紳士
また森を歩き続ける。女と別れてから随分歩いた。まだ歩き疲れてはいない。
歪なほどに背が高く、上等な身なりをした紳士が数人、いつの間にか並走している。いつからともに歩いていたのかわからない。紳士たちはこちらへ向けて満面の笑みを浮かべながら歩いていた。
「お前らはなんだ」
「私たちは君の味方さ。」
「お前らなど知らない。消え失せろ」
「私たちは君の味方さ。」
「俺を見下すのはやめろ」
「私たちは君の味方さ。」
「くそやろう。もう好きにしやがれ」
紳士たちは笑顔のまま同じことを口走り続けた。気に留めず歩いていると、今までにない疲れを感じ始めた。
「お前らと歩くようになってから何故だか疲れる。」
「そうかい、それじゃあ、これを食べなさい」
「味方ということしか言えないのかと思っていたぞ。ああ、とうもろこしか、いただこう。」
「ああ、私たちは味方だろう?」
「そうだな。お前らは背が高くて歩きづらそうだ。」
「それがあるべき形なのさ。」
紳士たちが差し出したとうもろこしは、食せど食せど満たされなかった。その度に紳士たちは同じものを差し出してもっと食べろと催促する。とうもろこしを食べれば食べるほど紳士は肥え太り、数も増えていった。
「このとうもろこしはまったく腹が膨れない。そればかりかお前らは数も姿も膨れていく一方じゃないか。これは何かおかしいぞ」
「ああ、そのままとうもろこしを食い続けてくれ。」
「お前らのいう通りにしていたら、いつか私は痩せこけて死んでしまう。」
紳士共はにやにや顔のまま見下ろしていた。しかし食べることをやめられずにいる。このとうもろこしは満たされないどころか食べれば食べるほどに腹が減っている。もう動けないかもしれないというところまでとうもろこしを食べ少し立ち止まり自分の足元を見た。足元から無数のパイプが伸びている。そのパイプは今やどれだけいるともわからない紳士どもにつながっていた。
「おい、このパイプはなんだ」
「ああ、ずっと見上げていればいいものを」
「どうりで腹が減るはずだ。この貧相な体をどうしてくれる。」
紳士共は、俺と同じ背丈になって横に向かって一斉に走り出した。
一人になり足元を見ると、パイプは先程までと比べると太くもなく、数も少なくなっていたが、未だ、左右の森に広がり脈打っていた。
パイプの先でどの紳士につながっているかは定かではない。が、それを千切ることはできずにいた。
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