけてきた。
朝天造の笑顔がなによりうれしい
「おとうさん、なんとかなるといいね」
「ああ!」
ふたりがなぜか一緒に帰ってくるのを不思議におもわずおいしいおやつを用意してくれている母が家にいるのを二人は確信した。
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