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その日、いろいろゴタゴタしていたので13時半くらいに昼の食事が提供された。白身魚のあんかけ煮、姉が好きなので昨日からしこんであった角煮と煮玉子、イカと大根の煮たもの。どれもおいしい、いつもの母のご飯だ。
射躯羽ねぇは「ふぁ~~~~♥」と夢見がちな顔になっている。
うちの角煮は八角を結構入れてあって、こどもの頃は臭くて苦手だったが今ではくせになり、他の店の角煮は物足りない。姉が好きなのもわかる
「おいしいです」
ひろしさんもにこにこと食べている。
様子がおかしいのが朝天造だ。いつもなら喜んでパクパク食べ、一番に食べ終わり桃のゼリーを平らげ、他に残ったゼリーももう一つ食べてしまうくらい食べるのに、お茶碗に少なめに盛られたご飯もほとんど残っていて、ため息をついては少し何かを口にいれてもそ、もそと口を動かす。
「兄ぃの…ばか」
俺だけに聞こえる小さなつぶやきにビクッとしたが、朝天造はカッと目を開けるとご飯に角煮を載せてぐわっと一口に飲み込んだ。
「おかわり!」
(朝天造が復活した!?)
となりで何も言えずにいた俺はほっとして声を出して笑いそうになるのをこらえた。俺が変な行為をしていたのが原因かと思うと気が気ではなかったので、ギャップと安心感で笑ってしまいそうだったのだ。
やっぱり朝天造はこうじゃないと( ´◡` )
そして三角食べよろしくバランスよく食べ、約束通り桃のフルーツゼリーを食べている。
是清屋の桃のフルーツゼリーは白桃を贅沢に使っていて、果肉をすりおろしたものが入っている半透明のゼリー液に桃が浮かんでいる。絶品だ。10個に1個しか入ってない桃が俺も一番美味しいと思う。が、ゆずってやるのは 朝天造がこのゼリーを本当に本当に好きだからだ。
今日だけじゃない!たまには違うの食べるか~、っていってるとき以外は譲っている!
「俺にはマンゴーをくれ」
マンゴーも10個のうち、1つしかはいってないもので、是清屋の人気1,2位を争っている。マンゴーもたっぷりと果肉が使われ、しかし桃と違って甘さは抑えめだ。
2個目…射躯羽姉ちゃんは柑橘が好きなのでみかんだろう、ひろしさんはよくわからないが母はかわりもののスイカが好きだった。
「2つ目はキウイ!」
朝天造と俺が同時に言い放つ。
桃、マンゴー、キウイ、スイカは1個しか入っていない。あとはみかん、メロン、びわだ。びわは千葉の名産品でうちの木にもなっているのでお金をだして食べる感覚がなかった。
むっと視線を送ったが今日は弱みをにぎられているのだ…
「どうぞ!」
即座に譲った。
俺は意外と人気のないメロン(アンデスメロンだからな)を喰うことにした。
キウイのゼリーを食べながら朝天造が耳打ちしてくる
「あとで部屋に来て」
間違いない、先程の行為についてだろう。
「わかった」
食後の一休みと言わんばかりに部屋に帰るふりをして朝天造の部屋に入った。
ドアが隣同士なのでどちらにはいったかはわからない。
別に用心する意味はないが
とりあえず朝天造はベッドに座る。朝天造の定位置だ。
俺は朝天造のすぐ前のローテーブルに置かれた小さな座椅子にすわる。
「あのね…別にいやらしいとかじゃないの。偶然というか、必然だったのかも。私ももっと目を光らせておくべきだった」
朝天造は先程の行為についてなぜか反省している。
実のねーちゃんの母乳を飲むのは、変態行為じゃないのか?
非難されるつもりが、なぜか諭される雰囲気だ。
「なんでだよ?捨てろって言われた母乳飲んだの俺だろ?気持ち悪いだろ?
なんかあんのかよ?普通に気持ち悪い兄ぃって言えよ」
「違うのよ」
朝天造の目は机の上の分厚い本に向けられていた。
「兄ぃ、ひょっとしてあれ、飲みたくてたまらなくなりたくなかった?」
突然のハッキリとした指摘に俺はドキンとしたが正直にすぐ返事をした
「え?…ああ、そうだ。どうにかして飲もうとしていた」
なぜ朝天造がこんなことを知っている?
「うちは大昔はヴァンパイアの家系だったらしいのよ」
最近学校から帰って俺が羽を蹴ったり、穴のあいたボールで魔球を投げたりしているうちにずっと本を読んでいるのは知っていた。
が、何を言っているのだ…?
唐突すぎる。
「は???」
「最近、何か読んでたでしょ、私」
「ああ…」
「あれはおじいちゃんが残した日記なの」
朝天造の黄色い瞳は真剣そのものだ。
「ヴァンパイアっていうのは仮の名前、ただ便宜上そう呼ばれているだけで、いわゆるアニメとかにでてくるようなものじゃないの」
「う…うん」
朝天造の話を聞くしかない。
「血の提供を受ける、ってのがよくあるヴァンパイアの素養がある人のヴァンパイア化の条件だっていうことなんだけど、血飲むっていやでしょ?
最近はあの、男の人の……アレ、を飲んだり、汗とかでも十分らしいんだけど、汗も……男の人の、ちんちんから出るアレも……量飲むのがむずかしいし薄い人とかもいるから安定しないって……母乳が一番条件にあうんだよね、あれは血液とか汗に近いものだから。兄ぃ、200ml2本飲んだんだもんね」
「んじゃ俺はヴァンパイアになるんか」
「いったじゃない、便宜上って」
「おじいちゃんもそうだったのか」
「血は濃いと思うんよね、目赤いし」
朝天造は続ける「おじいちゃんの時代にはそうやって滅びていくいろんな家系を残そうといろんな試みが行われたらしいよ。狼男とか、特殊能力持っている家とか。血が残っている場合は注射されたりね、戦争に利用されようとしたのね……本当は射躯羽にも話聞きたかったんだけど……」
「射躯羽ねぇは一応おじいちゃん知ってるからな」
「射躯羽はヴァンパイア……えーいめんどくさい吸血鬼に近い種族、サキュバスらしいわよ。娘もなんだか色っぽいよね」
確かに娘の色気は大したものだった射躯羽ねぇの巨乳もサキュバス化したからなのか?
射躯羽と仲がいい朝天造だ、普通に聞けばいいのに、と思ってると
「う~ん……」
と朝天造は暗い顔をした。
「射躯羽はいいの。ひろしさんに話を聞かせたくないのよ」
「なんでだ」
「今は言えない」
朝天造の顔は一層暗くなった。
「ヴァンパイアのこともあとで説明するね、今は普通の兄妹で射躯羽と接しよう?」
俺はどうなってしまうのだろう……。
母親が「まだおやつあるわよー」と1Fから声をかけてくる
「はーい」
ふたりの声が揃った。
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